
自民党出産議連の首相への提言
2025年4月22日の毎日新聞掲載記事「『お財布のいらない出産』自民議連が首相に提言 自己負担軽減求める」によると、自民党の「出産費用等の負担軽減を進める議員連盟」(会長・小渕優子組織運動本部長)は石破茂首相に提言書を提出し、出産時の自己負担をなくす「お財布のいらない出産」の実現を求めた。政府が検討中の出産への公的保険適用において、標準的な出産で自己負担が生じないよう要請し、石破首相は「負担を減らすための政策を講じていきたい」と応じたという。
現在、正常分娩の保険化が着々と進んでいる。引き延ばしを模索している勢力もあるが、その勢力はそう多くのことは望めないであろう。当初予定通りに26年4月から実施することも可能な状況に至っていると言ってよい。その際に、疾病又は負傷に関する「療養の給付」(健康保険法)とは異なる法概念は、何という名前のどのような内容のものにすべきであろうか。まだそのことに言及する者はいないように見える。そこで、その趣旨・内容を明らかにしつつ、「助産の給付」という法概念を提言したい。
問題の所在
まずは、24年12月11日付け厚労省第6回「妊娠・出産・産後における妊産婦等の支援策等に関する検討会」議事録より前田津紀夫構成員の発言を引用する。
「現在の分娩費の構成というのは、助産師の活躍に対して専用請求書の欄に何も書くところがないのです。どうやって助産師の活躍を評価してあげたらいいかというと、これは分娩費ということになるわけです。ところが、保険の議論になったときに、まさにおっしゃったとおり、助産師の活躍をどのように点数で評価するのか。今までは看護師の体制などを、病棟に何人いるから少し高くなるとか、そういうふうな形でしたけれども、実際にはそんなものでは済まないです。ほとんどタスクシェアをしておりますので、あるいは、ほとんどタスクシフトをしていると言ってもいいぐらいです。ですから、分娩費の多くは助産師の活躍によってなされているわけです」
つまり、正常分娩は、そのほとんどがタスクシフトされていて、正常分娩の介助とはいわば「助産師の行為」と言ってよいということである。
続いて前田構成員は、次のように結論づけている。「それを、なぜ現物給付化できるかというのは不思議で仕方がない。そういう議論があること自体が、私は不思議で仕方がありません。お産の現場を知っている人間なら誰しもそう思うと思いますが、これは、療養の給付とは全く別の概念で考えていただかないと、いくら医療機関が提供しているからといっても、療養の給付と分娩は全く違います」
つまり、「療養の給付」と正常分娩における現物給付とは、概念が全く異なるというのである。確かにそのとおりであろう。
量的な行為評価から質的な結果評価へ
もともと「療養の給付」は、出産においては原則として、「異常分娩」での医療行為を個々の医療行為に分割して量的に積み上げていく「出来高払い」のような法概念であった。そのような法概念や方式に馴れてしまったため、前田構成員にとっては、「正常分娩の保険化」(分娩介助の標準化、助産の給付)が理解しにくかったのであろう。
そもそも正常分娩は今まで、そのほとんどが助産師にタスクシフトされており、産科医師が現実的・実質的に果たす役割が小さくなっていたのである。そして、その助産師の分娩介助たるや、医療行為とは異なり、連続した不可分一体の行為であって、それを1つ1つの行為に細分化するのは適切な所為ではない。つまり、量的な行為評価から質的な結果評価へと移行していくと言えよう。
正常分娩に関して助産所で提供されているケア内容
助産師の具体的な分娩介助は、髙田昌代構成員の発言(24年8月1日付け厚労省第2回「妊娠・出産・産後における妊産婦等の支援策等に関する検討会」議事録より)が分かりやすい。
「助産所では、家庭的でプライバシーに配慮できる環境、例えばリラックスできる環境は、音や光に配慮し、周りにいてほしい人だけがいる。そういう安心した環境を提供し、その人が持っている力を信じ、産婦側も力を最大限発揮できるように、状況やその人に合ったことを分析した上で支援を行っております。分娩進行中は、産婦が不安や孤独を感じることがないよう、常に家族や助産師が見守り付き添います。決して独りぼっちにはいたしません。夫や上の子も重要なキーパーソンですので、家族が主体的に出産に向き合い、新しい家族関係がスタートできるように見守り、支援をします」。髙田構成員の同検討会での提出資料では、下記の表の通り、連続した不可分一体の「分娩時のケア」が網羅的に示されている。
「助産の給付」という新しい法概念
髙田構成員が提示した(正常分娩に関して)「助産所で提供されているケア内容(分娩介助等)」は、そのまま、それら全体が一体として「助産の給付」であると評しえよう。この点は、前田構成員も同日の検討会に提出の「資料」において、「医師は医療行為を行う。助産師は助産行為を行う。看護師は医師または助産師の指示監督の下で助産の補助を行う」としており、同様の認識をしているとみなされうる。
この「助産の給付」を中核として法令を改正するのならば、1つのサンプルとして、文末のQRコードに添付する法令改正・制定案(健康保険法、助産担当規則、保助看法、医師法、医療法)のようにもなることであろう。1つのたたき台として、ここに提言するものである。その中核部分のみを簡潔に示そう。

1.健康保険法上に「助産の給付」という法概念を創設する。戦前に、新産婆の現物給付について既に「助産の手当」という法概念が立法化されていたこと、及び、疾病又は負傷に関する「療養の給付」に対比した法概念として「助産の給付」が法的になじむことを理由とすることができよう。なお、「医療保険」とは異なった独特の「出産保険」であるので、混合診療禁止の原則や一部負担金の定めは、原則として適用されない。
2.「療養担当規則」に類似してはいるが、それとは全く別個の「助産担当規則」を制定する。
3.保助看法においては、「看護師」の権限として「診療の補助」に加えて、「助産の補助」(前掲・前田構成員の資料引用部を参照)を設けるのが自然であろう。これは特に、「助産所」において「看護師」を雇用することを想定している。「助産師」の権限も、現状では窮屈なので、「助産師の業務に当然に付随する行為」を少し広げて、「助産の業務に付随する必要な行為」とするとよい。
4.医師法においては、嘱託医の受託に関して妊産婦からの要求に対する応招義務を定めるのが適切であろう。具体的には、「正常分娩に関する産婦人科診療に従事する医師は、助産所での分娩(妊婦等の自宅等に出張して助産師が助産を行う分娩も含む)の助産を行うために、助産を担当する当該助産所又は助産師の嘱託を妊婦等より求められた場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない」という条文である。
5.医療法においては、今までは、助産、助産業、助産師の位置付けが明瞭ではなかったので、明確化させることが必須である。
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