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未来の会

第133回 「閣僚ドミノ倒し」と「菅バッシング」の正体

第133回 「閣僚ドミノ倒し」と「菅バッシング」の正体

 令和元年の師走を迎えた。最古の歌集「万葉集」を典拠とした奥ゆかしき元号の始まりは、厳しい雨風に見舞われ、天地への畏敬の念を新たにする年となった。政界も晩秋から大風が吹き、不祥事による閣僚の辞任が続いた。騒動は、自民党内の権力争いに起因しており、過去の怨嗟が噴き出した格好といえる。昭和の自民党一党支配時代を思わせる党内抗争のきな臭さが漂い始めている。

 「菅原一蹴され、河井溺れにけり、河野乱れ、小泉に艶なし」

 自民党長老は「詠み人知らずだからな!」と前置きしながら、へんてこな歌を口ずさんだ。詠み込まれたのは、メロンやカニの贈答や香典の付け届けなど公選法違反の疑惑で辞任した菅原一秀・前経済産業相▽妻の参院選に際し、陣営幹部がウグイス嬢に法定を超える報酬を支払ったとの疑惑で、辞任した河井克行・前法相▽自身が雨男で閣僚になってから台風が3回も来たと不用意な発言をして批判された河野太郎・防衛相▽閣僚就任後、やり玉に挙がる機会がめっぽう増えた政界の人気者、小泉進次郎・環境相──の4人だ。菅原前経産相、河井前法相は菅義偉・官房長官の側近、河野防衛相、小泉環境相は地盤が神奈川県で、菅官房長官と親密な関係にある。

 へんてこな歌は、9月の内閣改造で辣腕を振るい「飛ぶ鳥を落とす勢い」と言われた菅官房長官の「陰り」を詠み込んだものだという。当人は「菅原一秀(いっしゅう)の一蹴」という駄洒落が気に入っているのだが、論評に値しないのは明らかだ。長老が続ける。

 「出る杭は打たれるということだ。菅官房長官は少しやり過ぎたな。一言で言えば、〝ポスト安倍〟を巡る暗闘が激しくなってきたということだよ。昔の自民党みたいにね。閣僚のドミノ倒しはイメージが良くないんだが、これで師走選挙もなくなったんじゃないか。そこまで考えた上での閣僚潰しかもしれないな」

 師走選挙は、内閣改造で初入閣組が13人に上った辺りから、永田町でポピュラーな話題になっていた。入閣を待ち焦がれてきた議員らの〝在庫一掃〟が、来るべき衆院解散への準備作業に見えたからだ。選挙地盤の弱い若手議員らは「安倍晋三首相は寒い時期の選挙が好きで、実績もある。外交日程などでやり繰りは難しいと思うが、ないとは言い切れない」と戦々恐々とした。安倍首相はこうした状況も勘案し、9月下旬段階では「(解散は)頭の片隅にも、真ん中にもない」と否定していた。

「岸破義信」の世代間抗争が遠因?

 ところが、10月初旬になると衆参与党国対幹部との懇親会で「あいさつと解散は急に来る」「12月の選挙に勝ったことがある」などと軽口をたたき、周囲をざわめかせた。これまで3回の衆院選を振り返ると、政権を奪回することになった2012年12月16日、消費増税の先送りを争点にした14年12月14日の衆院選で、自民党はいずれも圧勝している。

 台風被害に配慮してのことだが、10月22日の即位礼正殿の儀に伴うパレードを11月10日に延期したことも、「晴れやかな行事で国民の気分を高揚させた上で、解散を打つ布石なのではないか」(野党幹部)との憶測を呼んだ。こうして、「次期衆院選は東京五輪・パラリンピックの後」と半ば決め込んでいた自民党内で「内閣改造での在庫一掃を勘案すれば、師走選挙の可能性も否定できない」との声が広がった。

 改憲派の自民党若手が語る。

 「安倍首相の任期と、改憲への道のりを考えると、師走選挙は1つの手だと思う。衆院は改憲勢力が3分の2以上あるが、参院は今年夏の結果で3分の2を割り込んでいる。閣僚の辞任を契機に、野党が改憲関連の審議に応じないのなら、改憲を大義名分に選挙に打って出るという策は成り立つ。野党から賛同勢力を得るにしても、国民にはっきりと改憲の是非を問い掛けて、その結果に基づいて進める方がやりやすい」

 衆院選での大勝が前提の強攻策で危うさも伴うが、中央突破で改憲に道筋を付ける1つの手法ではある。

 自民党中堅は、もう少し物事を複雑に見ている。

 「安倍首相の総裁4選をどう考えるかで、〝菅バッシング〟の本質と政局が読めるような気がする。衆院解散も権力闘争の1つのパーツとして浮上しているだけじゃないか。今年やった方が有利か、来年の方がいいのか、再来年の任期満了まで持ち越すのか。それぞれの立場で利害は異なる。総裁4選問題とも密接に絡んでいる。はっきりしているのは、総裁4選となれば、ポスト安倍の有力候補はさらに5年間待たされるということだ。候補者の年齢や支持勢力の結束力が問題になる」

 現在、ポスト安倍の有力候補として衆目がそろうのは岸田文雄・政調会長、石破茂・元幹事長、菅官房長官、加藤勝信・厚生労働相の4人だ。それぞれから一文字を取って「岸破義信(きし・ば・よし・のぶ)」と呼ばれている。年齢は岸田政調会長と石破元幹事長が62歳、菅官房長官が70歳、加藤厚労相が64歳だ。5年後は67〜75歳となる。平成以降でみると、初めて首相に就任した際の年齢は、宮澤喜一・元首相の72歳が最高齢だ。令和時代の首相の過密な日程を考慮すると、個人差はあるものの60代前半が適齢との見方が一般的だ。5年後だと、岸破義信はいずれも適齢期を過ぎ、次の世代へと表舞台が移行する可能性が高い。

 「菅官房長官の本当の狙いは、河野防衛相(56歳)、小泉環境相(38歳)ら次の次の首相候補との関係を生かした政界のキングメーカーだろう。ただ、河野、小泉が育つまでにはまだ時間がかかる。それまでは自分が表に出て、他の有力候補を牽制する。もちろん、自身のワンポイントリリーフも念頭にある。そうしたしたたかな計算があっての内閣改造で、それに対する他の有力候補の攻撃が今回の菅バッシングの正体だろう。昭和の時代によくメディアで言われた“永田町の暗闘”。それが令和の時代になって復活した感じだ」

 自民党幹部はそう見ている。主流派と非主流派、派閥のしのぎ合い、さらには世代間抗争を絡めた権力争いがポスト安倍を巡って繰り広げられているという。

自民の自民による自民のための政治

 自民党内の都合で、主要閣僚をポンポン変えられては国民はいい迷惑なのだが、自民党長老は「ホッ、ホッ」と笑いながら応えた。

 「閣僚辞任で野党は自分達の出番が来たと喜んでいるが、これは〝自民党の自民党による自民党のための政治〟なんだよ。政界の主役は自民党なんだという確認作業にすぎない。野党の諸君にはもっと頑張ってもらわないと、昭和の時代に逆戻りになる」

 ポスト安倍が注目されれば、自民党の存在感は高まる。令和2年も自民党は安定政権を維持するという強気の見通しなのだが、強者必滅は世の常である。話半分に聞いておこう。 

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