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「消費税減税」は高市政権のリスクとなるか

「消費税減税」は高市政権のリスクとなるか

「国民会議」初会合で早くも疑心暗鬼

高市早苗首相は2月20日の施政方針演説で、「私自身の悲願」としてきた飲食料品の消費税率を2年間ゼロにする方針について、「超党派の『社会保障国民会議』で夏前には中間取り纏めをし、税制改正関連法案の早期提出を目指す」と述べ、改めて実現に強い意欲を見せた。しかし、自由民主党内にはインフレ懸念から減税に慎重な声が燻り、国際通貨基金(IMF)からは積極財政そのものを否定された。首相は「野放図な財政政策は取らない」とも強調するものの、消費税減税の先行きは不透明だ。

 「長年続いてきた過度な緊縮志向、未来への投資不足の流れを断ち切る」「成長のスイッチを押して、押して、押して、押して、押しまくる」

 20日の施政方針演説は、投資の拡大を成長に結び付け、税収を自然増に向かわせるという高市イズム全開の内容だった。人工知能(AI)や半導体等、戦略17分野への「成長・危機管理投資」を軸に据え、官民の投資を呼び込む意向だ。

 消費税減税に関しては、物価高や税と社会保険料負担に苦しむ中・低所得層の人々への負担軽減策と位置付けており、首相は所得税の減税と現金給付を組み合わせた「給付付き税額控除」を実現する迄の「繋ぎ」と説明している。

 首相は全閣僚を再任した第2次高市内閣発足を前に、片山さつき財務相、林芳正総務相、城内実日本成長戦略相の3閣僚には「消費税の在り方の検討、給付付き税額控除の制度設計を含む税と社会保障の一体改革に取り組む」と記した指示書を渡した。首相は消費税減税を賄う財源について、「特例公債(赤字国債)に頼らない」と再三強調している。それでも実現には1年で約5兆円の財源が必要というのに、どう捻出するか具体的な事は語っていない。

 現時点で税率ゼロとするのは8%の軽減税率の適用を受けている飲食料品に限っている。軽減税率対象外の外食産業(税率10%)は価格差が広がる事による売り上げの減少を心配しており、その対策を積み上げるなら所要財源は一層膨らむ。

 高市政権は国や自治体が社会保障、公共事業等の政策経費を税収等でどれだけ賄えているかを示す基礎的財政収支(プライマリーバランス)の黒字化について、従来の単年度の目標ではなく数年単位の目標に見直す方針も打ち出している。こうした財政規律への緩い姿勢に、市場は政権発足直後から警告を発してきた。長期金利は上昇を続け、円㌦レートも円安の方向に流れている。過剰投資による需要超過がインフレを招くとの警戒感を拭えないでいる。

消費税減税を検討する「国民会議」始まる

 衆院選での圧勝を受け、首相は「信任を頂いた」と強調し、「責任ある積極財政」への政策転換を正当化しようとしている。但し、消費税減税に関しては「国民会議で財源やスケジュール等、実現に向けた検討を加速する」としか言っておらず、自民党の公約も同様の表現に抑えていた。

 国民会議への参加打診に当たり、自民党の小林鷹之政調会長は声掛けする野党を中道改革連合、国民民主党、チームみらいの3党に止めている。「消費税を社会保障の重要な財源と認識」し「給付付き税額控除に賛成」する政党に限ったとして、参政党、日本共産党、れいわ新選組等には呼び掛けていない。少数与党に陥っていた衆院選前は、法案を国会に出す前に超党派で議論して合意する事を重視していた。ところが大勝で一転、その必要が無くなった事が背景に有る。

 その国民会議の初会合は2月26日夕、首相官邸で見切り発車の形で開かれた。出席者は首相以下関係閣僚、与党幹部等。中道、国民両党は参加を見送り、野党からはチームみらいの安野貴博党首のみが参加した。首相は「全世代を通じて納得感が得られる社会保障の構築に向けた国民的議論を進める必要が有る」と語り、法案の早期国会提出を目指す考えを示した。

