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「裏口入学」より「女性差別」で炎上した東京医科大

「裏口入学」より「女性差別」で炎上した東京医科大
一方で名を上げた「女性医人育成」を掲げる東京女子医大

文部科学省の官僚が息子を「裏口入学」させたとされる東京医科大学(東京都新宿区)の入試で、今度は前時代的な女性差別が発覚した。事件を受けて行われた内部調査で、女性や4浪以上の男子の合格を抑制する得点操作をしていたことが分かったのだ。女子は結婚や出産で現場を離れることが多く、系列病院を支えるのは男性医師だとの意識があったという。 

 水面下で行われていた男女差別は、世界的に広がる「#Me Too」の流れに乗り、裏口入学以上の大きな批判にさらされた。国は全国の国公私立大の医学部入試に不正がないか緊急に調査するとともに、補助金の減額も検討する。

 「前理事長、前学長の重大な不正が明らかになった。心よりおわび申し上げたい」

 8月7日、100人近い報道陣の前で、東京医科大の行岡哲男・常務理事は深々と頭を下げた。

 この会見に先立ち、同大の不正入試を調べる内部調査委員会(委員長・中井憲治弁護士)が調査結果を公表。同大の臼井正彦・前理事長(77歳)=贈賄罪で在宅起訴=が主導して、女子や浪人生を不利に扱う点数操作が少なくとも2006年度以降、続いてきたことを明らかにした。行岡氏らは委員会報告書の公表を受けて会見し、謝罪したというわけだ。

得点調整は受験生に対する背信行為

 報告書によると、点数操作は一次試験と二次試験の2段階で行われていた。同大の一般入試の一次試験は、マークシート式で400点満点。18年度入試では、男子1596人(61%)、女子1018人(39%)が受験した。一次試験に合格しないと、小論文と面接による二次試験にたどり着けないため、大学側は合格させたい受験生のリストに基づき、18年度は6人に10〜49点が加えられた(17年度は13人に8〜45点が加えられた)。加算された受験生の多くは、おそらく同大OBの子供だったとみられる。

 2段階目の調整は二次試験で行われた。二次試験の小論文は100点満点だが、大学は全員の点数に0・8を掛け80点満点にした上で、2浪までの男子は20点を加算。3浪の男子は10点を加点、女子と4浪以上の男子には加点をしていなかった。この結果、18年度の合格者は最終的に男子141人(82%)、女子30人(18%)となり、女子の割合が大幅に減った。

 ちなみに、文科省前科学技術・学術政策局長、佐野太被告(59歳)=受託収賄罪で起訴=の息子の場合、一次試験で10点が加点され、受験者2614人中282位だった順位は169位に上がった。二次試験での加点もあり、最終的な順位は合格者75人中74位で正規合格した。

 私立大学が独自の基準で合格者を選ぶことは認められてはいる。しかし、その場合、「募集要項にその旨を書くなどの情報公開が望ましい」というのが文科省の見解だ。

 同大を受験した別の私大医学部卒の女性医師は「得点操作を知っていたら、6万円もの受験料を払って受けることはなかった」と憤る。一律に点数を下げるのは明確な女性差別で、しかもそれを水面下でやっていたとなれば、受験生のみならず世間が怒るのは当然だろう。

 では、なぜこのような不正が横行していたのか。最初の段階の不正の鍵を握るのは、大学側が作成した「入学希望者リスト」だ。読売新聞の報道では、手書きのものやパソコンで作成されたものなど複数の形式があり、優先度に応じて受験生の名前の横に「二重丸」「丸」などの記号が付いていたという。

 報告書は動機について、「同窓生から子弟の入学を増やすようプレッシャーがあった」としたが、「合格を依頼された受験生が合格した場合、大学に寄付金を納入してもらう他、個人的に謝礼を受け取ることもあったようだ」としており、入試が臼井氏や鈴木衛・前学長(69歳)=贈賄罪で在宅起訴=の私腹を肥やす道具に使われていたと指摘した。

 一方、2段階目である女性や4浪以上の男子に対する差別は、また別の理由で行われていた。女性については「女性は年齢を重ねると、出産や育児で長時間勤務ができない」と主に卒後の働き方に難しさがあるとの理由、4浪以上の受験生については医師国家試験への合格率が下がるとの理由からだったとみられる。調査委は女性の活躍を推進する昨今の流れからみても、女性や受験回数の少ない受験生を優遇することを知らせずに得点調整を行ったことは受験生への背信行為だ、と断罪した。

他大学も同様のことをしている疑念

 今回の「女性一律減点」を、報告書に先立ち最初に報じたのは8月2日付の読売新聞朝刊だ。東京地検特捜部による裏口入学事件を静観していた人達も、公平に行われるべき入試で行われた不正には憤った。大学前には多くの女性が集まり、「社会は公平じゃないが、入学試験は公平であるべきだ」と抗議した。

