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未来の会

267 東京大学医学部附属病院(東京都文京区)

267 東京大学医学部附属病院(東京都文京区)

「自然」を取り込み、癒しを届ける病院へ
267 東京大学医学部附属病院(東京都文京区)

戸時代の蘭方医が開いた「お玉ヶ池種痘所」を発祥とする東京大学医学部附属病院(以下、東大病院)は、開設以来、日本の医学と医療を牽引し続けてきた。2025年のNewsweek誌「World's Best Hospitals」では日本1位、世界16位と評価される等、日本を代表する病院だ。
 その東大病院でホスピタルアートの導入プロジェクトが始まったのは24年春。患者が安らぎや心地良さを感じながら療養生活を送れる様にすると共に、アートの導入をスタッフ間のコミュニケーションやモチベーションの向上の機会に繋げようとスタートした。
 これまでも院内には、多くの寄贈絵画や書が飾られていたが、田中栄病院長は、統一感のあるアートを導入する事で職員のチームワークを高めたいと考えていた。コンセプトや実施計画を検討するワーキンググループには、医師・看護師・薬剤師・弁護士・事務職員等11職種のスタッフに学生を加えた計54名が参加し、多角的な視点から議論を重ねた。その結果、「自然」「癒し」「心地よさ」「グリーン」「東大らしさ」「品格」という6つのコンセプトが打ち出された。
 作品制作に当たっては、当初はワークショップの開催も検討されたが、参加人数の制約により、十分な規模での実施が難しいとの判断に至った。より多くの来院者に質の高い癒しを届けるには、完成度とクオリティを確保する必要があるとして、最終的に専門アーティストへ制作を委ねる方針が採られた。
 依頼したのは、自然環境と人間の関係性をテーマに染色技術を用いた作品を発表し続けている山本愛子さん(現・京都精華大学芸術学部非常勤講師)で、東京大学のキャンパス内に自生する植物の中から、葛と椿の葉を選び、草木染めの作品を制作する事になった。これらは東京大学本郷キャンパス内の植物でも、古くから薬草として知られ、親しまれている。
 山本さんは、葛と椿の染料に同系色の染料を重ねて、滲みや揺らぎで境界の無い柔らかな世界を表現した。爽やかな緑の濃淡が印象的で、見る人の内面に様々な感情を呼び起こす。作品は大小11点からなる連作で、「内景 NAIKEI — Inner Landscape」と名付けられた。
 完成した作品は25年5月、外来診療棟の1階に6点、2階に5点が飾られた。患者や家族が待合室の椅子に座ると、鮮やかな緑の作品が目に入る。山本さんは「作品を感じるひと時に呼吸を整え、心を緩め、待ち時間を少しでも穏やかで豊かなものにして欲しい」と作品への思いを寄せた。作品の制作過程は、動画を公式YouTubeチャンネルで紹介し、多くの人に親しみを感じて貰える工夫も凝らした。
 今後病院では、ホスピタルアート導入のが患者や職員に与える効果について研究を進める計画もある。田中病院長は、「患者のQOLの向上など効用を検証していく事で、ホスピタルアートが日本でも普及し、患者や家族、職員も心が安らぐ病院作りが広がれば嬉しい」と期待を寄せる。日本の医療の最先端を担う東大病院は、アート作品による癒しの力を得て、その医療空間の在り方を益々進化させていく。


267_東京大学医学部附属病院

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