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羽田空港衝突事故と能登半島地震を受け航空法等を改正

羽田空港衝突事故と能登半島地震を受け航空法等を改正

発生後1年半での改正は異例とも言える迅速な対応

航空法等の一部を改正する法律が先の国会で成立した。この法改正は、能登半島地震による能登空港の被災と2024年1月2日に発生した羽田空港での航空機同士の衝突事故を受けて行われた。当該事故は離陸の為誤って滑走路上に進入していた海上保安庁の航空機と着陸した日本航空(JAL)516便が滑走路上で衝突した事故である。JAL機に搭乗していた乗客367名と乗員12名は全員が脱出して無事であったが、海保機に搭乗していた6名の内機長を除く5名が死亡した。JAL機は新千歳空港から羽田空港への定期便でエアバスA350‐941型。海保機はみずなぎ1号と呼ばれたボンバルディアDHC‐8‐315型であり、前日に発生した能登半島地震の対応の為に小松空港から羽田空港に事故の前に到着していた。海保機は被災地向けの物資を新潟の基地に運搬する道中で事故に見舞われた。

 JAL機は新千歳空港を25分遅れで飛び立ち17時40分に羽田空港に到着予定だった。17時43分2秒に管制官からJAL機に滑走路34Rへの進入継続の指示がされてJAL機は復唱した。続けて17時44分56秒に管制官からJAL機に滑走路に着陸の支障が無い事が伝えられJAL機が復唱。一方、17時45分11秒に管制官から海保機に誘導路C5の滑走路停止位置への走行指示と順番が1番目であることが伝えられ海保機は復唱。ところが海保機は停止位置を過ぎて滑走路に進入し停止した。その凡そ40秒後の17時47分頃に着陸許可を得ていたJAL機が滑走路34Rに着陸した直後に海保機と衝突した。海保機はその場で爆発炎上し、JAL機は炎を上げながら約1420㍍滑走した後に滑走路を逸脱し停止した。

 以上が事故の概要であるが事故の原因は何なのか。事故の直接的な原因は海保機が管制官の指示通りに停止位置で停止しなかった事である。管制官から海保機に滑走路への進入は許可されていない。離陸待ちの順番に関する管制官からの情報である「ナンバー1」という表現を離陸の許可を得たと勘違いしたのだろうか。海保機は管制官からの停止位置迄の走行の指示を正しく復唱しているが、滑走路への進入については復唱の記録が無い。同時期に海保機は目的地での電源車の手配に関する通信を行っていた。2つの通信が並行して行われた事が機長の認識と判断を狂わせたのかも知れない。又、海保機の機長は、自機が被災地対応を行っている事から管制官が優先的な特別の配慮をしてくれているものと思い込んでいたとも言う。

事故発生時の管制官の認識状況

 だが、管制官は海保機を捜索救難機の様に優先扱いはしていない。管制官が海保機の離陸待機の順番を1番にしたのは、JAL516便と後続のJAL166便の間隔が狭まり、着陸に乱気流の影響が生じると判断し、海保機を両機の着陸の間に離陸させる事でJAL166便が乱気流の影響を受けずに着陸出来ると考えた為にすぎなかった。東京ターミナル管制所の羽田出域調整席を担当する管制官(以下「DF」)が全体を見渡し、直接的には、飛行場管制所飛行場管制席東の業務を担当していた航空管制官(以下「タワー東」)が海保機と交信していた。

 タワー東はこの時、5機を担当していた。海保機は誘導路C5へ走行、JAL516便に着陸許可、出発他機が誘導路C1で待機、JAL166便には減速を指示し、海保機の離陸の為の間隔を確保、更に別の出発機はD滑走路05へ向かう出発機2機の後方にいた。これらの状況は担当した管制官の想定通りである。DFは空域監視画面及び空港面を表示する画面を確認しており、JAL516便の着陸後に離陸する筈の海保機が滑走路に入っている様に見えた事、JAL516便に対してゴーアラウンド(着陸復行)の情報が無い事からJAL516便の動向をタワー東に問い合わせている。タワー東は海保機が滑走路手前で停止しているものと認識しており、JAL516便の着陸後、速やかに海保機を滑走路に入れて離陸させる事を考えていた。その直後にJAL516便と海保機が衝突し、炎が上がった。

