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未来の会

ボーッと生きているわけじゃない! 若年女性の「健康」守れ

ボーッと生きているわけじゃない! 若年女性の「健康」守れ
必要なのは女性達が自らの健康に目を向けられる施策

高齢化に伴い「がん」が日本人の死因1位となる中、20〜30代の若い世代では、がん患者の8割が女性であるという調査結果が発表された。20〜30代の女性は妊娠、出産と人生の大イベントを経験することも多く、肉体的にも環境的にも大きな変化を迫られる年代。しかし、この世代のがん検診の受診率は低く、運動などの健康に良いとされる行動も同世代の男性より低い。女性の社会進出が当たり前となる中、職場と家庭の双方で重要な役割を任される女性の健康を守る必要性が高まっている。

 10月30日、スポーツ庁を訪れたのは、NHKのバラエティ番組「チコちゃんに叱られる!」の人気キャラクター、チコちゃんだ。10〜40代の女性がスポーツに取り組む割合が同世代の男性に比べて低いという実態を受け、女性のスポーツを推進する「女性スポーツアンバサダー」にチコちゃんが任命されたのだ。鈴木大地長官から任命書を手渡され、得意の決めぜりふ「ボーっと生きてんじゃねーよ」を発したチコちゃんだが、このニュースに女性達が猛反発したのである。

仕事や家事が忙しくて運動できない

 ネット上の声を拾ってみよう。「3人の子どもを追いかけ回して抱っこして……。ジム通いの方がよほど楽」「ボロボロになって働いているのにスポーツをする余裕なんてない」「運動する気力も体力も残ってない。育児や家事の合間の時間くらいボーッとさせて」等々。「そもそもチコちゃんへの好感度が若年女性にあまり高くないこともあるかもしれないが、怒りの本質は『スポーツなんてやっている暇がない』という当該女性達の悲鳴のように思う」と都内在住の40代女性ライターは分析する。

 もちろんスポーツ庁も、女性がボーッと生きているからスポーツをしていないと考えているわけではない。今年行われた文部科学省の調査で、運動する頻度が「月1回未満」と答えた人を性別、世代別に分けると40代女性が41・6%ともっとも高く、次に30代女性が38・9%と続いた。では、彼女達が運動できないのはなぜか。同じ調査で「運動できない理由」(複数回答)を聞いたところ、「仕事や家事が忙しいから」と答えたのは、30代女性で64・5%に上った。若年女性がスポーツをする時間が少ないのは、仕事や家事、育児に追われているからであることは調査結果で一目瞭然だ。であれば、その対策は「ボーッと生きてんじゃねーよ」と叱ることではなく、女性達に運動する時間や余裕を与えるよう啓発することだろう。

 スポーツをすれば健康になるかどうかは別としても、そもそも若年女性は自分の健康状態にもっと目を向ける必要がある。なぜなら彼女達はスポーツ庁が「叱られる」ターゲットとした10〜40代で、妊娠や出産といった大きなライフイベントに遭遇するからだ。実生活に大きな変化や負担が生じる一方で、この世代の女性達には気をつけなければならない病気がある。それが、子宮がんや乳がんといった女性特有のがんである。

 国立がん研究センター(国がん)と国立成育医療研究センターは10月中旬、全国のがん診療連携拠点病院など計844施設での2016〜17年の院内がん登録のデータを集計し、結果を公表した。対象となったのは、0〜14歳までの「小児」と15〜39歳までの「AYA(アヤ=若年成人)」世代。集計の対象となったAYA世代のがんは計5万7788例だった。

「AYA世代」女性特有の事情が浮上

 国がんは、同じ16〜17年にがんと診断された患者101万8616例も分析。その結果、がん患者全体では男性56・1%、女性43・9%と男性の方が多いのに、AYA世代では男性24・1%、女性75・9%と女性の方が3倍も多いことが分かった。小児がんの患者は男性の方が多いことから、AYA世代のうち10代を除いた20〜30代に限ると、女性の割合は約8割とさらに高くなる。その理由は明らかで、20歳未満では脳・脊髄腫瘍や白血病など希少がんの割合が多いのが、20代以降になると子宮頸がんや乳がんといった女性のがんが増えるからだ。一方、男性の場合はAYA世代に特有のがんはない。

 「AYA世代の女性患者は、若くは進学や就職、もう少し進むと結婚や妊娠など多くのライフイベントを経験する世代。そこに治療が重なるため、例えば妊娠に備えて卵子を凍結しておく必要や、キャリアを積んでいく大事な時期に仕事を休む必要が出てくる」と解説するのは都内の産婦人科医だ。子宮頸がんや乳がんは膵臓がんのように予後が悪いとはされていないが、働き盛りの女性が悪化や再発の恐れを抱えながら治療や経過観察を続けるのは精神的に大きな負担となる。

 にもかかわらず、早期発見に繋げるための子宮頸がんや乳がんの検診受診率は諸外国に比べて低い。どちらも2年に1度の検診が推奨されているが、厚生労働省によると、受診率は子宮頸がんで42・4%、乳がんは44・9%(16年時点)に留まる。2人に1人にも満たない受診率だ。諸外国では、子宮頸がんの検診率(12〜13年)は米国で8割を超しており、英国やニュージーランドでも8割近い。

 「子宮頸がんについては、ワクチンの普及で今後、各国ともに相当、患者が減っていくだろう。日本はワクチンの恩恵が受けられておらず、検診受診率も低いとなれば、世界と逆行して患者が増えていく恐れが高い」と前出の産婦人科医は危惧する。

 検診受診率の低さだけではない。若年女性が健康を損なっていることを示すデータは他にもある。

 厚労省の国民生活基礎調査(16年)では、悩みやストレスを抱える人の割合は男性(42・8%)より女性(52・2%)の方が高かった。年代別に見るとさらに顕著で、20代では男性が43・6%、女性が53・1%、30代では男性が48%なのに対して、女性は58・6%と6割近くに上るのである。

 厚労省の別の調査(17年)で睡眠時間を調べてみても、やはり女性の方が短い。睡眠時間が「6時間未満」という人は男性で36・1%なのに対し、女性は42・1%だ。ただ、若年層に限れば、「6時間未満」の割合は女性の方が同世代男性より低い。とはいえ、20〜30代の女性の4割ほどが「睡眠時間は6時間未満」と答えており、健康的な生活を送れているとは言い難い。

 人口減少社会を迎え、女性の労働力なくして社会は回らない。都内の20代の女性会社員は「子育てや家事に加え、仕事でも求められるものが大きくなり、若い女性達はいっぱいいっぱいになっている」と訴える。国に求められているのは、女性達が自分の健康に目を向けられるようにする施策である。

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