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未来の会

「あなたの調剤薬局」を巡り激化する争訟

「あなたの調剤薬局」を巡り激化する争訟

調剤薬局再編に水を差すイントロン社と健康サロン社の泥沼訴訟

厚生労働省は2015年10月に「患者のための薬局ビジョン」を策定。調剤薬局の在り方の新たな方向性が示された。

 この頃、約40兆円の医療費の内、約7兆円を占めた調剤医療費の中身を見れば、処方箋枚数の増加がこれを押し上げ、医療費の増加圧力の一因となっており、処方と調剤を分離する医薬分業が有効に機能していないという声が上がっていた。問題は医療機関の門前薬局が乱立し、薬の一元管理がなされていない事。そしてそのせいもあって、患者が負担増に見合うサービスを実感出来ていない事だった。

 これを受け、当時の塩崎恭久厚労大臣が15年5月26日の経済財政諮問会議で「薬局を患者本位のかかりつけ薬局に再編する」と表明。そうして打ち立てられたビジョンでは、門前薬局の硬直的な体制を、地域包括ケア的なかかりつけ薬局に再編する事が掲げられており、その方策の1つとしてICTを活用してDXを進める事が挙げられている。かかりつけ薬局が患者の服薬情報を一元的・継続的に把握可能になる事で、それに基づいた薬学的管理・指導、24時間・在宅対応、医療機関等との連携が図れて患者の利便性が向上するというわけだ。 

 この流れに民間でいち早く対応したものの1つが、19年10月にサービスを開始した「あなたの調剤薬局」だ。同サービスはLINEを活用した調剤フォローを内容とし、患者がスマホ等の端末からLINEでこれを導入する薬局の検索と処方箋予約を完結出来、薬局はこれを元に集患、処方箋受付、服薬フォローの自動処理をLINEで行える。更にはAIによるトレーシングレポートの自動作成や、お薬手帳の電子化、LINEを利用してのオンライン服薬指導等も行えるとあるのだから、正にビジョンが目指す、かかりつけ薬局再編とDXの先端を行くサービスと言って良いだろう。
 確かに薬局通いが頻繁な人にとっては非常に便利なツールで、導入する薬局側にも、集患で大いに役立つ筈だ。だから19年のサービススタート後、瞬く間に利用者が拡大し、今年2月末時点で加盟店薬局は全国1200店舗、利用患者は数十万人規模にまで及んでいた。
 だが、これも今後は大きく形が変わりそうだ。と言うのも昨年12月に、サービスの運営を行う2社の間で金銭を巡るトラブルが訴訟沙汰にまで発展したかと思えば、それが止むどころか両社の対立は激化。果ては刑事事件化の様相まで呈しているからだ。

