
266 自然やアートに囲まれ病と心を癒す
河北総合病院(東京都杉並区)
昭和初期から多くの文士に愛されてきた杉並区阿佐ヶ谷。この街で1928(昭和3)年から地域医療を担ってきた河北総合病院は今年7月、旧病院の隣接地に新築移転した。用地は江戸時代から続く旧名主の屋敷跡で、地域では「欅屋敷」の名で親しまれる緑豊かな森となっていた。こうした環境を生かそうと、建設計画では「森の中の病院」をテーマに自然と調和した癒しの空間の実現を目指した。
敷地内の保存樹木を生かし、外構やアプローチに豊かな緑を配置する事で、四季の移ろいを身近に感じられる環境を整備。建物にも多摩産を中心に多くの木材を使い、温もりを感じさせる造りにした。院内の回廊からは日差しを遮る周囲の木々を見る事が出来、まるで自然の中にいるかの様な錯覚に陥る。
病室も木目調の落ち着いた雰囲気で、自然光や外の緑を取り込める様窓を配置し、患者が落ち着きと安らぎを感じられる空間を目指した。又、2階の外来フロアに設けられたホスピタルコリドーは、自然光と樹木の緑を取り込んだ開放的な大空間で、カフェも設けられ、患者や家族が診察前や見舞いの後に寛ぎ、安心して過ごせる憩いの場となっている。一方で職員側の働き易さにも配慮し、4階の管理部門ではフリーアドレス制や個人ロッカー、集中用ブースを整備する等、チーム連携と生産性の両立を図った。
「病院には何らかの悩みを抱えた人達が訪れるので、待合や病室、診察室には安らぎが感じられる配色、素材が必要だと考えた。病気の治療だけでなく、心を癒す場であり続けたい」と鎌田孝一院長は話す。
その象徴が、エントランスホールに入ると目に飛び込む、世界的に著名な壁画家の田村能里子氏が描いた縦2.2メートル、横8メートルの大作「季(とき)の輝き」だ。桜や紅葉に彩られた草原に様々な衣装を纏った女性や子供らが集う様子に、移り変わる季節を表現したという。河北博文理事長は、「医療は科学の積み重ねであると同時に、祈りや希望を包み込む営みでもある。ここに描かれた光の表情が、患者や家族の心を少しでも明るく照らし、それぞれの人の信じる神に想いが届く様、壁画を見上げて欲しい」と話す。
こうした思いを体現する入院病棟では、安全・安心を徹底した機能面の充実にも力を注いだ。最新のセキュリティーを導入し、患者が安心して過ごせる様、全ベッドをIC化されたスマートベッドとした。患者のケアでは、河北医療財団独自の新看護提供方式を採用し、患者に寄り添う「恕(おもいやり)の美しい看護の探究」という看護部理念の実現を目指す体制を整えた。がん診療については、抗がん剤治療を行う化学療法室を12室へと倍増させ、最新鋭の放射線治療機器も導入した。そこには、地域住民のがん治療を地域で完結させたいとの思いが有る。
病院は3年後に開設から100周年を迎える。竣工した新たな施設について、河北理事長は「先ずは職員が安心して仕事が出来る環境を整えた。職員が仕事に打ち込めるからこそ、良い医療を提供出来る」と胸を張る。癒しの環境と高度医療を両立した最先端の病院として、地域の医療を支えていく。



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