
実を結びつつある東証市場改革
2025年前半の金融市場を振り返ると、株式市場を中心として世界的にアメリカの相互関税政策に振り回されて、トランプ大統領の発言に一喜一憂した感が強かった。だが、株式市場について言えば、急落場面を挟みながらも、折り返し地点の段階で日経平均は24年7月に付けた史上最高値に接近。尚、不透明感は残るものの、一時期懸念されていた株式市場は、大波乱となるどころか、株価上昇が期待出来る程の状況になっている。
今年前半を振り返りつつ、25年後半の金融市場の展望について探ってみたい。
トランプ氏は秩序破壊する革命家ではなかった
25年前半に於いて、最もマーケットに大きな影響を及ぼした材料と言えば、米国による相互関税である事は間違い無いだろう。トランプ大統領が再就任した1月以降、常に相場を動かす材料として注目されてきたのはトランプ氏の発言。とりわけ、4月に各国の関税率を公表した際には、その数値に衝撃的なものが多かった為、世界中の株式市場が大波乱に見舞われた。
関税実施は保護主義そのものであるに等しく、各国の対米貿易が阻害されるのは言う迄も無いだろう。当初提示された日本の24%を始めとする国別トランプ関税の税率は暴挙とも言えるもので、さすがに額面通りに執行される事は無く、交渉の為に3カ月間延期された。
実際に当初の通りの税率が適用され、報復関税が課せられたなら、米国を含めて世界的に物価が高騰し、深刻な不況が訪れていただろう。又、トランプ大統領は、戦後の自由主義諸国が培ってきた秩序を破壊して、世界の体制を変えた革命家として後世に名を残していた可能性が有る。
しかし、実際にはそうはなっていない。一部の国や地域とは朝令暮改とも言える速さ関税率の引き下げを示唆したが、全体的には直ぐに一時停止された。各国との交渉から推測すると、トランプ氏は秩序を破壊する革命家ではなく、高所から落とし所を探す「ディール」をしているだけだった。秩序を破壊するのであれば、4月以降も株価は下げ続けただろうが、そうならずに反転し、日本も含めて、多くの国の株価は相互関税以前の水準を上回ってきた。
関税問題に於いて関心が集まった米中関係についても、関税引き上げ合戦という深刻な状態にはなっていない。トランプ政権の1期目では米中摩擦が株式市場にダメージを与えたが、今回は軽微な影響だけで終わっている。中国叩きが最終的な目標だとの見方は残っているものの、この半年間に限れば、米中関係が市場に及ぼした影響は大きくなかった。
一方、地政学リスクに関して考慮しなければならないのは、先ず、ロシアによるウクライナ侵攻だが、材料として大きくクローズアップされなくなった感が強い。イスラエルやアメリカによるイラン核施設攻撃も直ぐに収束の方向に向かった為、ウクライナ侵攻の初期に見られた様な原油価格の急騰、インフレ加速といった事態にはならなかった。もし原油急騰となれば、石油を輸入に頼っている日本は、ガソリン価格の上昇等物価に深刻な影響が出る。ある意味、日本経済は侵攻の早期収束に助けられたとも言える。
環境不透明感残る中での日経平均4万円回復
関税問題が解決していないにも拘らず、世界的に株価は修復に向かい、相互関税の一時停止の期限である7月9日を前に日本の株式市場では日経平均が4万円を回復すると共に年初来高値を更新。24年7月11日に付けた史上最高値である4万2224円に接近してきた。
個別に業界や企業を見ていくと、相互関税の影響の度合いには差が有ると見られ、日経平均、TOPIXといった指数ではなく、銘柄別に動きに違いが有る。関税の影響が直接的に及ばない内需関連株に年初来高値を更新する銘柄が多い一方で、輸出関連株では直近の高値に距離を置く銘柄が多い。
