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患者への思いが紡ぐ癒やしのアート
260 磐田市立総合病院(静岡県磐田市)
江戸時代には東海道五十三次の見付宿が置かれる等、古くから交通の要所だった静岡県磐田市。その磐田市に陸軍病院見付臨時分院が開設されたのは1945年の事だった。翌46年に国民健康保険組合立磐田病院に引き継がれ、52年に市立磐田病院となった。以来、磐田市立総合病院へと名称を変えながら、当市を中心に静岡県中東遠地域の医療の中核を担い続けている。
病院でホスピタルアートの取り組みが始まったのは2018年。病院の新築移転から20年目の節目の年だった。アートを取り入れる事で患者らを癒やし、快適に過ごせる空間に出来ないかと静岡文化芸術大学(浜松市中央区)に相談すると、大学の学生らで作る団体「ホスピタルアートプロジェクトしずおか(HAPS)」が協力してくれる事になった。HAPSは14年から県内の浜松ろうさい病院や県立こども病院等で活動して来た。
学生らは早速、1階病棟用エレベーター前の廊下の展示スペースを「あーとぎゃらりー」と名付け、磐田市絵画クラブによる作品の背景に、透明感と光沢の有る布帛のオーガンジーを配して彩りを加えた。 それ迄は白い無機質な壁に市民の絵画作品が展示されていたが、明るい濃淡が加わる事で、温もりが感じられる空間となった。病院の中では感じる事の難しい「季節の移ろい」を目で楽しんで欲しいという思いも込められた取り組みだ。
最初は学生のみの活動だったが、21年からは病院職員も加わり、共同製作がスタートした。共同製作では、学生らがデザインや使う素材を決め、学生と職員が意見交換をしながらワークショップで制作を進めて行く。初めての共同製作では、12月だった事もあり、1階のガラス壁面に高さ4.2m、幅5.5mのスペースを使って、1頭のトナカイを描いた。
翌22年には、職員から「自分達の部門にもアートを取り入れたい」との声が上がり、手術室前の廊下等の装飾を行った。壁を白から淡い暖色に塗り直し、そこに色付けをした様々な大きさの丸い和紙をあしらった他、冷たい印象の有る手術室入り口のステンレスの自動ドアにも鳥や葉等の形のカッティングシートを貼り付けた。手術室に移動する患者の気持ちを少しでも和らげたいとの思いからだった。
こうした取り組みは、23年の周産期病棟や24年の小児病棟の装飾に繋がって行く。小児病棟では「森の遊園地」をテーマに、カッティングシートや木片を使い、廊下や処置室の壁に樹木や鳥、動物等を描いた。背の低い子供達の視線に配慮して、壁の下の方にも花や小動物を配置するのを忘れなかった。
共同製作には毎回、医師や看護師ら40人程が参加する。「患者らに明るくなって貰える企画で素晴らしい」という声と共に、「職員にとっても癒やしの時間になっている」との声も有る。芸術を学ぶ学生らと、患者に日々向き合う職員らが思いを1つにして制作したアートは、患者や家族だけでなく、全ての人に安らぎと勇気を与えている。
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