
「身じまい」を意識しながらも、家族の支援を期待出来ず、途方に暮れる身寄りの無い高齢者は少なくない。厚生労働省はこうした「おひとり様」を支える事業を新設し、金銭管理、病院・施設に入る際や死後の事務手続き等の支援に乗り出す。資力が無い人を支える狙いだ。しかし、同省内からも「ヒト、カネの問題をクリア出来るのか。機能するには課題が多い」(幹部)との懸念が漏れ聞えてくる。
厚労相の諮問機関、社会保障審議会の福祉部会は2025年12月15日に報告書を纏め、身寄りの無い高齢者、認知症や知的障害等で判断能力の不十分な人を対象とする支援策を提言した。公的な制度として、①金銭管理や重要書類の預かり②病院や施設に入る際の契約手続き③葬儀、家財処分の手続き——等を支援する、としている。
担い手は地域の社会福祉協議会やNPO法人を想定している。報告書を受け、厚労省は26年の通常国会に社会福祉法等の改正案を提出する意向だ。会合で同省の鹿沼均社会・援護局長は「今後50年、100年に繋がる礎となる様な、社会福祉の大変重要な内容だ」と力を込めた。
これ迄、高齢者の身じまいに関わる事は同居家族が担ってきた。だが未婚等による高齢単身者の増加に伴い、家族による支援は難しくなっている。手術に同意する意思表示が出来ず治療を受けられない、ゴミを捨てられず家がゴミ屋敷と化している、死後の手続きをする人がおらず無縁仏にせざるを得ない——。こうした事例は増え続けている。
国の推計では、独居高齢者は40年に1000万人を超す。又、日本総合研究所の調査では、配偶者や子供、3親等以内の親族がいない高齢者は現在、286万人(24年)で、50年には448万人まで増えるという。実際、身じまいの必要性を感じている中高年層は多い。或る地域の住民50〜85歳の住民2512人を対象とした同総研の調査(23年)では、「自分の病気や要介護、死亡時に周囲の人が手続きできるよう備えたいか」との問いに90・6%の人が「そう思う」「ややそう思う」と答えている。
だが一方で、身じまいへの備えをしているかと言えば、「日常生活に必要なこと」を他の人に依頼済みの人は7・5%、「亡くなった後の財産や家財の処分」を依頼済みの人は8・8%に留まる。厚労省は「このままでは老後に立ち行かなくなる人が続出する」として、新たな制度を作る事にした。
只、対策を議論してきた社保審の部会等でも委員から、現場の負担増、人材不足、財源等の懸念が示され、「利用が殺到し混乱しないか」「相続人とトラブルに発展しないか」といった疑問も次々出されていた。
同省社会・援護局幹部だったOBは「死後の事務対応には専門知識が必要だし、入院、入所手続きは緊急性を要する事が有る。各地の社会福祉協議会に即応出来る専門性を持った人材を十分確保出来るのか。又、その財源は何処に求めるのか」と話す。同省幹部はこうした懸念がある事は認めた上で「家族代わりではないので(サービスの範囲は)きっちり線引きする必要が有る」と言う。とは言え、線引き次第では高齢者側のニーズとずれ、「使えない制度」になってしまう可能性も残る。
同省の想定する制度は、低所得の人に「無償か低料金で」サービスを提供するものだ。しかし、公的支援も富裕層向けの民間サービスも受けられない中間層にとっても、身じまいは切実な問題だ。日本総研の試算によると、こうした「支援のはざま」にいる高齢者は2467万人、65歳以上人口の約68%に達する。日本総研は中間層の支援に繋がるビジネスモデルを模索しているが、未だ動き始めたばかりだ。


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