
創意工夫で「診療の場」を超えた存在へ
268 トヨタ記念病院(愛知県豊田市)
1938年、トヨタ自動車が愛知県挙母町(現・豊田市)の原野に工場を建設し、その一角に従業員向けの診療所が設けられた。その後一般病棟を備えた病院へ改組し、戦後に健康保険診療を開始して以降は、西三河北部地域の中核的存在として歩みを重ねてきた。
2023年5月の新築移転は、「ReBORNプロジェクト」と名付けられ、医療を通じて地域との関係性そのものを再構築する事を目指した。病院を診療を受ける以上の存在として位置付け、スタッフと患者、患者同士、人とAI、人と自然を繋ぐ未来型の「まち」としてデザインする「TOYOTA HOSPI TOWN」を設計コンセプトに据えた。例えば、外来待合は「公園」のイメージが漂い、単に待つ場所ではなく自由に過ごせる場所としている。
更に、呼び出し端末の導入により、患者は診察室付近に留まらずに過ごせる様になった。病院特有の緊張感を和らげ、時間の質向上を目指す発想には、トヨタが培ってきた「カイゼン」の思想が医療空間に表れていると言える。
新築移転の計画が進む中で、病院の在り方に奥行きを与えたのが、ホスピタルアートの導入だ。これを提案したのは、原紳也・小児科主査である。名古屋大学医学部附属病院時代、小児科病棟に施された装飾等に触れ、病院は子供の不安を和らげ、治療体験そのものを変える場所になり得ると強く感じたという。その経験が、新病院の空間作りに生かされた。
2階の小児外来は「モリモリの森」をテーマに、樹木や果物といった植物、鳥や魚、キャンプ場やブランコ等が壁や扉に描かれている。待合から診察室、検査室、相談室へと続く動線は、子供にとって森を探検する物語の様な体験となる。待合には賑やかな森の風景が広がり、マグネットで自由に遊べる「壁面積木」も設置された。診察を待つ時間は、退屈や不安の時間ではなく、想像力を刺激されるワクワクする時間へと転じていく。
6階の小児病棟では、廊下の壁に描かれた乗り物と、ロケットや飛行機、気球、船等を模したドアサインが、子供達の道標となる。番号ではなくイメージによって自分の部屋を発見出来るという仕掛けは、入院生活を前向きに送る為の工夫でもある。ナースステーションは病棟全体を見渡せる中央島型とし、看護師にとっての効率性と、子供にとっての「見守られている安心感」を両立させた。
一方で同院は、手術支援ロボット「ダヴィンチ」や自走式搬送ロボットの導入等、先進医療や医療DXにも取り組む。人とロボットが協働する未来社会の姿を先取りしつつ、自然光や緑を取り入れた空間設計、環境への配慮も随所に織り込まれている。
病院は、地域にとって単に診療を受ける場所ではない。人が集い、時間を過ごし、安心を持ち帰る拠点であるという姿勢には、弛まぬ改善と工夫によって世界的企業へと成長したトヨタの精神が息付いている。子供から高齢者まで、誰もが前向きな気持ちで訪れる事の出来る病院。その姿は、「地域医療の一歩先」を確かに示している。



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