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未来の会

2040年に向け医療体制に変革を
〜日本医療のグランドデザインを描く為に~

2040年に向け医療体制に変革を〜日本医療のグランドデザインを描く為に~
相澤 孝夫(あいざわ・たかお)1947年長野県生まれ。73年東京慈恵会医科大学卒業。同年信州大学医学部附属病院(内科学第二講座)。94年特定医療法人慈泉会相澤病院 理事長・院長。2008年社会医療法人財団慈泉会相澤病院理事長・院長。17年院長退任、社会医療法人財団慈泉会理事長、相澤病院最高経営責任者。同年日本病院会会長(現在5期目)。20年日本人間ドック・予防医療学会理事長、22年同顧問。コロナ禍では、長野県松本市独自の医療提供体制「松本モデル」の推進により医療崩壊の抑止に貢献。『患者に医療を取り戻せ 相澤孝夫の病院改革』(信濃毎日新聞社出版部)に相澤病院の軌跡と同氏の病院経営哲学が綴られている。

全国2582病院が参加する日本病院会は、日本の病院を代表する団体として政府に対し様々な提言を行っている。5期目となる相澤孝夫会長は、コロナ禍の長野県松本地域に於いて、医療機関の連携と役割分担を軸とした独自の医療提供体制「松本モデル」を主導し、医療崩壊を未然に防いだ実績を持つ。人口減少で医療需要が変化し、病院経営が逼迫する一方で、2040年を見据えた医療のグランドデザインは未だ明確に示されていない。現状への危機感と、持続可能な医療提供体制の確立に向けた道筋について話を聞いた。


——2025年5月に日本病院会会長として5期目に入りました。日本病院会の取り組みについてお聞かせ下さい。

相澤 25年度の日本病院会の基本方針として、①病院の経営支援の為の迅速な財政出動、②診療報酬による入院基本料の引き上げ、③「かかりつけ医機能」の制度上の明確化と国民ニーズへの対応、④総合診療医の育成支援、⑤DXや人材確保を含めた地域医療の存続と機能強化の為の財政支援、の5点を掲げ、これらを軸とした要望・提言を行っています。ご存知の通り、現在赤字に追い込まれている医療機関が増加しています。医業赤字病院の割合は23年度は70.8%でしたが、24年度には74.6%に増加し、経常赤字病院の割合も、52.1%から65.6%に増加しました。しかし、こうした状況は医療界では認識されているものの、一般の方々に殆ど知られていません。政治家を含め、医療関係者以外の多くの方は、「病院は、外来にはいつも患者が大勢いて、入院病床も7割は埋まっている。それだけ患者がいれば赤字になどなる筈が無い」と受け止められています。そこで、日本の医療の現状と病院経営の厳しさを知って頂く為に、日本病院会としてYouTubeでの公式動画の配信を25年5月から積極的に開始しました。これを切っ掛けに国民を始め、メディアからも多くの反響を頂き、テレビ等を通じてこの現状を訴える機会も増えました。

——現在の日本の医療に於いて、最も本質的な課題は何処に在ると思われますか。

相澤 現在の日本の医療を取り巻く課題の根底には、「人口減少」が在ります。高市早苗首相も首相官邸での初会合で、我が国が抱える一番の問題は人口減少であると発言されていました。日本の人口は2050年代には1億人を切り、昨年出生した子供が70歳になる2100年頃には人口が6000万人になると言われています。人口構造も大きく変化し、高齢者人口が増加すると共に、15歳から64歳迄の生産年齢人口が急激に減少していきます。当然ながら、産科で扱う分娩数は減少し、病院は産科を置いておく事が困難となります。これにより各地でお産が出来ない地域が生まれてしまう事が大きな問題となっています。分娩は様々なリスクを伴い、麻酔や緊急手術が必要になる場合が有ります。産科医だけでなく麻酔科医の常駐も必要ですが、件数が少なければ赤字が増えるばかりです。子供の数も減り、小児科の病棟は空きが目立つようになりました。最近は優れた治療薬が沢山有り、外来のみで或る程度の治療が可能な為、入院する必要が無くなってきています。このままでは供給過剰となり、病院の赤字が益々進行する事が懸念されます。今の内にしっかりとした対策を取る事が必要です。

