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未来の会

第58回「精神医療ダークサイド」最新事情
精神病床はどんどん減っていくのに

第58回「精神医療ダークサイド」最新事情精神病床はどんどん減っていくのに
ミニ精神病院化するグループホーム

あまりにも多過ぎて問題視されてきた精神病床の大幅削減が、いよいよ進みそうだ。今夏、自民・公明・維新の3党は、2027年4月までに精神病床を5万3000床削減することで合意した。過去20年余りで、減った精神病床は約3万7000床(02年約35万6000床、23年約31万9000床)に過ぎなかったが、長期入院患者の減少や少子化などで病床利用率は低下を続け、大幅削減は避けられない状況となっていた。

戦後に国が推し進めた隔離収容政策は、明らかに間違っていた。深刻な精神疾患ではない人たちまでもが、「世間体」や「目障り」などの理由で精神科病院に何十年も閉じ込められた。9月号の本連載で書いたように、超長期入院被害者である伊藤時男さんの精神医療国家賠償請求訴訟は敗訴したが、非道な構造を作り、放置した国の罪は極めて重い。

今後は、患者の地域生活を支える様々な仕組み作りが求められる。その土台となる精神障害者向けグループホームは足りず、早急に増やす必要があるのだが、質のチェックを怠ると「ミニ精神病院」が地域で増殖しかねない危険をはらんでいる。

今秋、筆者はYouTube(OUTBACKメンタルケアチャンネル)でスクープ動画を配信した。首都圏で複数のグループホームを運営する株式会社が、自社が開設した訪問看護ステーションの利用を入居者に迫り、拒むと退去をちらつかせる障害者虐待レベルの強要を行ったことが分かったのだ。

今夏、この会社の社長は入居者に対して、「訪問看護ステーション開設のお知らせ」と題した文書をいきなり配布した。「ご利用者様の健康状態を継続的かつ的確に把握するためには、医療と福祉のシームレスな連携体制が必要であると判断し、当該事業の内製化を決定いたしました。つきましては、令和7年7月より順次、ご利用者様および関係機関の皆様へご説明を開始させて頂きますと共に、正式な訪問看護事業の移管手続きを随時進めて参ります」。

グループホーム入居者に配られた文書

グループホーム入居者に、特定の訪問看護ステーションを押し付けることはできない。訪問看護の利用には医師の指示書が必要だが、ステーションの選択権は利用者本人にあるのだから。良識ある精神保健福祉関係者であれば、入居者が信頼を寄せている訪問看護ステーションを排除する愚行に及ぶはずがない。

ところが、この社長は戸惑う複数の入居者を前に、「会社のルールに則って頂けない場合はご退去頂く」と言い放った。会話の一部始終は、社長の許可を得て入居者の1人が録音しており、やり取りの最中、不安を募らせた入居者がパニック発作に陥ったことが分かる。

録音を知りながらこんな発言をする社長は、精神障害者を舐めているか↖福祉のど素人かなのだろう。グループホームの各部屋は入居者の家なので、常駐する職員も勝手に立ち入れない。だが、訪問看護は家に入るのも仕事のうちなので、内製化すると入居者を効率的に管理できる。一方、プライバシーも一元化される入居者は病院と大して変わらぬ管理漬けの日々となり、リカバリーが遠のいていく。

この件は看護師らが行政機関に通報し、入居者が守られる方向で進みつつあるようだが、金儲け第一主義の他業種参入が増えると、こうしたケースも間違いなく増えるだろう。地域社会に「ミニ精神病院」はいらない。

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