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救急、産科、がん診療にも強い総合病院 ~コロナ対応でも重責を担う基幹病院の真の実力~

救急、産科、がん診療にも強い総合病院 ~コロナ対応でも重責を担う基幹病院の真の実力~
本間 之夫(ほんま・ゆきお)1953年京都府生まれ。1978年東京大学医学部医学科卒業。都立駒込病院泌尿器科。82年三井記念病院泌尿器科医員。83年米国ノースウエスタン大学医学部病理学研究員。88年東京大学医学部泌尿器科講師。2000年東京大学大学院医学系研究科泌尿器外科学助教授。03年日本赤十字社医療センター泌尿器科部長。08年東京大学大学院医学系研究科泌尿器外科学教授。17年日本赤十字社医療センター院長。

新型コロナウイルスの感染拡大初期におけるクルーズ船への医療救護班の派遣から始まり、その後も重症患者の受け入れ等、コロナ対応の最前線で重責を担ってきた日本赤十字社医療センター。日本赤十字社の最初の病院としての伝統があり、一般の間でも「救急」と「お産」は看板診療科として広く知れ渡っている。だがそれだけではなく、がん診療でも国内トップレベルの技術力を有するという。


——新型コロナへの対応では、ご苦労されているのではありませんか。

本間 日本で最初の患者が出たのは昨年1月でしたが、世間が騒ぎ始めたのは2月のクルーズ船の集団感染からでした。その時は、医師、看護師、薬剤師など9人からなる医療救護班を派遣しました。9人というのは、2チームという事です。赤十字病院の中では最初でしたし、他の医療機関を含めても、非常に早い時期でした。日赤には医療救護班の資格制度があって、日頃から教育や訓練を行っていますが、そうした資格を持つ職員をいち早く送り出したわけです。しかし、3日後に戻ってきた彼らを出迎えた時、その情景は今でもよく覚えていますが、みんな疲労困憊で顔がげっそりしていました。船内活動については、いろいろ報道もされておりましたので、感染には最大限留意し、派遣した職員全員を2週間自宅待機としました。どんな病気かもよく分からず随分心配しましたが、幸い誰も感染せずに現場に復帰出来ました。

——どのような混乱があったのでしょうか。

本間 既にクルーズ船にはDMAT(災害派遣医療チーム)が派遣されていましたが、地震や洪水等の災害とは異なり、応急処置をして救急車で送り出すだけでは済まない状況でした。船内には多数の人が、それも多くは外国人が、十分な医療支援を受けられずに取り残され、船の医療スタッフも力尽きていました。いわば、(船籍のある)英国領の難民キャンプ状態だったのです。このような事態には、永く培った日赤の経験やノウハウが活きたようです。この後も、当センターや他の赤十字病院から追加の救護班が入りました。

院内感染の抑え込みに成功

——新型コロナウイルスが日本に入った最初期からご苦労があったのですね。

本間 ただ、当初は病院全体への影響はあまりありませんでした。市中感染が広がってからも、3月中旬くらいまでは、感染症科と呼吸器内科と救急科といった担当すべき診療科で対応出来ていたので、他の部署は黙々と自分の仕事をやっていればよかったのです。それが、3月中旬を過ぎる頃から、看護師が足りなくなる等、日常診療にもいろいろと影響が出てきました。そうなると、職員の間で「何かおかしいぞ」「何が起きているんだ」といった声が囁かれるようになったのです。不安や不信感が広がってきたのだと思います。

——あの頃はいろいろ不安でした。

本間 そのうち「あの病棟で患者がコロナを発症したらしい」「職員も感染したらしい」といった噂も飛び交うようになってきました。そこで、私が日報を書いて、コロナに関する情報を流すようにしました。それまでも隠していたわけではありませんが、何が起きているのかを知らせる方がいいと考えたのです。コロナ患者の入院数とか、院内での発生状況、診療体制をどう変えるかとか、感染対策の注意点等も併せて、日報にして出しました。それで、不安感や不信感が払拭されていったように思います。

——日赤医療センターは感染症の診療にも強いのですか。

本間 総合病院でも感染症科のある病院はそう多くないと思いますが、当センターには感染症科があって医師が3人います。新型コロナの診療も、多くの病院では呼吸器内科の先生が担当していますし、中小の病院なら内科しかないでしょう。感染症の専門家がいると、やはり違います。私も随分助けてもらいましたし、勉強にもなりました。

——院内感染等はなかったのですか。

本間 5月下旬に発生しました。4月に緊急事態宣言が出て、連休明けには流行がかなり収まり外来患者さんも戻ってきて、気が緩んだのかもしれません。無症状で入院してきた患者さんが、入院2日目から発症したのが発端です。PCR検査で陽性が分かり、同じ病室の患者さんや担当した職員を検査しました。その時は陰性で一安心したのですが、2日〜3日のうちに、ポツポツと陽性の人が出てきたのです。陽性者を隔離しても出てきました。このままでは抑え込めないという判断で、全ての患者さんを陽性者とみなして個室で管理するという策を講じたところ、ようやく発生が止まりました。コロナは感染力が強いので、徹底的な感染対策が肝心なのだと思います。可能性のある職員全員にPCR検査の陰性を確認し、復職プログラムを組んで学習してもらい、7月中旬にやっと終息宣言が出せました。規模的には、職員と患者さんが9人ずつの18人でしたが、その影響は大きかったです。職員のトラウマともなりましたし、経営的にも致命的なレベルでした。前向きにとらえれば、これが良い経験となったのでしょうか、それ以降クラスターは起きていません。

ICUをコロナ患者用に転用

——各地で医療崩壊が心配されていますが。

本間 医療崩壊には3つあると思っています。1つ目は、コロナ診療が滞るという意味での医療崩壊、2つ目は、コロナ診療のために他の病気の患者さんが診てもらえないという医療崩壊、3つ目は病院の問題で、患者さんが減る等して病院の経営が立ち行かなくなる医療崩壊です。コロナ診療が滞る医療崩壊にも、重症の患者さんが見合った治療を受けられないというのもあれば、自分はコロナじゃないかと不安な人が診てもらえないというのもあります。医療崩壊という言葉が躍っていますが、その内実を分析して問題を明確にしておく事が、対応には重要だと思います。

——日赤医療センターはどのような状況になっていますか。

本間 当センターは重症者の診療に重きを置いています。救急用のICU(集中治療室)を全室使って、東京都からの要請である7〜8床を用意しています。職員も人工呼吸器やECMO(体外式膜型人工肺)が使えます。ベッドは常時埋まっていて、これ以上増やすのは難しいですね。一般患者用のICUもありますが、そこをコロナ対応にすると、他の診療が止まってしまいます。中等症用には呼吸器内科の病棟を充てて、25〜30床を用意しています。問題は病床数より人員ですね。ベッドがあっても人がいなければ動きません。コロナ診療には、大まかに3倍の看護力が必要になりますから、その看護師さんを確保するために他の病棟を休床にしなくてはなりません。この休床に伴う収益の損失は大きいです。経営的な医療崩壊を防ぐ意味では、看護師派遣で発生した休床にも十分な補償をお願いしたいところです。

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