
政治家の影もちらつく医師仲介ビジネスの闇
産業医制度の根幹が揺らいでいる。或る産業医関係者によれば、医師紹介大手発の案件に「月1回30分、リモート対応、報酬4000円」なるものが有ったという。一見すると短時間で割の良い業務の様にも見えるが、問題は報酬水準の異常な低さと仲介手数料の構造に有る。
産業医業務の報酬相場は地域や内容にもよるが、一般的には毎月の訪問(60分)で4〜5万円前後。これと比べれば、今回提示された金額は凡そ7分の1以下。医師の専門性や責任を考えれば、到底受け入れられない水準だ。
本来、産業医の訪問は労働安全衛生法に基づく実地巡視が原則であり、五感を使った作業環境の評価が求められている。だが、現場を訪れず、企業提供の資料だけで判断する完全リモートの実態は、制度の主旨を損なうものに他ならない。加えてこの案件では、トライアル期間と称して3カ月間の業務委託契約が結ばれ、継続可否は企業の判断に委ねられる。形式上は業務委託でも、実態は指揮命令下での勤務に近く、偽装請負に当たる可能性も否定出来ない。
或る嘱託産業医は、こう警鐘を鳴らす。
「ここ10年で産業医委託業者が急増し、価格競争は過熱している。報酬は10年前の5分の1になり、ベテラン産業医は現場を去って、経験の浅い医師ばかりが残されている。結果、産業保健の水準は明らかに低下した」
低価格で契約を結びたい中小企業にとって、こうした構造の変化は一見魅力的に映る。しかし裏を返せば、労働者の健康管理という企業責任が、名ばかりの制度に委ねられているという事でもある。
制度の信頼性を保つには、「安さの裏に何が有るか」を見抜く目が要る。仲介業者は医療の質より量で利ざやを稼ぎ、制度の抜け道を商売に変えている。コンプライアンスを掲げるのであれば、こうした仕組みに乗る事は自らの足元を崩し兼ねない。結局のところ、健康を守る制度は何時の間にか、業者の財布を守る仕組みになっている。
筋トレブームの裏に潜む身体変容の代償
近年の筋トレブームの中で、ボディビル界に於ける健康リスクが浮き彫りになっている。2021年には国内外で20人以上のプロアスリートが突然死に見舞われたと報告され、最年少は僅か27歳であった。極端な減量や高負荷トレーニング、そしてアナボリックステロイド等の薬物使用が影響している可能性が指摘されている。
ボディビルダーの診療経験が有る医療関係者によると、「脱水、心不全、心筋梗塞を発症する症例を多数経験してきた。健康リスクを正しく伝える必要が有ると実感している。加えて、実数は不明だが、自殺者も多い様にも感じる」との事で、突然死だけでなく精神面でも懸念が有るという。この他、「過剰なタンパク質摂取やプロテインの大量使用はリスク要因の1つであり、その様な行為が発症を引き起こしたのではないか」と語る医療関係者もいる。
過去の事例として、日本のボディビル界で伝説的な存在だったマッスル北村こと北村克己氏は、00年8月に39歳の若さで急逝した。 関係者によれば、極端な減量中に心臓発作を起こし、死因は公式には低血糖による心不全とされているものの、背後には過剰なトレーニングや利尿剤・ホルモン剤の使用が影響していたと考えられている。ボディビル界では、他のスポーツ同様にドーピングは禁止されるべきとの声も有るが、実際にはステロイド使用者が“ユーザー”という婉曲表現で呼ばれ、誰も明確に指摘せず、事実上野放し状態となっている。専門家は、筋肉増強の為の極端な行為や薬物の使用が心臓や腎臓に与える影響を懸念し、将来的な健康被害を防ぐには規制強化と教育の徹底が不可欠と指摘する。
同時に、医療機関やスポーツ団体が連携し、選手の安全を確保する取り組みが求められる。極端な身体変容を追求する事の代償について、社会全体で認識を深める必要が有るだろう。
筋肉は裏切らない──そう言われてきたが、裏切るのはどうやら心臓と腎臓の方だった様だ。


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