
有報総会前開示で変わる株主総会の地殻変動
加藤勝信財務大臣が3月に発出した有価証券報告書の株主総会前開示を巡る議論が本格化し、企業のIR担当者が戦々恐々としている。どうやら長年続いたシャンシャン総会——6月集中開催の慣行と共に、株主総会の「在り方」が変わりつつある様なのだ。
先ず変革に踏み切ったのが、半導体企業のアドバンテストだ。議決権基準日を3月31日から5月15日に変更、総会を7月下旬から8月上旬にずらす方針を決めた。背景には海外の機関投資家らが組織する国際コーポレートガバナンス・ネットワーク(ICGN)が22年、「日本は世界で唯一、年次報告書が総会前に出ない市場」と金融庁に指摘した事等が在る。
一方で企業側の事情は変化を阻む。「6月総会を維持しつつ早期の有報開示なんて、物理的に不可能。監査法人のスケジュールもパンクする」と東証プライム上場企業の経営企画担当者は嘆く。それでも「モノ言う株主」の圧力は止まらない。「昔の総会屋は〝お車代〟を貰えば引き下がった。今のアクティビストは情報開示の不備を材料に経営陣を攻撃してくる。次元が違う」。ある証券関係者は苦笑する。
政策保有株式の縮減状況や役員報酬の詳細──機関投資家が議決権行使で重視する情報は、全て有報に記載されている。オリンパスでは薬物問題で辞任した元CEOへの3億3000万円の報酬支払いが総会7日前に発覚したが、「時既に遅し」の典型例だった。「機関投資家のスチュワードシップ責任を果たすには、少なくとも3週間前の開示が必要。でも1週間以上前に開示する企業はほんの僅かしかない」。議決権行使助言会社の幹部は現状に危機感を募らせる。
日経平均が4万4000円の史上最高値圏で推移し、個人を含めた投資家の分母が増加する中、株主の目はますます厳しくなっている。企業には、シャンシャン総会の大団円ではなく、真の情報開示と対話が求められる。「慣行に甘えていた6月開催という聖域が、遂に変化の波に晒されている」──金融庁OBの言葉が、新時代の到来を告げている。
万博の次はカジノですって?
開幕前には「人が来ない」「大赤字必至」と言われていた大阪・関西万博。前売りチケットの売り上げは970万枚に留まり、目標の2300万枚や来場目標2820万人は絵空事かと思われていた。実際、初日の来場者は約14・6万人、翌日には7万人に激減。1日平均15万人という〝理想〟からは大きく乖離していた。
ところがその後、約4カ月で状況が変化。折り返し地点を迎えた6月28日には一般来場者が17・7万人と過去最高を記録し、6月1カ月間の1日平均来場者数は約13万人に達した。
収支の損益分岐点は、チケット販売1800万枚が運営費回収のラインとされ8月にようやく達成は叶ったものの、閉幕後も施設の解体・撤去作業が待っており、最終的な損益は会期が終わり全ての精算が終わらないと見通しは不透明だ。
そんな〝錬金術未達〟状態にも拘らず、関西の事情通がニヤリと漏らす。「万博の成功はIR(統合型リゾート=カジノ)の前振りに過ぎない」と。確かに、万博という国家プロジェクトの盛り上がりで「夢洲への道はいい感じだぞ」とアピール出来たのだから、関西財界としては悪くない布石なのかも知れない。
只、入場者1日平均13万人前後でギリギリ回している様な状況で、その足でカジノに飛び付くのは、寧ろ「本物の博打」ではないのか。現場関係者によれば「万博は滑り出しは良かった様に見えるが、実際は赤字の欠片を隠しながら回しているだけ。次を賭けにいくなら、それこそ本当のギャンブルだ」と口さがない噂も聞こえる。
「いのち輝く」「未来をデザイン」といったスローガンの言葉は立派だ。しかし、実際には幕間のショーに翻弄される群衆と、帳簿に泣く運営スタッフ。
次の舞台の幕開けである「カジノ」は、果たして光輝く未来なのか、只の最後の賭けなのか。国民の注目も、どうやら〝ディーラーが誰か〟の方へ移りつつある様だ。
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