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未来の会

救急現場の最前線
「24時間365日」断らない医療」で地域のニーズに応える

救急現場の最前線「24時間365日」断らない医療」で地域のニーズに応える

2018年4月に誕生した東京品川病院は、「24時間365日、断らない医療」を理念に掲げ、救急応需で高い実績を上げている。蒲池健一院長と救急科の岩田耕生医長にその秘訣を伺った。

——貴院が救急医療に注力した理由や背景は。

蒲池 我々が東芝病院から経営を引き継ぐに当たり、周辺の医師会や地域住民の皆さんから救急車を積極的に受け入れて欲しいというニーズが上がって来ました。この区南部医療圏(品川区・大田区エリア)には、高度急性期では昭和医科大学病院や東邦大学医療センター大森病院、NTT東日本関東病院等の大病院が揃っていますが、2次救急を受け入れている病院は足りない状況でした。当院としても将来的には3次救急や高度医療を多く扱って行きたいという気持ちは有りましたが、先ずは地域に根差した病院の役割として、必要とされる医療をしっかりと提供する事が大切だと考えました。その中で、救急は切っても切り離せないものでした。

——受け入れ体制の強化に向けた取り組みは。

蒲池 事業継承後、先ず初めに1階の正面玄関の横に救急搬入口を設け、救急救命室(ER)を増設する大規模工事を行いました。地下に在ったCTやMRIの機材もERの隣に移設し、パーティションも極力減らす等、救急医療への設備を整えました。救急部門の体制に関しては、最初の段階から「断らない」と決め、これに賛同するスタッフだけを集めて少人数でスタートしました。そこで良い体制が形作られると、スタッフが次々に率先して「手伝います」と言ってくれる様になりました。

——2022年には当初の予測を上回り、救急車受け入れ台数8000台、1日平均約24台を達成しました。

岩田 受け入れ台数が増えたのは新型コロナウイルス感染症が大流行した時期です。救急隊からの要請が次々に鳴る中、救急車の中で待っている患者さんをどうすれば受け入れられるか、対応方法を考えて努力を続けていたところ、応需が年間1000台ずつ位増えて行きました。病院の認知度が高まるに連れて、救急隊からもここに運べば受け入れて貰えると周知される様になったのだと思います。

——救急車を断らない為のチームワークや多職種連携で工夫されている事は?

蒲池 どうしても受け入れられない状況は別として、「受け入れたくない」と思ってしまう心理的な障壁を取り除きたいと思っています。例えば、診療科が専門外の場合や、周りから責められるかも知れないという不安です。特に研修医等は深夜に電話を掛けにくいという人もいるでしょう。当院の場合は上級医に相談し易い環境は勿論、オンコールの医師にタブレットを携帯して貰い、そこに画像を送って相談出来る様にしています。オンコールの医師は病院まで来る必要が無く、受け入れる側の心理的なハードルも下がります。

岩田 入院に関しても、看護部との連携でベッドの準備が素早く行える為、心理的なストレスは少なくなっています。満床を理由に断ってしまうのは簡単な事ですが、先ず当院で1回受け入れ診断を付ければ、患者さんにとっては「行き先」が出来るので、それも重要な役割だと思っています。

——会議体はどの様に運営されていますか?

岩田 平日は毎朝8時15分から救急カンファレンスを行い、前日の入院患者の診療科の割り振りを行います。日曜日はカンファレンスを実施していない為、入院時に診察した医師が月曜日の朝迄に必要なオーダーを出す等して管理しています。

蒲池 疾患だけで診療科を決めず、私自身も全ての画像を確認し、責任を持って割り振る様にしています。

——患者さんが診療科間を転々とせざるを得ない事案も有りますが、貴院の場合は如何でしょうか。

岩田 当院では寧ろ複数の診療科から手が挙がります。私が着任した20年4月には、既に患者さんを押し付け合わない文化が醸成されていた様に思います。

蒲池 大学病院であれば診療科で完全に病棟が分かれていますが、当院では夜間は空きの有る病棟で受け入れます。ですから、骨折の患者さんを一時的に循環器病棟で受け入れるという事も有り得ます。

——救急の患者さんは高齢者が多いのでしょうか?

蒲池 超高齢社会を反映して高齢者が多いのは勿論ですが、特に身寄りの無い独居の方が目立って来ています。そうした方々の中には、生活に困窮している様子が体調に表れているケースも多く見受けられます。しかし、その症状は特定の病気と断定し難く、診断や対応が難しいのが現状です。その為、他の医療機関では受け入れを断られてしまう事も少なくないのではないかと感じています。

——救急部門が赤字の病院も多い中、採算を取られているのは入院率が大きく影響しているのでしょうか。

岩田 救急搬送後の入院率は一般的に30%前後と言われていますが、当院は22年の救急車の受け入れ台数が約8300台のところ入院した患者さんが約3400名で約40%ですので、比較的高いのは事実です。

蒲池 当初は軽症が多かったのですが、最近は重症が増え、入院率が上がっているという状況です。病床の回転についても、連携室の看護師が空き状況や退院の情報をリアルタイムで把握してコントロールしている事で、ベッドの稼働率が上がり、収益にも繋がっているのだと思います。

——良い文化が醸成されている証ですね。

蒲池 当院のERは全科当直の為、常に様々な診療科や部署のスタッフが出入りし、オープンな環境である事が良いのだと思います。病棟でも、他科の医師が回診をしたり看護部が巡回したりする事で交流が生まれ、より良い文化を築けるのだと思います。

——救急医療の人材の育成・確保についての戦略と展望をお聞かせ下さい。

蒲池 一般的に有能な人材に負担が偏りがちになるものですが、当院では一部の医師に負担が集中する事の無いようにタスクシェアに取り組んでいます。又、人が嫌がる様な業務を進んで引き受けてくれるスタッフは、きちんと評価する様にしています。そうした良い人材によって救急の体制が充実し、更に良い病院になるという良いスパイラルを築いて行きたいと思っています。

岩田 人材確保の点では、ある程度新しい風も取り入れながら成長して行く雰囲気を醸成出来れば、更に地域のニーズに合わせて行けるのではないかと思います。


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