 一方で、当事者であるはずの医療関係者から目立ったのは、「やはり」との声や、仕方ないというあきらめの声だ。

 文科省の17年度の調査では、全国の医学部の入学志願者に対する入学者の割合は、男子が6・85%なのに女子は5・91%と1ポイント近く低い。他の理系学部では男女差はほとんどないか、女子の方が高かった。

 毎日新聞の報道では、18年度の合格者の男女比率が明らかになっている13大学で、いずれも男子の合格者の方が多かった。合格した女性の割合が、受験者に占める女性の割合より大幅に減っていたのは、東京医科大の他、聖マリアンナ医科大、日本大学。逆に金沢医科大と杏林大では、合格者の女性の割合が増えていた。

 予備校関係者は「普通に試験を受ければ女性の方が優秀というのはどの分野でも共通するが、医学部では女子の方が合格が難しいという話は以前からあった。入学者の割合を考えても、他の大学でも同じようなことをしているのではないか」と疑念を明かす。

 関係者によると、東京医科大は私立大の中でも特に、卒業生の組織が強いといわれている。系列病院への医師の派遣システムも整っており、「出産や育児で現場を離れる女性医師が増えると現場が回らなくなる」といった声は、女性の合格者が増えた10年頃から学校側に届いていたようだ。

 同大を卒業した都内の開業医は「女性医師が増えると困るという考え方は確かにあった」と振り返る。

 しかし、「今や厚生労働省や日本医師会も、女性医師に限らず医師の働き方改革を議論する時代。労働力不足で若い人が減る中、優秀な人材であれば男女関係なく医師として育てる姿勢が必要だ」(同)とする。

 女性医師の働き方に詳しい関東地方の医師は「女性医師の結婚相手は多くが同じ医師。夫が育児や家事を担えない分を、女性医師が支えている」と語る。その上で、今回の問題を「女性医師の働き方に留まらず、医師全体の働き方を見直す契機にしたい」と語る。

 確かに、女性医師の離職率は男性医師より高い。また、外科や救急を避け、眼科や皮膚科、麻酔科など呼び出しや当直の少ない科に女性医師が集中していることは事実だ。

 しかし、それは前述の通り、育児や家事の負担が女性に偏りがちな日本の実態を反映しているからであろう。

世界的には日本の女性医師は少ない

 世界的に見れば、日本の女性医師の少なさは顕著だ。世界の女性医師の割合を見てみると、経済協力開発機構(OECD)の加盟国の平均は41・5%(11年時点)なのに対して、日本は20・4%(厚労省の14年のまとめ)。英国やドイツ、フランスでは倍の40%を超えており、日本の値は米国や韓国にも及ばない。

 数だけでなく、質の面からの議論も必要だ。海外では女性医師の患者の方が予後が良いという研究があり、女性医師だから能力が劣るということはない。

 関東地方の大学病院の医師は「女性医師が外科に少なく皮膚科や麻酔科を選ぶのは、能力や向き不向きの問題ではなく働きやすさからだ」と断言する。

 性による差別を禁じる憲法に違反するとも指摘される女性差別で炎上した東京医科大。全国紙記者によると、同大は13〜15年度、女性研究者の出産、育児と研究活動を両立させる取り組みが文科省の「女性研究者研究活動支援事業」に選ばれ、計8000万円の補助金を受けていたというから皮肉だ。

 同大は今後、得点操作によって不合格となった受験生への対応を進めるとともに、国からの補助金返還なども検討するという。

 一方で、今回の問題を受けて名を上げた意外な大学もある。同じ新宿区にある東京女子医科大だ。

 同大の創立者の吉岡彌生は、母校である済生学舎(現在の日本医科大)が女性の入学を拒否したことに怒り、明治33年に東京女子医大の前身である東京女医学校を設立した。

 2歳男児の麻酔薬大量投与の医療事故を受けて厚労省の特定機能病院を取り消されたことや昨今の「女子大不要論」もあり経営危機が囁かれるが、東京医科大の問題を受け、「女性医師を育てる」という使命が改めて見直されているというのだ。

 東京医科大の臼井前理事長は05年、東京医大病院第二外科の手術で患者が相次いで死亡した問題を受けて特定機能病院を取り消された際の病院長だ。当時、東京女子医大も医療事故で特定機能病院を取り消されており、二つの病院には〝奇妙な縁〟がある。

 吉岡が切実な思いで女医を増やそうとした時代から100年以上が経っても、女性が医学部に入学するのは難しいままだ。

 一連の問題を取材した医療担当記者は「行岡氏ら東京医科大の幹部は会見で、自分達は入試の不正を知らなかったと繰り返した。だが、関わっていなかったとしても、信頼回復は簡単ではない」と語る。

 ツイッターなどのSNSで女性達が怒りの声を上げる中、多くの人の賛同を集めた投稿(要旨)を最後に紹介する。

 「男性だろうが女性だろうが、当直明けにきちんと休んだ医師に診てもらいたい」。これが国民の本音だろう。

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