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第208回 厚労省ウォッチング
医療費の4兆円削減は「捕らぬ狸の皮算用」か

第208回 厚労省ウォッチング医療費の4兆円削減は「捕らぬ狸の皮算用」か

自民、公明両党と日本維新の会は社会保障改革に関し、2027年4月の新たな地域医療構想スタート時迄に全国の余剰病床を11万床削減する事で合意した。医療費を1兆円削減出来るとしている。しかし、現在不要の空き病床を減らしても医療費削減効果は小さい。入院期間の短縮を強化すれば在宅医療や介護保険の費用がかさむ。厚生労働省幹部は「『捕らぬ狸の皮算用』と迄は言わないが、現実味は薄い」と突き放す。

3党の実務者が病床削減で合意した6月6日。協議開始冒頭に維新の岩谷良平幹事長は「1兆円について先ずは合意させて頂いた」とアピール。参院選を睨み、現役世代の保険料軽減を旗印としたい思惑を覗かせた。只、会合後に記者会見した自民党の田村憲久元厚労相は「1兆円は(維新が)勝手におっしゃっている」と冷ややかで、自民党として責任の持てる数字ではない、との姿勢を滲ませた。

維新は「国民医療費を年間4兆円以上削減し、現役世代1人当たりの社会保険料を年間6万円引き下げる」と訴えてきた。少数与党下で苦心する自公両党は2月、維新の抱き込み策として、維新の主張を「念頭に置く」とした合意文書に署名し、3党で保険料軽減に向けた社会保障改革の協議を始めていた。

その4兆円削減の内の1兆円分を「病床の11万床削減」で達成するというのが維新の考えだ。一般病床1床当たり年間約2300万円分の医業収入が有る事等を踏まえると、27年4月までの約2年で約1兆4000億円の医療費削減に繋がるという。病床転換を実施する病院に1病棟当たり2000万円の給付をする等の所要経費に2年で約4800億円を要する為、差し引き約1兆円の削減になるとしている。

政権運営に野党の協力が欠かせない中、自公はこの維新の独自試算に関し、合意文で「一定の合理性の有る試算」と位置付ける事は受け入れた。それでも自民党幹部は「維新の顔を立てただけ」と言って憚らない。維新の関係者は「空き病床が有れば、無理にでも病床を埋めたくなるのが医療機関の経営者だ」と話すものの、政策に落とし込む側の厚労省幹部は「コスト削減有りき。11万床が本当に維新の言う『贅肉』なのか、検証が必要だ」と慎重姿勢を崩さない。

現在の地域医療構想で掲げる必要病床数は119万1000床。これに対し、23年10月1日時点の病床数は123万2000床(医療施設調査・病院報告の概況)で、余剰は4万1000床に留まる。「そもそも本当に不要の空き病床なら、試算の根拠とされた『一般病床1床当たり年間約2300万円の医業収入』等有り得ない」と、この幹部は説明する。

病床減によって医療スタッフも減る。コロナ禍では病床は有るのに人員不足から患者を受け入れられない事態が相次いだ。急性期病床を減らし、機能転換を進めれば入院単価を下げる事は可能だが、この方針は国の施策であるにも拘らず大きくは進んでいない。

自公維3党の実務者が合意した5日後の6月11日、3党の幹事長、政調会長は社会保障改革の方向性について正式に合意。11万床の病床削減や医療DXの加速化に加え維新が強く求めていた、市販薬と似ているのに医師の処方を要するOTC類似薬の公的医療保険からの除外に関しても合意し、骨太の方針に入れた。

但し、骨太の表記は「保険給付の在り方の見直しについて十分な検討を行う」と曖昧だ。日本医師会は「セーフティーネットの毀損を招く」と抵抗しており、どの薬を保険適用外とするかの線引きは難航必至。維新はOTC類似薬の見直しでも1兆円削減出来ると主張するが、実際は数千億円と見られ、「4兆円の削減など見果てぬ夢」(厚労省幹部)だと言う。

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