地域単位のベースを「3万人」として病院を配置

——将来の日本の医療の「グランドデザイン」が定まっていない事が指摘されています。

相澤 現在議論されているのは、「2040年」を見据えた新たな地域医療構想です。40年は、現役世代の働き手が大幅に減少し、医療ニーズのピークを迎える極めて重要な時期です。しかし、新しい計画策定の議論が厚生労働省や他の医療団体との間で中々纏まらず、構想作り自体が停滞しています。現状は「今直ぐの変革は避けたい」という考えが強く、どうにか乗り切ろうという曖昧な議論に終始しています。「2040年」という最終年限だけが示され、その途中段階で何をどこ迄整えるのかが明確になっていない。中間目標が無ければ、現場は「今年何をすべきか」が見えず、結果として現状維持に留まってしまう。時間軸を切った工程表こそが、改革を動かす鍵になります。少なくとも30〜35年頃迄に、病院の役割分担や地域医療の姿を一定程度完成させておかなければなりません。

——どの様なビジョンを描き、どの様に制度設計へ反映すべきでしょうか?

相澤 21年6月に開催された国土審議会計画推進部会「国土の長期展望専門委員会」の資料では、人口約3万人に対して1つの病院が成り立つと試算されており、これを基本的な病院配置の単位とする事が1つの解決策として考えられます。大雑把に計算すると、人口1億2000万人であれば、4000病院。1病院当たり150床とすれば、60万床という数字が青写真として浮かびます。もう1つ考慮しなければならない問題は、人口の変化には大きな地域差が有る事です。或る地域では人口密度が低くなり、配置された医師、看護師、施設設備を賄えるだけの患者がいない病院が出てきています。そうした地域では、恐らくもう少し範囲を広げた地域単位で考える必要が出てくるでしょう。当然ながら病院は偏在していますので、そうした事も踏まえて人口と病院の数をどの様にフィットさせていくのかを議論していく必要が有ります。例えば、1つの地域に病院が2つ在れば、6万人の範囲をこの2つの病院で守るという事が考えられます。東京の様に人口密度が高い地域では、3万人ではかなり狭い範囲になってしまう為、病院の規模を大きくするか、狭い範囲により多い数の病院を配置する事になるでしょう。

「地域型病院」と「広域型病院」で機能を分化

——少子高齢化と人口減少が進行する中で、病院はどの様に事業構造を変革すべきでしょうか?

相澤 病院の配置を適正化すると共に、それぞれが担う機能を明確にする必要が有ります。私は、地域の日常医療を支える病院を「地域型病院」と位置付けています。規模は必ずしも大きくありませんが、開業医と連携しながら外来や在宅を中心とした医療を担い、少子高齢化が進む日本に於いて、今後の地域医療を支える中核的存在になると考えています。日常的な医療とは主に外来と在宅医療を指し、これらは通常、患者の自宅から1時間半や2時間も離れた場所では提供するのが難しいものです。厚生労働白書(20年版)の「国民の意識調査」でも、15〜30分位の場所で外来と在宅医療を提供して欲しいという声が上がっています。医療提供側としても、移動時間を考慮しながら対象区域を想定しなければなりません。人口3万人を地域単位と設定した場合、移動に2時間以上も掛かってしまう地域が沢山在ります。そこをカバーしていくのが遠隔診療や巡回診療となります。

——病院の在り方が変わっていきます。

相澤 これから病院は競合するのではなく、互いに協力し合い共存していく事になるでしょう。一方で、地域型病院では担えない高度な医療機器や検査機器を備えた病院も必要です。厚労省ではこうした病院を「急性期拠点病院」として30万人の地域に1つ配置しようとしていますが、私自身はこれを「広域型病院」と呼び、60万人の地域に2つ配置するのが良いと考えています。何故2カ所なのかと言うと、その病院が機能不全に陥った場合に患者の命を救う事が出来なくなってしまうからです。2つ在れば、もう片方がそれを補完出来ます。


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