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第189回 浜六郎の臨床副作用ノート◉ スタチン剤による糖尿病発症

第189回 浜六郎の臨床副作用ノート◉ スタチン剤による糖尿病発症

体に基本的に必要な物質に影響する薬剤は、目的とする作用以外に様々な害作用を有する。コレステロール低下剤の代表格スタチン剤もその1つである。身近な薬剤による害反応−処方カスケードの可能性がある薬剤として取り上げたスタチン剤1)の概要を紹介する。

対照的な症例の紹介

症例1:HbA1cが5%以下の52歳男性2)。LDLコレステロール170〜180mg/dLでロスバスタチン40mgを開始後、数週間以内に多尿と体重減少がみられ、3カ月後 HbA1c 12.4%。ロスバスタチンが原因と疑われて中止しただけで症状が消失し、3カ月後HbA1cは5.5%と回復。

症例2:糖尿病既往歴のない48歳の男性3)。健診で総コレステロール値 311mg/dLを指摘され、アトルバスタチン10 mg/日を開始。1カ月後の食後2時間後の血糖値110mg/dL。4カ月後、のどの渇き、体重3kg減少。昼食後30分の血糖値が537mg/dL、HbA1c11.5%であった。2型糖尿病と診断され、食事療法のみで1カ月後、朝食後2時間の血糖値が452mg/dL、HbA1cは13.2%と著増していた。

インスリン治療が開始され、アトルバスタチンを中止。インスリンは、約1カ月後に最大24単位を要したが、その後急速に減量し2.5カ月後には中止した。朝食後3時間の血糖値は104mg/dL、HbA1cは7.3%となった。インスリン中止後も血糖値は食前106mg/dL、食後2時間180mg/dLで、以後食事療法のみでコントロールは良好であった。

3カ月後、高コレステロール血症のためプラバスタチン20 mg/日処方。4カ月後HbA1cは8.4%、空腹時血糖値322mg/dLと再び上昇し、プラバスタチンを中止。6カ月後のHbA1cは6.6%、空腹時血糖値97mg/dLに低下した。

症例の解説

症例1では、ロスバスタチンを疑い中止し、糖尿病は改善した。一方、症例2は、アトルバスタチンが原因と考えず食事療法のみで、HbA1c13.2%の著増でようやくアトルバスタチンを中止。一時は1日24単位のインスリンが必要であったが、幸い、2カ月余り後には、インスリンを中止できた。しかし、スタチン剤による糖尿病誘発への警戒が薄く、高コレステロール値にとらわれて、プラバスタチンが処方され、再度糖尿病を悪化させている。膵臓β細胞の不可逆的な傷害を起こさなかったのは幸いだが、気づかれずにスタチン剤を継続したまま血糖降下剤が使用されれば、害反応−処方カスケードを起こした可能性は濃厚である。

添付文書に記載

米国食品医薬品庁(FDA)が2012年、疫学調査の結果を踏まえスタチン剤の添付文書に、血糖値とHbA1c上昇を記載。その後の疫学調査で、5年間で糖尿病が57%増加、15〜20年間追跡例で3.6倍に増えたとの報告がある。

そもそもコレステロールは高値の人が長寿

コレステロールは、細胞膜の重要な構成成分であり、5種類のステロイドホルモンの原料になるなど、体にとって必須成分である。総コレステロールもLDL-コレステロールも、高めの人が健康で長生きである4)

スタチン剤は、コレステロールを低下させるだけでなく、エネルギー代謝に必須のユビキノンなども低下させ毒性がある5)。一般に信じられている「コレステロールを低下して循環器死亡や総死亡を減らす」との知見は誤りである5)6)

参考文献

1)薬のチェック2025: 25(122): 127-130.
2)Chen CB et al. Eur Heart J Case Rep. 2024: 8(8):ytae436
3)Ohmura C. et al. Endocr J. 2005;52(3):369-72
4)Ravnskov U et al. BMJ Open. 2016:6(6):e010401.
5)Okuyama H et al. Pharmacology 2018;101(3-4):184.
6)Ravnskov U et al. Expert Rev Clin Pharmacol2018;11(10):959

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