 国民会議への参加要請に対し、みらいは積極的だったが、他は慎重だった。中道の小川淳也代表は「(消費税減税を)万が一やらない時、『野党がこう言っているから』と言われても困る」。国民民主の玉木雄一郎代表も、「(給付付き税額控除に)慎重な人も入れて丁寧な合意を形成するのが筋だ」と指摘していた。同党の中堅議員は「参加の有無に関して党内で意見が割れている」と明かし、「減税が実現したら自民党の手柄にされ、逆に実現しなかったら野党の責任にされ兼ねないからだ」と漏らしていた。

 参加を望みながら拒否された参政の神谷宗幣代表は「自分達のやりたい方向に議論を持っていく出口有りきの進め方になっているのではないかと強い懸念を持っている」と批判した。共産の小池晃書記局長は「(参加が3党だけで)『国民会議』の名に値しない」と切り捨てた。

 一方、みらいは衆院選で唯一消費税減税に反対し、減税に慎重な有権者の受け皿となって躍進した。それにも拘わらず、みらいに参加を呼び掛けたのは首相の強い意向だという。理由について首相周辺は給付付き税額控除の制度設計にAIエンジニア等が集うみらいのIT力が生かせると考えたという。所得に応じた給付システムの整備には高度なデジタル化が不可欠という点を見越しての事だ。

 只、それだけでは無いかも知れない。「消費税減税の検討加速」について、首相は常に「野党の協力が得られれば」との条件を付してきた。減税の有無を巡って党内が揉めたり、市場からの警告が続いたりした場合は、「チームみらいの反対」を理由にして議論を「減税無し」の方向に収束させる事も視野に入れていると政界では見なされている。

IMFからも否定的な提言

結局、国民民主は参加を決め、中道も追随する事にはなった。只、選挙結果を踏まえ、直後は首相に従順だった自民党内の減税慎重派も、時が経つに連れ冷静さを取り戻しつつある。その中の1人は「物価高対策としては消費税減税より他の方法がいい、との結論が出て消費税減税は撤回されるのではないか。希望を含めてそう見ている」と語る。

 実際、赤字国債の発行無しに消費税減税で穴が空く分を埋める財源捻出は難しい。官邸内では為替介入の為の外国為替資金特別会計(外為特会)の資金流用や、日銀が持つ上場投資信託(ETF)の売却等が案として浮上してはいる。だが、外為特会の2024年度の剰余金は約5・3兆円で、内約3・2兆円を一般会計に繰り入れしている。この繰り入れ分を減らしても、生み出せるのは年に数兆円だ。

 外為特会の約210兆円に及ぶドル建て資産を円に換える手も取り沙汰されているが、米国債の大量売却となるだけに米政府が容認する可能性は低い。又、ETFは50兆円近い含み益が出ているものの、短期間での大量売却は市場の混乱に繋がり、やはり採り難いのが実情だ。他には政策減税の租税特別措置の見直し、不要不急の基金の返納等も財源捻出策として挙がっている。だが、市場は納得しても各分野の族議員を説得する必要に迫られる。

 財政に詳しい自民党議員は「2年分の財源なら、あちらこちらから掻き集めて何とかなるかも知れない」と話すが、懸念するのは「出口」だ。「ゼロから税率を元に戻す時は、大増税と受け止められる。そんな事、出来る筈が無い。消費税減税は最初からやらないのが政権のリスク管理だ」と断言する。

 「対象を絞らない消費税減税は財政リスクを高め兼ねず、避けるべきだ」。2月17日、IMFは日本経済に関する審査の後、こう提言した。高市政権の飲食料品に絞った2年限定の消費税減税については「財政コストの抑制に繋がる」としたとは言え、1100兆円を超す日本の国債発行残高を踏まえた評価の中軸は、「積極財政」そのものの否定にある。

 「財政規律にも十分配慮した財政政策こそが、高市内閣の『責任ある積極財政』だ」。首相はこう主張し、市場の懸念払拭に努めている。だが、廃止を決めたガソリン等の旧暫定税率分の代替財源と26年度からの教育無償化費を合わせ、片山さつき財務相によると未だ7000億円台の穴が空いている。米国から防衛費の増額も迫られる中、打てる手は極めて限られている。

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