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課題はデジタル化の遅れと国内志向
しがらみと古い財政政策から脱却を

課題はデジタル化の遅れと国内志向しがらみと古い財政政策から脱却を
白井 さゆり(しらい・さゆり)1963年、東京都生まれ。89年慶應義塾大学大学院経済学研究科修士課程修了。93年米コロンビア大学経済学博士。国際通貨基金(IMF)エコノミストや日本銀行政策委員会審議委員等を経て、2016年から慶應義塾大学総合政策学部教授。
——現在、日本にとって最も重要な国際経済上の課題は何だとお考えでしょうか。

白井 日本では、ウクライナ戦争や中東情勢、又、年初の米国によるベネズエラへの軍事行動といった地政学リスクに注目が集まりがちですが、経済の観点から見れば、より本質的なのはアジアを中心としたグローバル・サプライチェーンの行方です。とりわけ、中国やインド、ASEAN諸国を含むアジア経済圏が、今後どの様に再編されていくのかは、日本経済に直接的な影響を与えます。現在、米国の通商政策や関税措置を背景に、世界では経済統合の形が揺れ動いています。その中で、日本は今後、どの市場とどう関わり、どの分野で存在感を発揮していくのかという視点が不可欠です。国内の政策議論も、こうした国際経済の大きな流れを踏まえた上で行わなければ、現実との乖離が生じてしまうでしょう。

——高市早苗政権の財政政策をどう見ていますか。

白井 補正予算や税制改正によって物価高対策に取り組んでいるとされていますが、政策の焦点は必ずしも明確ではありません。日本では2022年以降、2%を超えるインフレが続き、20年1月と25年11月を比べると、物価は全体で13%上昇しています。中でも食料品は28%と上昇幅が大きく、現在のインフレ対策で最も重視すべき分野です。一方で、エネルギー価格は補助金の影響も有り上昇率は10%程度に抑えられている。にも拘らず今回の政策は、食料品価格の上昇に直接向き合う内容にはなっていません。本来であれば、食料品の消費税率を一定期間引き下げる等、より直接的な対策を検討すべきでしょう。その際、地方財政や社会保障への影響が生じるのであれば、その点も含めて議論すべきです。国民生活に与える影響の大きさを踏まえると、現行の対策で十分が効果が期待出来るとは言い難いでしょう。

——大型規模の補正予算とされていますが、その内容や実効性について、どの様に評価されますか。

白井 減税分を含めて総額21兆円とされていますが、中身を見ると、直ちに実行出来ない施策や、財源が明確でないものも少なくありません。金額の大きさがそのまま実効性を意味する訳ではなく、政策効果には疑問が残ります。仮に11兆円もの国債を発行するのであれば、食料品の消費税率を一定期間ゼロにするといった、より直接的な物価対策も選択肢になり得た筈です。必要な財源は6兆円程度で足ります。様々な施策を積み上げて総額を大きく見せる手法は、現在の経済環境に必ずしも適合しているとは言えません。物価対策と直接関係の無い施策まで含めて「総合経済対策」とする手法が、実質的な物価対策として受け止められているかは慎重に検証する必要が有るでしょう。

——減税については評価出来ますか。

白井 税制改革では年収の壁の引き上げや住宅ローン減税の拡充が示されていますが、その一方で社会保険料の負担は増えています。この為、手取りが増えたという実感を持つ人は多くないでしょう。税収の上振れ分を減税や経済対策に充てるとされていますが、税収が増えている主因はインフレです。生活が豊かになった結果ではなく、物価上昇によって消費税収が増え、名目賃金の上昇に伴って所得税負担も増えているに過ぎません。結果として、減税と言っても、実際には増えた税負担を一部戻しているだけとも言えます。この進め方で良いのか、疑問を抱いている人は少なくないと思います。

——「年収の壁」の引き上げも合意に至りました。

白井 税を負担しない人を増やすという点では、短期的な効果は有るかも知れませんが、その為に労働時間を調整する行動を助長するのは、根本的な改革とは言えません。重要なのは、各々の所得に応じた税負担で社会を支え合う仕組みであり、収入が増える程社会保険料の負担が重くなる現在の構造そのものを見直す必要が有ります。教育政策についても同様で、単に高校や大学を無償化するかどうかという議論に留まらず、将来の産業構造や人材需要を見据えた設計が求められます。仮に公的資源を重点的に投じるのであれば、高等専門学校への進学やAI・データサイエンス等の理系分野を学ぶ学生への支援を優先的に手厚くする方が、政策効果は高いのではないでしょうか。

デジタル化で後れを取る日本

——高市政権の経済対策では不十分なのでしょうか。

白井 高市首相の発信力には期待しています。その発信力を、様々な改革の為に発揮して欲しい。だからこそ、今の財政の枠組みにも変革を期待します。アベノミクスの頃とは違い、予算規模が大きければ良いという考えでは国民の信頼を得られません。政策を行う事で、社会保険料の負担を含め、手取りがどうなるのかを示す必要が有る。政策の透明性を高める事が不可欠だと思います。


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