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外科医は本当に「わいせつ行為」をしたのか

外科医は本当に「わいせつ行為」をしたのか
罪」か、の行方

 医師が患者へのわいせつ事件で逮捕。職業人としての前に、人間として決してあってはいけないことである。だからこそ、やった人間は厳しく罰せられなければならない。だが、もしもそれが冤罪だとしたら。「わいせつ犯」として実名をさらされた医師の名誉はどう回復されるのか。

 そんな冤罪が疑われる事件が7月、東京都内で起きた。インターネット上では、この事件をめぐり冤罪を唱える医師らが活発に発言している一方で、逮捕された医師は「変態医師」として多くの人の好奇の目にさらされ、人格が攻撃される事態にもなっている。刑事裁判で「有罪」が確定するまでは無罪というのが日本の司法制度の建前ではあるのだが、一度傷つけられた信頼を回復するのは並大抵のことではない。

 「本当に、怖くてやっていられないですよ」

 そう憤るのは関西地方の大学病院勤務の外科医だ。最近は仲間内でもよく事件が話題に上るという。

 「全身麻酔後の幻覚や妄想は、外科医なら誰でも知っていること。その妄想がたまたま、医師が自分に何かをしたという内容だったら逮捕されるということじゃないですか」

 外科医の言はもっともなのだが、その前にまずは、事件を振り返ろう。

 現場となったのは、東京都足立区で整形外科や婦人科などの診療を行う「柳原病院」。住民たちがお金を出し合って約60年前に診療所として設置され、地元で長く愛される病院だ。全日本民主医療機関連合会(民医連)に加盟し、差額ベッド代を徴収しないなど、低所得者や救急患者の受け入れも積極的に行っている。

 5月10日の夕刻に、"事件"は起きた。警視庁担当記者によると、同院に非常勤で勤める関根進氏(40歳)が、右乳腺腫瘍の摘出手術を受けた30代の女性患者に対し、2度にわたって着衣をめくり、左胸の乳首をなめるなどのわいせつな行為を行ったというのだ。2度目には自慰行為に及び、それを患者に見せたという。

 患者は全身麻酔から覚めたばかりで、意識はあるものの身動きは取れない状態。そのため、被害を受けてから数十分たった後に会社の上司に連絡、上司が110番通報して発覚した。関根医師は事件から3カ月以上経過した8月25日、警視庁千住署に準強制わいせつ容疑で逮捕され、9月14日に東京地検に起訴された。

 ところが、この逮捕に猛抗議をしたのが当の柳原病院だった。逮捕当日、病院のホームページに「警視庁による当院非常勤医師逮捕の不当性に抗議する」と題する抗議文を掲載。関根医師は冤罪だと訴えたのだ。

「術後せん妄状態の患者の妄想」と病院
 病院側の言い分はこうだ。女性患者の被害の訴えは「手術前の恐怖や不安と、全身麻酔で行った手術後せん妄状態での幻覚や錯覚が織り交ざったもの」であると。つまり、女性は麻酔後のせん妄状態によって、実際には起きていない妄想の中の犯行を、本当に行われたように錯覚してしまった、というのだ。

 にわかには信じがたい病院側の主張だが、全身麻酔後のせん妄状態というのは、医師の間ではよく知られていることらしい。妄想の内容はさまざまだが、こうした性的なものも珍しくないという。複数の医師や医療関係者が同様の主張をツイッターやブログなどで行ったことから、術後の自分の患者にわいせつ行為を働くとはとんでもないと、関根医師の個人情報がさらされ、その犯行内容について非難する書き込みがあふれていたネットでもそのうち、犯行を疑問視する声が散見されるようになった。中には、術後せん妄についての医学論文を日本語に翻訳して紹介する猛者も登場。医師が同業者の犯罪をかばってせん妄状態と主張しているのではないかと反発する声もあるが、こうした科学的エビデンスの提示により、徐々にその内容を信じる人が増加してきた。

 もっとも、病院側が無罪を訴える理由は他にもある。そもそも女性が術後に運ばれた部屋は4人部屋で、当時は満室。他の入院患者や見舞客、頻繁に巡回する看護師らに知られずに犯行が行えたのか疑問だとした。さらに、ベッドの位置や高さから独自に犯行態様を検討し、警察が主張する犯行は不可能であると主張した。

 担当記者によると、関根医師は逮捕当初から、「やっていない」と容疑を否認。病院側は「証拠隠滅の恐れもないのに身柄を拘束し、長時間にわたり取り調べを行って自白を強要した」と警察当局への反発を強めている。さらに、9月5日に東京地裁で開かれた勾留理由開示公判では、関根医師の弁護側は具体的な証拠をいくつも示して、無罪を主張した。

 司法担当記者が解説する。

 「弁護側はまず、犯行時間帯の矛盾を突いた。犯行時間帯に関根医師が患者の病室にいなかったり、いても看護師や他のスタッフと一緒だったと主張。さらに、患者が目を閉じた状態のまま、小声で『ぶっ殺してやるからな』などと言っていたことを看護師が聞いており、患者が妄想状態だったことを暗に指摘した」

 他にも、2度目の犯行があったとされるときは、患者の母親が病室におり、関根医師が診察する間はカーテンの外に出ていたが、20秒ほどで診察を終えたと主張。ベッドの高さなどから言っても、犯行は不可能だとした。弁護側は「妄想の中でひとたび患者が被害を申告すれば医師が逮捕されるという実例が許容されれば、男性医師の萎縮を招き、診療差し控えなどで患者に影響が及ぶ」と懸念を示した。

共産党系の民医連だから警察の標的?
 麻酔科医や外科医にはこの弁護人の主張に首肯する人は多い。冒頭の外科医の言葉の通り、実際に患者の主張だけで逮捕されるとしたら、医療現場の混乱は避けられない。都内の外科医は「非常勤医師のためにここまでしてくれる病院はなかなかない」と柳原病院の姿勢を評価するが、一方で同院が民医連系、つまり警察が目の敵にする共産党とつながりが深いことが警察の〝標的〟になったのではないかとの指摘もある。

 当の警察当局は、こうした弁護側の主張には懐疑的だという。警視庁担当記者は「警視庁は関根医師が常習犯だとみている。過去にも表面化しなかった同様の事件があるようだ」と明かす。手術をしていない患者の左胸から関根医師のDNAが検出された、はたまた病室の防犯ビデオに犯行が映っていた、など、事件を示す物証が見つかっているとの情報もある。「いずれにしても警察は強気で、検察も準強制わいせつ罪で起訴した。公判を維持できる、つまり有罪にできると踏んでいるからだ」とこの記者は話す。

 となれば、今後開かれるであろう公判では、検察側と弁護側の全面対決が見込まれる。ただでさえ準強制わいせつという罪名からネットでは〝変態医師〟と中傷されている関根医師。裁判の行方が注目されるが、仮に無罪となった場合でも、失ったものはあまりに大きい。


11月30日 柳原病院事件 初公判 記事はこちら>>>

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