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コロナ禍の「自殺増加」を防ぐために 雇用やメンタルヘルスの対策を

コロナ禍の「自殺増加」を防ぐために 雇用やメンタルヘルスの対策を
松本 吉郎(まつもと・きちろう)1954年山口県生まれ。80年浜松医科大学医学部卒業。88年松本皮膚科形成外科医院理事長・院長。96年大宮医師会理事。2006年大宮医師会副会長。10年埼玉県医師会理事。日本医師会予備代議員。11年埼玉県医師会常任理事。12年日本医師会地域医療対策委員会委員。14年大宮医師会会長。日本医師会代議員。16年日本医師会常任理事。17年中央社会保険医療協議会委員。15年藍綬褒章受章。

コロナ禍によって自殺者が増えているという。いろいろな調査から分かってきたのは、特に女性や低所得者等社会的に不利な状況にある人達が、職を失って経済的に追い込まれ、メンタルヘルスの不調に陥って自殺を選んでいる、という実態である。また、新型コロナウイルスの感染拡大が始まった当初から、過酷な仕事を遂行してきた医療従事者やその家族に対する風評被害も問題になっている。こうした問題に日本医師会はどう対処するのだろうか。同会常任理事で、総務・医療保険・産業保健等を担当している松本吉郎氏に話を聞いた。


——コロナ禍でメンタルヘルスにかなり影響があったようですね。

松本 第1波の時に、まず医療従事者のメンタルヘルスが悪化しました。その後、第2波の頃には労働者全体に広がって悪化が見られました。第3波以降も全体的に悪化しているのですが、その中でも医療従事者は特にメンタルヘルスが悪化しているという傾向が見て取れます。

——最初に医療従事者のメンタルヘルスが悪化したのはなぜでしょう?

松本 第1波の時点では、この病気の怖さが広く伝わっていなかった事があると思います。若い人は平気だ、死なない、といった情報も流れていましたから。ところが医療現場の人達は、発症した患者さんの厳しい状況を目の当たりにしていますから、やはり普通の肺炎とは違うと感じていたはずです。そうした違いが現れているのではないでしょうか。また、感染した患者さんと接触する仕事となれば、感染に対する不安もあると思います。

——医療従事者がメンタルの不調を招きやすい理由は? 労働時間ですか、責任の重さですか。

松本 もちろん労働時間の長さも関係しているでしょうが、やはり責任の重さですかね。患者さんを診ていれば心の葛藤がありますから、そういう事が大きく影響しているのではないかと思います。もちろん多くの労働者がコロナ禍でストレスを受けていますが、平均で見ると、医療従事者は特にストレスが強い状況にあったと言えます。

——実際にどのような人達にメンタルの不調が現れているのですか。

松本 自殺者のデータ等から、メンタルヘルスの悪化しやすい人達がある程度分かってきていますが、やはり社会的に不利な状況の方々が悪化しているようです。経済が大きく影響するので、年収が比較的低い方々、それから女性に自殺者が増えています。こうした傾向には、非正規雇用の問題等が影響しているのかもしれません。年代で言うと、40歳以下の若年層で増えていて、中学生や高校生にも増加傾向が見られます。

——自殺者が増え始めたのはいつ頃ですか。

松本 昨年前半の1月から6月頃までは、前年と比較して自殺者はむしろ少なかったのですが、6月の緊急事態宣言解除後、7月から12月にかけて急激に増えています。どうして増えたのかを特定するのは難しいと思いますが、コロナが大きく影響していただろうと考えられています。

——女性の自殺者が増えたのはなぜでしょう?

松本 男女別の自殺者数を比較してみますと、元々男性の方が多いのです。昨年の自殺者が増加している時期でも、やはり男性の方が多いのですが、男性と女性の差が縮まっています。つまり、女性の自殺者が増えているという事になります。なぜ女性の自殺者が増えたのかについては、女性に非正規雇用者が多いので失業の問題が影響したのではないかとか、DV(家庭内暴力)も関係しているのではないか等と言われています。DVの相談件数が増加しているという警察関係のデータもあります。家にこもる機会が増えた事で、家庭内のいろいろな問題が出てきたのかもしれません。女性の問題としては、子育てに関する様々な悩みや、マタニティーブルーと呼ばれる産後の鬱等も、影響しているのではないかと言われています。

——自殺者は今後どうなるでしょう?

松本 自殺者数の増加にコロナ禍がどれだけ影響していたのか、明確な事は分かりませんが、失業率が1%増えると自殺者が1000〜3000人増えると推測するデータがあります。昨年、完全失業率はどんどん上がっていて、女性の失業率も多くの年齢層で相当上がってきています。今後、たとえコロナの流行が収束しても、雇用が回復せず失業率の高い状態が続いてしまえば、しばらくはその影響が残る可能性があります。

——自殺は大きな社会損失だと言われていますが、日本の精神科医療は十分に機能していますか。

松本 精神科の医療が重要である事は確かですが、現実には患者さんの数がとにかく多いので、精神科の先生達も疲弊している状態かと思います。精神科の診療は時間も労力もかかりますし、特に自殺願望のある方の診療となると、慎重に対処する事が必要になります。更に問題になるのが、主治医を持たない方に心の不調が現れた場合だろうと思います。そうした人を医療に繋ぐため、行政が相談窓口を設置し、そこに電話をすれば、当番になっている先生に繋がり受診が出来るようなシステムを作っている自治体もあります。そういった取り組みも考えていく必要があるかもしれません。

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