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「医学部不正入試」大学に番付を付けてみた

「医学部不正入試」大学に番付を付けてみた
ついに訴訟にまで発展、結局一番の悪者は誰?

東京医科大学(東京)の不正入試問題に明け暮れた2018年は終わったが、担当記者は「年末年始も追い掛け続けた」のだという。入試シーズンが本格化してもなお、口利きを依頼したとして前国会議員の名前が出たり、急に医学部の定員が増えたりと世間を賑わし続けているこの問題。消費者団体が東京医科大を相手取って受験料の返還を求める損害賠償請求を起こすなど訴訟にも発展した。多くの医大の名前が五月雨式に出たが、果たして一番の悪者は誰か。関係者や記者の話を元に勝手に番付を付けてみた。名付けて「医学部不正入試場所」開幕!

年末逃げ切り図った東京医科大

 「年末のあの一件で、東京医科大の本質が出たと思いました。全く反省はないんだと」

 全国紙記者がそう糾弾するのは、言わずと知れた不正入試問題の震源地、東京医科大だ。文部科学省局長(当時)の汚職事件で裏口入学が発覚、東京地検特捜部の捜査の過程で特定の受験生を優遇するだけでなく女性や多浪差別を行っていたことも判明した。まさに、「不正入試の横綱」である。

 文科省の局長が逮捕されて取り調べを受けたのに対し、東京医科大の臼井正彦・前理事長と鈴木衛・前学長は逮捕を免れ、在宅起訴に留まった。もっとも事件を受けて職を辞し、大学も18年8月に「重大な不正が明らかになった。心よりおわび申し上げたい」と謝罪会見を開いたのだが……。

 「第三者委員会を立ち上げて調査をし、新執行部は不正と決別したと思わせておきながら、年末のあの対応はあまりにもひどい」(別の全国紙記者)。

 記者達が口々に責めるのは、この第三者委員会の最終報告書の公表時期や方法についてだ。仕事納めも過ぎた18年12月29日土曜日午後7時前、東京医科大は第三者委員会の最終報告書をホームページにひっそりとアップしたのだ。10月の中間報告もホームページに掲載しただけだったが、最終報告書の中身を見た記者達はのけぞったという。

 「『寄付は3000万円用意するつもり』など裏口入学との関連が強く疑われる文書が発見されたことや国会議員の依頼で特定の受験生を補欠合格させていたこと、試験問題が特定の受験生に漏洩していた疑いがあることなど、報告書の内容はさらなる不正を疑わせた。ところが、29日から年末年始の休みに入っていた大学側が記者会見は必要ないと突っぱねた」(記者)というから驚きだ。

 その後の報道で、口利きをした疑いのある国会議員が同大卒業生で自民党の前衆院議員、赤枝恒雄氏(74歳)であることが判明。赤枝氏も「10年ほど前から複数回、合格を依頼した」と口利きを認めた。

 同大の不正入試を巡っては、訴訟も起きている。NPO法人「消費者機構日本」が18年12月、不正入試で不利益を受けた女子や多浪生に受験料などを返還する義務が同大にあることを確認する訴訟を東京地裁に起こしたのである。

 これにより、国指定の消費者団体が被害者に代わって金銭返還を求めることができる「消費者裁判手続特例法」に基づく第1号の訴訟の当事者になるという不名誉なおまけも付いた。

 文科省は1月に入り、最終報告書の内容に対して同大に追加調査を求め、同大もこれを受け入れた。疑惑を疑惑のまま終わらせることなく調査できるのか。そして、今度の調査結果は会見できちんと説明するのか、今後の対応がである。

逃げるは恥の上塗りの順天堂大

 東京医大には劣るが、これまたかなりの「馬耳東風」ぶりで恥を上塗りし、大関クラスに躍り出たと記者達が指摘するのが順天堂大学(東京)だ。

 「東京医科大の問題を受けた文科省調査で、不正が疑われると名前が挙がったにもかかわらず公表を避け続け、挙げ句には会見で妙な『エビデンス』を持ち出し世間の怒りを買いました」(全国紙記者)。

 私大医学部の中でもトップクラスの難易度を誇る順天堂大が、第三者委の報告書が出されたことを受けて会見を開いたのは18年12月10日。報告書は男子と女子で異なる合格ラインを設けていたことや、浪人回数の多い受験生を不利に扱っていたことを指摘した。

 会見では17年、18年の入試で合格ラインに達していた受験生165人が不合格になったと明かした上、このうち2次試験で不合格とした48人を全員、追加合格とすることを発表した。

 「女子、多浪生差別は東京医大と同じだが、公表時期が遅れたことで追加合格となった人への連絡も遅くなり、結果的に今年の受験生への迷惑も大きくなった」と受験関係者は憤る。

 同大は18年10月、昭和大学などと並んで不正入試を行っている疑いが報じられた。昭和大はすぐに会見を開いたが、順天堂大は対応せず。文科省が12月になって調査結果を発表する段になり、急遽自主的な公表に踏み切ったというわけだ。