最近の動きの中では、半導体関連株が堅調であり、日経平均4万円回復の原動力となった。関税問題が有ろうが無かろうが、著しい伸びを示している生成AIが今後も成長していくと見られる為、相場全体が落ち着きを取り戻すと共に、生成AIに関連する銘柄を中心に買われたのである。
この他注目したいのは、防衛関連株が高値更新中になっている事だ。従前より米国から増額を迫られている防衛費は、トランプ政権になってから増加させようとする圧力が増している。これは日米関税交渉に於いても日本側の取引材料になる可能性も有る。何よりも、防衛は究極の内需関連産業であり、関税や円高の直接的な影響を受け難い。今後の国内株式市場を展望する上で有望な対象となるだろう。
今後の国内要因について推察すると、嘗て日本の貿易黒字が槍玉に挙がったプラザ合意以前の80年代半ばの経済情勢が連想されるが、当時と同様、内需型へのシフトが進むか否かが注目点となる。これ迄の株価も、将来的にそうした政策が打ち出されるとの期待が込められていたのかも知れない。
又、株価に影響を及ぼす金利動向だが、関税問題による景気への影響が見極められる迄は、日銀が再度の利上げに踏み切る事は無いだろう。それは極端な円高を引き起こす事が無いと同時に、株価にとってもプラス材料になる。
こうした点を踏まえて、25年後半の株式相場は、現在発表中の3月期決算企業の第1四半期決算に於いて、企業が関税問題をどう織り込むかが重要で、業績見通しが大きく悪化する事が無い限り、株価が崩れる事は無さそうだ。
配当金再投資、企業の株主還元積極化が株高促す
最近の日本株について、少し冷静になって考えてみよう。相互関税の影響が読み切れない、物価高が鎮静化したとは言えない、政局不安が有り、政策の方向が読めない──と、正に「無い無い」尽くしで、明確な株価上昇の理由が見当たらない。どうして最高値に接近する迄株価が上昇したのか、環境面だけでは説明が付かなくなっている。
6月後半の上昇に関しては、中東情勢の緊迫化が和らいだ為との解説が為されているが、日本経済にダメージを及ぼす前に解決に向かった事が、これ程株価上昇の材料になるのかという疑問は残る。
株式市場の需給面も考慮して分析を試みると、投信等大口のファンドによる配当金の再投資が上昇の背景に有るという。3月期決算企業の場合、株主総会が行われる6月頃に配当金が株主の手許に届く。しかしこれを大口のファンドは分配金に回さず、新株購入資金に回す為、株価が上昇するというのだ。
東京証券取引所の市場改革もあって、最近では株主還元に積極的でない企業は、プライム市場での上場維持が難しくなっている。その為、各企業は利益が出た場合、配当金を増額して株主に出来る限り応えようとしている。しかしそれらは投資家の懐に入らずに市場に再流入して株価上昇を引き起こしているだけなのだ。言わば、市場改革が不透明感を残しながらも実を結んでいる結果と言えなくもない。
25年後半の見通しでも、余程環境が悪化しない限り、再投資される配当金の増加や、売りを吸収してしまう自社株買いの活発化、企業側の株主優遇の姿勢等、堅調な相場を想定する事が出来る。株価の上昇を意識しながら、形振り構わず、株主還元に積極的に動く企業が少なく無いからだ。
例としてプライム市場上場企業の1つであるニーズウェルの「6600作戦」が注目された。これは同社がプライム市場の上場維持基準である流通株式時価総額100億円を達成する為に24年12月に発表した作戦である。25年6月迄に作戦名の由来でもある600円迄引き上げようとしたが、6月末の終値は506円で目標達成には至らなかった。ここ迄露骨では無いにせよ、こうした動きは今後も活発化していくものと予想される。
25年後半の株式市場は、不透明な部分が多いものの市場改革が進んでいる為、多少の悪材料が出た程度なら、びくともしない様な底堅い地合いが継続しそうだ。
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