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出口戦略どころか身動き取れない「黒田日銀」

出口戦略どころか身動き取れない「黒田日銀」
「異次元金融緩和」の果ては「後は野となれ山となれ」

安倍内閣は2月16日、日本銀行の黒田東彦総裁を再任し、副総裁に雨宮正佳・日銀理事と若田部昌澄・早稲田大学政治経済学術院教授を起用する人事案を国会に提示した。今までと同様、日銀生え抜きと、積極的な金融緩和を主張する「リフレ派」学者で脇を固める人事である。

 既に、事前に「黒田が続投する可能性が高い」との観測が流れており、経済界や霞が関での意外感は乏しいはずだ。しかし、この人事についての是非はともかく、二つの点だけは確かだろう。

黒田続投で繰り返される目標先送り

 一つは、当然ながら黒田が打ち出した「異次元の金融緩和」という路線変更は基本的にあり得ず、二つ目にはその「異次元の金融緩和」からの出口戦略を描き、実行するのは、黒田自身にとって至難だという点だ。

 そもそも2013年1月22日の安倍政権と日銀による共同発表では、「デフレ脱却と持続的な経済成長実現」が掲げられ、「デフレ脱却」を名目に、日銀が年2%の物価上昇率を「出来るだけ早期に」実現するとなっていた。だが、言うまでもなく、今日まで6回も「インフレ目標2%達成」を先送りしている。共同発表から5年間の物価上昇率は、わずか0・8%だ。

 黒田は1月4日、東京都内で開催された全国銀行協会の新年集会で、「東京で降った雪はすぐ溶けるが、デフレ心理はなかなか解けない」などと愚にも付かぬトークで会場の笑いを取ったというが、いったい自分の責任をどう考えているのか。

 しかも、黒田は昨年12月5日、官邸で安倍と会談した後の記者団の「続投を要請されたら受けるのか」という質問に対し、「そういう話を私から申し上げるのは僭越だ」などと述べた。続投に意欲ありとも受け止められなくもなかった。

 だが、これまでの5年間の任期で1%に満たなかったような物価上昇率を、次の新たな5年間で2%に出来る見通しは限りなく暗い。本来なら黒田はとっくに「敗北宣言」でもして辞任するのが筋だろうが、その気はさらさらなさそうということは、今後も延々と先送りを繰り返すつもりなのか。

 同時に、2%という目標値を下ろすつもりはない以上、今後も「異次元の金融緩和」を続けるしかなくなるが、そうなったら「出口戦略」どころの話ではない。

 実際、黒田は前述の集会で「粘り強く金融緩和を続ける」と公言している。その一方で、昨年8月の記者会見では、米国の連邦準備制度理事会(FRB)が既に出口局面に入りながらもさほどの混乱を来していない現状を引き合いに出し、「日銀も(出口によって)悪影響が出ないようにする手段を持っている」と大見得を切った。だが、その後にも先にも、黒田が「手段」なるものを具体的に披露した形跡は一切ない。

 言うまでもなく、黒田が「デフレ脱却」のために繰り出した手は、年間80兆円規模という巨額の国債購入に他ならない。それによって通貨供給量を最大限増やし、必然的にマイナス金利まで導入した。その総額は2月初め段階で446兆円に達しているが、5年前の実に3・4倍にも達する。だが、こんなことをいつまでも続けられるはずもない。

 仮に出口局面に誘導して国債購入を減らしでもしたら、国債の価格が下落し、金利が上昇するのは確実だ。その結果、日銀の保有する国債に大変な含み損が生じる他、日銀に預金している民間金融機関に対する利払い費が増大する。そうなったら日銀の財務は悪化の一途を辿り、劇的な円安局面に向かいかねない。もはや日銀は、出口どころか身動きが取れなくなっているのが現状だ。黒田にしてみれば、もう「後は野となれ山となれ」の心境なのだろうか。

 ここで思い出すのは、安倍が「日銀の独立性」などどこ吹く風の黒田を総裁に据えるため、任期半ばで辞任に追い込んだ前任の白川方明の在任中の言葉だ。「中央銀行が通貨を発行する権限をバックに国債の引き受けや類似の行為を行っていくと、通貨の発行に歯止めが利かなくなり、様々な問題が生じる」——。この国が白川の警告を実感する時期が来るのは、そう遠くないはずだ。

 無論、同じ構造は株式市場も抱えている。明らかに株高が政権維持の第一条件と考えている安倍に従い、黒田日銀は年間6兆円規模で上場投資信託(ETF)を購入してきた。日経平均の下落局面で日銀が下支えのため買いに入るのは、もう市場の日常光景となっている。

公的資金で外国人を儲けさせる

 昨年末の段階で、日銀が保有するETFは17兆2350億円に達し、信託預かりが1兆575億円となっているが、加えて市場には年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の公的資金も投入されている。こちらの方は昨秋の時価で約39兆円というから、60兆円近い公的資金が株式市場に投入されている計算だ。

 1月23日の日経平均株価の終値は2万4124円15銭に達し、終値ベースで約26年2カ月ぶりに2万4000円台に回復したが、実態経済とはおよそ無縁の「官製相場」であるのは疑いない。市場で供給を上回る需要を、日銀が公的資金で人為的に作り出しているだけだ。

 しかも、売買では外国人投資家の比率が7割を超え、株式の保有比率も30%以上に達している。何のことはない。この国の公的資金で外国人を儲けさせればさせるほど、例によって「アベノミクスの成果だ」などと安倍の虚言が飛び出す仕組みなのである。

 しかし、日銀の自己資本が8兆円弱であるのを考えれば、ETFの保有残高が17兆2350億円というのは明らかに異常事態だ。株価が下落に転じれば、債務超過の可能性も生じる。かといって「売り」に転じたり、あるいはその素振りを見せたりしただけで、一挙に株式市場は暴落に転じよう。

 同じことはGPIFについても言えるが、黒田が意外と強気なのは、「自分が辞めるようなことになれば、市場に『異次元の金融緩和』が終息するという心理が働き、『下がらない相場』という評価も薄れて全面安になりかねない。そんなことは安倍が望まない」といった計算が働いているからではないか。

 しかし、いつまでも「異次元の金融緩和」を続けることは出来ないし、2月5日に起きたニューヨーク株式市場での史上最大規模のダウ平均株価暴落のような事態が、日本にとって無縁であるはずがない。2月6日、日経平均は前日比で7%も下落したが、出口は時間の問題だ。だが、その時になったら、黒田はどう対応することが出来るのか。

 参議院予算委員会でこの5年間のエンゲル係数上昇を問われ、「食生活や生活スタイルの変化」が原因などと珍答弁した安倍などは論外だが、財政規律など眼中になさそうな黒田が、この5年間に残した負の遺産はあまりに大きい。「アベクロ」のコンビにここまで経済運営の袋小路化を許したのは、この国の民度の低さ故なのだろうか。         (敬称略)

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