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トランプ後の世界で日本はどうなる
リスクを負って成長を目指す覚悟を

トランプ後の世界で日本はどうなるリスクを負って成長を目指す覚悟を
三浦 瑠麗(みうら・るり)
1980年神奈川県生まれ。2010年東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了、国際政治学博士。 15年に独立系シンクタンク「山猫総合研究所」設立。17年フジサンケイグループ正論新風賞受賞。現在、学究社社外取締役等を務める。

今年1月の米トランプ大統領の就任以来、世界は彼が口を開く度に大きく揺れ動いている。トランプ関税への対応で各国は様々な動きを見せ、ロシアによるウクライナ侵攻も、大きく状況が変わりつつある。日本も今後、関税交渉だけでなく防衛力や中国との関係等、トランプ大統領の政策への対応が大きな政治課題となるだろう。トランプ政権との向き合い方を含め、不確実性が増していると言われる現状に日本はどの様に対応していけば良いのか。第1次トランプ政権時に「トランプ現象」の分析で注目を集めた国際政治学者で山猫総合研究所代表の三浦瑠麗氏に、世界情勢と日本の今後の社会の在り方等について話を聞いた。


——2017年の第1次トランプ政権の発足時、『「トランプ時代」の新世界秩序』(潮出版社)を上梓し、いち早く「トランプ現象」を読み解かれました。

三浦 15年にトランプ氏が登場して不法移民への急進的なバッシングを展開し始めた時、日本人は「彼が大統領に就任したら大変な事になる」と過剰に反応しました。しかし、それがどういう事であるのか、メディアも政治家も正確なところは分析が出来ておらず、ざっくりとした理解だけで議論が進んでいました。この事態は今に至る迄変わっていません。そろそろ、トランプ政権について本気で受け止め、理解しなければならないと思います。

——そのトランプ大統領が再選しましたが、これを受け、日本の外交戦略はどうあるべきでしょうか。

三浦 基本的にトランプ大統領の貿易戦争は中国がメインターゲットで、保護貿易にシフトするというメッセージもかなり込められています。日本から見れば、未だ妥協の余地が有ると思います。それは日本が米国にとって重要な同盟国であるからで、安全保障上、中国より先に交渉を纏めなくてはならない。そうした意味では割と強気な交渉も可能でしょう。只、日本も今回の関税交渉を契機に不合理な事は見直していく必要が有ります。例えば、今、米の価格が非常に高騰していますが、これは、需要予測を政府が見誤ったのが原因です。減反政策の結果だと言われますが、実際はコロナ禍で米の生産を止めてしまった高齢の農家も多い。一方で、ファミリーレストラン等外食産業では米国産米が非常に人気で、米の輸入をもっと増やせる余地が有る。そうした日本にも利が有る事を組み合わせて交渉を行っていくべきです。又、台湾の頼清徳総統が日本経済新聞のインタビューで「トランプ政権からの外圧を跳ね返すには、米国への直接投資が欠かせない」と言っていましたが、これは正しい認識です。日本も自動車産業や鉄鋼の問題が有りますが、賢く実利を取り、同盟国として絆を強固にする様な形で投資を拡大していく事が肝要でしょう。

——米国との関係も見直さなくてはならない。

三浦 戦前の日本は非常に優秀な国家でしたが、資源が乏しく輸出入を必要とした為、ブロック経済体制によって生存が脅かされる状況に陥った。しかし、戦後は米国が提供してきた自由貿易体制や、強いドルの購買力に守られる様にして、成長を遂げてきました。今、日本は自分達の繁栄が、米国による自由貿易や防衛の提供を前提としていたのだという事に漸く気付いたのだと思います。今後は、米国が21世紀も引き続いて覇権を握り続けるにはどうすべきなのかを考えなければならない。特にAIについては、中国がAIで覇権を握るより米国が握った方が、日本にとっては利益が大きいという立場で米国との関係を考えた方が良いと思います。

——バイデン政権とトランプ政権の対日外交の本質的な違いは何でしょうか?

三浦 バイデン政権が長期的視野で国益を考えたのに対し、トランプ政権の視野は短期的です。米大統領の任期は4年ですから、基本的に任期中に出来る事を重視しますが、その中でもトランプ大統領は短期的な傾向が強い。今回の関税戦争でも特徴がよく現れていて、所謂「ディール」によって不平等や不正を正そうとしています。それを、財政逼迫や社会保障の問題の解決の為に関税を利用している面も有る。只、それを続けていくと、米ドルの力が長期的に低下していきます。そうした長期の時間軸で政策を考えていたのがバイデン政権だとすると、トランプ政権は本当に1〜2年先しか見ていないのではないかと思います。

——それでもトランプ政権は人気が有ります。

三浦 振り返ってみると、冷戦後のクリントン大統領は国内重視で政策を進め、ITバブルが花開いた。その後のブッシュ大統領は9・11テロが起きた事も有って、対テロ戦争の大統領になった。続くオバマ大統領の時代には中国との対峙が始まり、国内的にはITバブル後の貧富の格差に直面した。この時、貧富の格差の解消に取り組めば良かったのですが、多様性に進んでしまった。これによって中産階級への支援を後回しにしてDEI政策が推進され、中産階級としては順番を抜かされた様な気分になって不満を募らせてしまった。こうして考えると、多様性に懐疑的なトランプ政権が中産階級から人気が高いのも、歴史的には必然的な事だと思います。

——米中の緊張が続く中、日本はどの様な外交的立場を取るべきでしょうか?

三浦 中国は、必ず日米同盟の間に楔を打ち込もうとしてくる為、それには抗わなければならないでしょう。しかし、中国と縁を切ったり経済関係を低下させたりすれば、日本は利用価値の無い、単なる米国の手先として見られる。米中の問題は、本当に互いに衝突へ向かう危険が有る事です。今の政権は何をしたいのかが明確ではない。安倍政権は反中政権だと言われましたが寧ろ逆で、中国から見れば非常に話し易い政権だった。何故なら、互いにリアリズムでぶつかり合い、話し合いで物事を進められたからです。それ以降の政権は、中国と仲良くしたいと言うばかりで、何をしたいのか全く伝わってこない。そこが世界を俯瞰した安倍外交と、ウクライナ戦争後の完全なアメリカ一本足外交との違いでしょう。


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