 それだけでも印象が悪いのに、世間がもっとも唖然としたのは同大の苦し過ぎる言い訳だ。

 同大が女性差別の理由として挙げたのは、寮生活と男女の発達の差。同大の1年生は全寮制で、女子寮の定員が少なく受け入れが難しかったと第三者委の調査に説明したのだが、過去に女子寮が新たに建設されるなどして定員が増えた時にも女子の合格者数は変わっておらず、この言い分は退けられた。

 「さらに会見で新井一学長は、女子の方がコミュニケーション能力は高いので、面接で男子を救うためだったと女子差別の理由を語った。差別でなく男女の補正と言い換えたのです。その理由を補強するため、わざわざエビデンスとして海外の学術誌の論文を挙げたのだが、第三者委から合理性がないと退けられただけでなく、後に論文の筆者からも論文はコミュ力の性差を調べたものではないと否定される結果になった」(全国紙記者)。

 差別をしていたことに加え、論文も満足に読めないことが露呈し、恥の上塗りとなってしまった。

 順天堂大ほどのあからさまな言い分は通らないとしても、大学にはそれぞれどういう受験生を合格とするかを巡り、ある程度の裁量は許されて当然である。それ故に、文科省も当初、「不正」と断定することは難しいとしたが、18年12月14日に実名での「緊急調査結果の最終報告」の公表に踏み切った。

 その中で「不適切な入試を行っていた」と指摘されたのは9校。東京医科大と順天堂大の他、昭和大(東京)、北里大(神奈川)、福岡大(福岡)、岩手医科大(岩手)、金沢医科大(石川)、神戸大(兵庫)、日本大(東京)である。

 文科省が不適切としたのは二つの類型だ。①卒業生の子女ら特定の受験生を優遇した(東京医科大、昭和大、岩手医科大、日本大)②男子や現役生に一律加点するなど属性で差異を設けた(東京医科大、昭和大、神戸大、順天堂大、金沢医科大、福岡大、北里大)。

 東京医大と昭和大、11月中に募集要項に書かずに僻地出身者を優遇していたと公表していた神戸大を除く6校は、12月14日の文科省の公表の直前に相次いで会見した。

 「会見日程について大学間で協議はしていないと大学側は説明したが、明らかに横並びで行ったと考えられる」と担当記者は苦笑しながら振り返る。

 12月8日土曜日にそろって会見を行ったのは、岩手医科大、金沢医科大、福岡大の3校。そして前述の順天堂大と北里大が10日、日本大が12日に会見した。

 会見で騒ぎを大きくした順天堂大を除く5校は、不適切とされた事例を「裁量の範囲内だと思っていた」などと述べるも謝罪。昭和大も男女差別はなかったとしながらも謝罪、神戸大も12月27日に調査委の最終報告を公表するとともに会見を開いて謝罪するなど7校はいずれも文科省の調査結果に従い、関脇級の対応を見せた。

土俵際の聖マリアンナ医科大

 ここまで文科省が不適切とした9校を横綱、大関、関脇と分けて説明したが、実はもう1校、文科省から「不適切な可能性が高い」と指摘された大学がある。聖マリアンナ医科大学(神奈川)だ。番付的には小結当たりだろうか。

 文科省が過去3年分の一般入試を調べたところ、男子の平均点が女子より最大2・6倍、現役生が多浪生より最大15倍高いなど顕著な差異がみられた。

 大学側は「総合評価の結果」として不正を否定、学校法人の監事を務める弁護士と公認会計士が内部調査を行うとしたが、文科省は第三者委など客観的な調査をするよう求めており、待ったなしの土俵際に追い詰められている。

 同大病院関係者は「うちは精神保健指定医資格の不正取得などで厚労省や自治体の調査を受けた経験があり、行政の対応に慣れている。逃げ切れる算段があるのではないか」と明かすが、どうなることか。

 もっとも、この医学部不正入試場所で一番迷惑を被ったのは受験生達だ。過去の受験生を追加合格とするなど各大学の救済策で今年の医学部の定員が大幅に減ることを受け、文科省は今年の入試の募集定員の超過を特例的に認めた。

 ただ、これまで厚生労働省で何回も委員会を開くなど慎重に検討を重ねてきた医学部の定数がいきなり特例で変わってしまうことについては、日本医師会関係者らからも戸惑いの声が聞かれる。

 何よりここまでこの問題を仕切ってきた、いわば行司役ともいえる文科省を各大学は冷ややかに見ている。

 「もとはといえば、文科省の不祥事がこの問題の発端。身内の裏口入学が疑われていながら、不適切だと大学を責めるのはお門違い」(私大医学部の関係者)、「医学部が寄付金頼みになるのは仕方ない。医師は国の宝だが、国は大学に十分な交付金を出せていない」(元国立大医学部教員)との本音も聞かれる。

 行司どころか、文科省は土俵にも上がれていないのかもしれない。

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