SHUCHU PUBLISHING

病院経営者のための会員制情報紙/集中出版株式会社

第18回未来の会

第34回 安全への原理原則欠如を露呈するアセスメント

第34回 安全への原理原則欠如を露呈するアセスメント
虚妄の巨城 武田薬品工業の品行

 当事者なき「リスクアセスメント(RA)」──。武田薬品工業が2011年11月、同社「湘南研究所」で発生させた遺伝子組み換え生物を含む排水の漏出事故。前号では事故から1年以上たって、武田がようやく一部を公開したRAの内容を詳細に検討した。1カ月が経過したものの、いまだに〈外部専門機関〉の社名すら伏せられたままだ。武田の隠蔽体質は事故を経て改まるどころか、悪化の一途をたどっている。

 既報の通り、1月28日に鎌倉市で開かれた「環境保全協定に基づく連絡会」の席上、前出アセスメントの一部が発表されている。本誌が入手した当日の資料を基にアセスメントの後半部分を検証してみることにしよう。

読み手である住民は視野になし

 〈具体的な改善提案〉として、以下のような記述がある。

 〈外部専門機関によるRAの結果、①コミュニケーション、②エンジニアリング、③業務手順の3つの分野で、さらに万全を期すための改善に対応するよう、改善提案(指摘事項)を受けました。/その改善提案(指摘事項)と弊社の対応およびその対応の評価を、「主な指摘事項および対策」に示します〉

 そして、〈主な指摘事項〉として以下の項目が並んでいる。

 〈災害等の緊急事態の対応における、連絡体制、対応の仕組みの見直しが望ましい〉

 〈滅菌システム機器制御のための各装置の信頼性向上〉

 〈誤操作の可能性がある滅菌設備の保守管理用手動バルブの固定化〉

 〈研究所全体の緊急シャワーの設備環境を見直し誤排水リスクの低下が望まれる〉

 〈露出排水配管保護対策の見直し〉

 〈設備・機器(配管等を含む)のメンテナンス手順・手法の見直し〉

 〈さらに人的ミスを減らすための手順書と教育訓練の見直し〉

 〈実験エリアで研究者が着用している防護具(ガウン)の緊急時における取り扱い方法の確立〉

 〈実験エリアの流しに掲示した誤排水を防ぐための注意喚起の掲示の見直し〉

 〈排出時に連続測定している環境項目の測定機器類の点検手法の強化〉

 〈海外研究者に対する教育訓練の見直し〉

 いかがだろうか。一部、センテンスのつながりがおかしいものも散見される。時間をかけただけあって、武田にふさわしい仕上がりである。

 以上、11項目に対応させて〈具体的な対策概要〉を武田が挙げていく。武田の姿勢は一貫している。例えば、こんな一文を引いてみよう。

 〈◦地震避難訓練、火災避難訓練、夜間通報訓練、実験材料誤廃棄訓練等各種非常事態を想定して訓練を実施した。継続的反復的に実施予定〉

 内容の空疎さはひとまず脇に置く。この文、特に前半の異様さはどうだろう。読点を挟みながら、37字にわたって漢字だけが連なっている。商業メディアの記事でこれをやったら最後、書き手は仕事がなくなる。別にプロでなくてもいい。大学生がレポートで似たような表現をすれば、間違いなく減点の対象になる。そのレベルだ。

 何がおかしいのか。文法的にも表記上も間違いはないと武田はいうかもしれない。仮にそうであったとしても、上記の文は決定的に駄目だ。

 なぜか。読みづらいからである。何だそんなことかと一笑に付せるほど、簡単な問題ではない。

 武田は湘南研究所建設の過程で徹頭徹尾、「素人」への視点を欠いてきた。説明不足や情報非開示といった問題ではない。行政や議会、地域住民と共同して不確実な安全・安心を手元に引き寄せていく。ごく一般の企業や大学、自治体なら当たり前にできていることがなぜか日本でトップの製薬企業には不可能だった。これは今も変わらない。

 RAの文言はなぜ読み手に迫ってこないのか。前述したように固有名詞が隠されている点は大きい。さらに数値もほぼ出てこない。一番重要なのは「読者」を想定し、そこに向かって書いていない点だろう。住民不在でこそこそと物事を運びたがる企業に特有の臭いがある。武田が気にしているのは文部科学省か。それとも同業他社か。住民は視界に入っていない。

 結論めいたことをいう。武田のRAにはハウツーの羅列はあっても、プリンシプルが一切ない。方法論のみで原理原則を欠いた文書が説得力を持つはずがない。自明の理だ。もともと武田にそうした文化を期待するのは無理。「どうすればいいか」は何とかごまかせても、「何を重んじているか」は不明。繰り上げ当選でのし上がったシェアナンバーワンの座。家賃の高さに汲々とするさまは社内外にすでに知れ渡っている。文は人なり。RAは武田の現状を映す鏡でもあった。

住民との約束は簡単に反故にする

 さすがに連絡会の出席者もこの報告では納得できなかったとみえる。鎌倉市環境保全課長と同係長への問い合わせに及んでいる。課長も係長も事故が発生した「C4棟滅菌室」については特段言及していない。研究所の施設全体と同じように報告も「問題ない」と受け取っているようだ。

 武田は昨年8月、藤沢・鎌倉両市の市民グループ「武田問題対策連絡会」(代表:小林麻須男氏)との面談で「流しを廃止し、オートクレーブ(内部を高圧力にすることが可能な耐圧性の装置や容器)を置くことについて外部機関に聞き報告する」ことを約束した。だが、報告ではその点についての言及はない。資料にも記載がなかった。

 RAの進捗にも一言。RA自体はそもそも11年12月21日に武田が社長・長谷川閑史名義で藤沢・鎌倉両市長宛に届け出た書面に記載されている。ならば、武田としては何をおいても両市長に報告をすべきだった。市長はこれを受けて議会に報告する義務がある。いずれも果たされなかった以上、住民の安全への意識を疑わざるを得ない。

(敬称略)

LEAVE A REPLY

*
*
* (公開されません)

COMMENT ON FACEBOOK

Return Top