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未来の会

大病院で相次ぐ「がん見落とし」の構造的問題

大病院で相次ぐ「がん見落とし」の構造的問題
専門細分化で情報共有の不徹底、膨大なCT検査数等々

千葉大学医学部附属病院(千葉市)で6月、コンピューター断層撮影法(CT検査)の検査結果が見落とされたために適切な治療が受けられず、2人の患者ががんで死亡していたことが発覚した。約2週間後には、横浜市立大学附属病院でもCT検査の結果が院内で共有されず、患者ががんで死亡していたことが明らかになった。相次ぐ大病院でのCT検査に関連する見落とし。再発防止にはAI(人工知能)の活用などが指摘されるが、患者への説明までAIに任せることはできない。病院側の対策にとどまらず、「患者力」をどう向上させるかも課題だ。

 「患者やご家族に多大なご負担とご心痛をお掛けしたことをお詫びいたします」

 6月8日、記者会見を開いて深々と頭を下げたのは千葉大病院の山本修一病院長だ。言うまでもなく千葉大病院は厚生労働省が承認する特定機能病院であり、国立大学附属病院長会議常置委員長も務める山本病院長は、厚労省の検討会などの委員にも名を連ねる大物だ。

 そんな名門病院で起きたのは9人もの患者の「診断の遅れ」だった。病院側の説明によると、昨年7月、肺がんの疑いで呼吸器内科を受診した50代の男性が、千葉大病院で検査を受けた。その際、男性が約1年前にも同病院で頭頸部の腫瘍を確認するためCTを受けていたことが分かり、当時の画像診断報告書を確認したところ、肺がんの疑いが指摘されていたことが発覚したのだ。当時の担当医は記載を十分に確認しておらず、肺がんの疑いがあったことを認識していなかったため、男性は1年以上にわたり適切な治療を受けることができなかった。

 これを受けて同病院は院内で調査を実施。その結果、この男性患者を含めて9人の患者ががんと正しく診断されておらず、うち2人は治療が遅れて死亡していたことが分かったというわけだ。

原因に画像診断報告書の確認不足

 死亡したのは2013年にCT検査で腎がんの疑いが指摘されたにもかかわらず、医師の確認が不十分で17年10月まで腎がんと分からなかった60代の女性と、16年1月のCT検査で肺に異状が指摘されるも担当医が指摘に気づかず、17年4月に肺がんと診断された70代男性。いずれもがんと分かった2カ月後に死亡しており、病院側は「最初の検査後に治療していれば死亡しなかった可能性がある」と説明した。

 この2人と同様に、担当医が画像診断報告書の内容を見落とした例が3件、担当医が画像診断を専門医に依頼しなかった例が2件、報告書の作成が遅れた例、作成されなかった例がそれぞれ1件見つかった。

 同様のミスは他の病院でも見つかった。横浜市大病院は6月25日、相原道子病院長が会見を開き、12年以降にCT検査などでがんの疑いが指摘されていたのに担当医が画像診断報告書を見落とすなどして11人ががんと正しく診断されていなかったと発表。このうち12年10月にCT検査で腎臓がんの疑いが指摘されたものの担当医が確認せずに見落とされた60代の男性が死亡したという。

 今年だけではない。17年1月には東京慈恵会医科大学附属病院で、同年10月には名古屋大学医学部附属病院で、それぞれCT検査でがんの疑いが指摘されたものの担当医が確認せず治療が遅れ、患者が死亡していたことが発覚している他、兵庫県立がんセンターでも今年6月、同様の事案が見つかった。日本医療機能評価機構によると、15年1月〜17年9月に画像診断報告書の確認不足が32件報告されている。

 全国紙の医療担当記者によると、大学病院など高度な医療を行う病院では専門分野が細かく分かれているが故に、こうした「情報共有」の不徹底を招きやすいという。CT検査では対象の臓器以外も広く撮影されることが多いが、担当医は自分の担当する分野しか見ないことが多い。そのため、検査結果で他の部分に異状が映っても気付かないことが多いというわけだ。

 もちろん病院側も再発防止に取り組んでおり、「昨年、検査結果の見落としが発覚した慈恵医大病院では、主治医が画像診断報告書を確認するようメッセージを出すカルテシステムの改善に着手したり、報告書を患者に手渡ししたりする対策を始めている」(担当記者)という。

 ただ、ミスの原因は構造的な問題だとする声も多い。その一つが「日本はCT検査の数が多過ぎるのではないか」(中部地方の内科医)との指摘だ。多くの大病院はCTなどの高額な検査機器を持っており、紹介患者も含めて検査のオーダーが多い。例えば、千葉大病院ではCT検査などの画像診断は年間約6万件にのぼり、このうち約4万件について放射線科などの専門医に画像診断を依頼している。しかし、専門医は10人しかおらず、明らかに対応は追い付いていなかったという。

 慈恵医大病院でも年8万件を超す画像検査のオーダーがあったといい、大病院では大量の画像診断が行われていることが推察される。しかし、需要に対して画像診断を行う専門医は足りていない。その結果、画像診断報告書の作成が遅れて患者への説明に間に合わなかったり、間に合ったとしても記載内容が多いため今度は主治医が全ての記載をチェックしきれなかったりする事態が起こる。

AIの活用で見落とし減らせる可能性

 さらに別の課題もある。都内の病院関係者は「今回複数の病院で発覚したのは、検査で発見されていながらその結果が正しく伝えられない『見落とし』だったが、専門医が正しくがんなどの異状を発見できないなど、検査でがんが発見できなかった『見落とし』はどのくらいあるかは分からない」と指摘する。

 こうした見落としに対しては、AIを使って膨大な画像データから異状を発見するなど、AI技術の活用によって減らせる可能性はある。しかし「最終的に診断するのは医師であり、現時点でAIはあくまでスクリーニング用」(医療担当記者)という位置付けだ。日本医師会など業界団体の動きも鈍く、技術の信頼性が増しても導入がどの程度進むかは不明だ。

 もちろん、異状が発見されたこと、がんの疑いがあることなどを説明するのは医師の役割であり、AI任せには限界がある。報告書を読まないと警告が出るなどの電子カルテのシステム改善についても、「読まなくても読んだことにして警告を出さないようにする医師もいるだろうし、システムだけで全てを防ぐのは不可能だ」(都内の大学病院関係者)と、懐疑的な見方が大勢だ。

 であれば、患者が検査結果の説明を求めるなど、自ら見落としを防ぐ努力をすることも肝要だ。画像診断の専門医は一朝一夕で育つものではない。病院側のシステム改善とともに、患者が主体的に自身の治療に関わっていくことも、再発防止策として求められている。

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