 タワー東の管制官のモニターには滑走路占有監視支援機能により、海保機とJAL516便の接近に関して注意喚起が表示されていたがタワー東は認識出来ていなかった。この時は同支援機能が発動した時の対応について規定が無く訓練もされていなかった。又、音声で警告を知らせる機能も無く注意が表示されるに過ぎなかった。JAL516便は順調な着陸を進めており、主脚が接地して間も無く海保機と衝突しており、機首が未だ上がっている状態の時に事故が発生した。JAL機のパイロットが滑走路上に他機がいる事に気付けなかった事は課題である。ボイスレコーダーには機体が停止後に小型機がいたとの発言が残されている。

事故防止の為に信号の活用と管制用語の限定

以上が事故の凡その全容である。この事故を受けて、改正航空法では滑走路への誤侵入を防止する為の安全対策を強化する。具体的には、主要空港に滑走路安全チームを設置する事、滑走路状態表示灯(RWSL)等の適切な運用を確保し、管制官との交信だけではなく信号によって滑走路への進入の停止を警告したり離陸の可能を知らせたりする機能を活用する事、滑走路進入車両に対して位置情報等送信機を搭載する事、飛行機の牽引や給油、貨物の搭降載等の事業者に対する安全監督体制の強化等である。

 又、飛行機の操縦者へのCRM訓練(クルー・リソース・マネジメント訓練)の義務付ける事も挙げられる。CRM訓練とはコミュニケーション能力やタスク管理能力を向上させる為の訓練であり、機長と副操縦士の間でのコミュニケーション(情報共有)は離着陸時の判断ミスの防止に繋がる。

 これらの施策は事故後に行われた、国土交通省の諮問機関である羽田空港航空機衝突事故対策検討委員会の取り纏めによるものである。その他に取り纏められた安全対策はパイロットに対する基本動作の徹底、管制業務の実施体制の強化、パイロットによる外部監視の徹底、滑走路の安全に係る推進体制の強化、管制交信に係るヒューマンエラーの防止等となっている。

 それに応じる具体策も既に順次実施されている。管制官から離陸順位を表す「No.1」や「No.2」等の情報提供がなされた場合も、滑走路進入にはCleared for take-off(離陸を許可する)、Cross runway(滑走路横断支障無し)、Line up and wait(滑走路に入って待機せよ)、Taxi via runway(滑走路を地上走行せよ)、Backtrack runway(滑走路を離着陸方向と反対に地上走行せよ)の何れかを要するとして誤認を防ぐ策等である。尚、事故の調査は国交省の運輸安全委員会だけではなく、諸外国の関係者も参加して行われた。又、国交省労組はこの事故を受けて航空管制官の大幅増員を求めているが、実現には時間が掛かる。

災害発生時に国が復旧工事を代行

 さて、航空法等の一部を改正する法律には空港での事故対策以外にもう1つ大切な内容が含まれている。能登半島地震で石川県の能登空港が被災し再開迄に時間が掛かった事を踏まえた措置である。具体的には、災害時に地方管理空港等の空港管理者から要請が有った場合には、国が所定の要件を充たす災害復旧工事やエプロンの利用の調整等に関する業務を当該空港管理者に代わって行う事が出来る様になっている。

 これらの法改正で災害発生時に非常災害指定を待つ事無く国が自治体等に代わって復旧工事を実施出来る様になる。能登半島地震では国が能登空港の復旧工事に乗り出す迄1カ月を要している。災害復旧に際して国が被災地方公共団体に代わって工事を行う事は、被災した地方自治体の負担を軽減し迅速な復旧に繋がる。

 羽田空港での事故と能登半島地震では多くの命が失われた。教訓を航空業界の安全意識の向上や災害対策に活かす事が、失われた尊い命に報いる為の最優先課題である。

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