「患者の為の薬局ビジョン」実現に水を差す争訟

 トラブルの当事者は、医療コンサルティングや医療情報のプラットフォーム構築等を行う健康サロン株式会社と、埼玉県を中心に約40の調剤薬局を運営するイントロン株式会社。「あなたの調剤薬局」は、健康サロン社がサービスを開発、イントロン社にシステム著作権を売却後は、販売代理店の側に回って顧客開拓・営業に当たってきたのだが、23年5月から健康サロン社によるイントロン社へのシステム使用料売上等の入金が滞るようになり、24年12月には約6000万円(後に約1億円に増額)の支払いを求める民事訴訟に発展してしまう。
 だが、ここ迄ならよく在る金銭トラブルの問題。訴訟の原因を見ても、システム運営と営業の役割分担とその金銭的配分を巡る意見対立で、新たなサービス分野なだけに、見込みと現実が食い違って、それが金銭問題に発展するというのは、ともすれば有り勝ちな話と言えなくもない。問題はそこから先で、時を追う毎に対立が深まって、互いの消滅戦とも言える迄に高まってしまっているからだ。
 イントロン社は未払金支払請求訴訟と健康サロン社の銀行口座について、25年1月に約3400万円、5月に約4200万円の仮差押の申立を行った上、5月には更に健康サロン社について破産手続開始の申立も行う。対する健康サロン社も、3月に特許権に基づくシステム停止仮処分命令の申立を行い、これは本訴との兼ね合いを勘案した裁判所の判断が在って6月に取り下げられるのだが、それと同時に、知的財産権利用許諾契約についての契約不存在確認請求訴訟に打って出る。だから現在時点では、イントロン社からの訴訟と破産申立と、健康サロン社からの訴訟の3件が争われている。
 両社間の訴訟はまだまだ時間が掛かるだろうが、その中、破産申立については12月23日に審尋が在る。これに関して、健康サロン社は7月25日に会見を開き、破産手続の前提となっている銀行口座の仮差押については既に解放金を供託したのに加え、2億7500万円の資金を調達し、同社の業績に於いても、25年9月期第3四半期時点で売上高7億円、営業利益も4億円弱を計上しているとし、倒産や経営危機を真っ向から否定している。
 さて、では何故健康サロン社は、わざわざ会見まで開いて周知する必要が有ったのか。それはイントロン社の苛烈とも言える対抗姿勢による。
 イントロン社のホームページでは、7月から健康サロン社との関係に関する「お知らせ」が頻出するようになり、訴訟の経過についての報告だけで5回を掲載。傍目からも、異様な感は否めない。尤もこれは空中戦とも言ったもので、既に地上戦は健康サロン社が3月に裁判所にシステム停止仮処分命令の申立を行った辺りから始まっていて、イントロン社は加盟店に対し、健康サロン社の倒産可能性を示唆する案内を水面下で行っていた。黙っていられない健康サロン社は、営業妨害等を訴えて警視庁渋谷署に相談したところ、6月4日にスピード受理されて、目下、捜査が行われていると言う。もはや民事だけでは済まされない程、事態は深刻化しているのだ。更に問題なのは、そのしわ寄せが顧客に迄及んでいるという事だ。

争訟の皺寄せは顧客に及ぶ
「あなたの調剤薬局」HPより

9月には加盟店の或る薬局が、イントロン社にデータを預けておくのは危険と、データの引き渡しと保全を求める仮処分の申立を行った。この薬局は健康サロン社とサービス利用の契約をしたものの、健康サロン社を排除後、イントロン社から新たな契約を結ぶよう迫られ、それに従わない場合、期日をもって「本件システムの利用を停止することを通知」していて、期日を過ぎれば、「本件システム内にある債権者(※薬局側)のデータは消去され、復元もできなくなる旨を通知している」と言う。
 つまり個人データを盾に、新たな契約を迫られていると言い、これは厚労省が示すガイドライン違反に該当する可能性も有り、もしそうなれば行政罰も有り得るのだ。同様の申立は現在複数の加盟薬局が検討していて、集団申立の可能性も有る。
 サービスを利用している薬局経営者はこう語る。
 「それ迄は健康サロン社との関係で契約を結んでいました。ところが同社とトラブルになったからという事で、急にイントロン社が出てきた。それはそれで良いでしょう。しかし調剤に関する重要な個人データを扱っているのに、今後どうなるか明確な説明も無いまま、うちと契約を結ばないとデータがどうなるか分からないと言う。イントロン社が運営を引き継いだなら引き継いだでちゃんとやって、エンドユーザーに揉め事を振って来るなと言いたい」
 民の争いに勿論厚労省は静観しているが、同省関係者はこう言う。「ビジョンを先駆けてたサービスでトラブルになっているのですから、全体の流れに水を差す様で全く困りもの」
 まさしくその言葉通りで、一刻も早い鎮静化を願う他無い。何時まで患者軽視の争いが続くのか? しっかりとウォッチを続けよう。
(本件についてイントロン社へ取材を申し入れましたが、期日迄に回答が得られませんでした)

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