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関係者は責任逃れに必死 「ディオバン裁判」呆れた実態

関係者は責任逃れに必死 「ディオバン裁判」呆れた実態

効の壁」れた他大学は反省なし  ノバルティスファーマの高血圧症治療薬「ディオバン(一般名バルサルタン)」をめぐる論文不正事件の法廷が揺れている。薬事法(現医薬品医療機器等法)違反罪(虚偽広告)に問われたノ社の元社員、白橋伸雄被告(64歳)は初公判で無罪を主張。弁護側は不正を行ったのは医師の方だと訴え、法人として起訴されたノ社は組織の関与を否定した。証言台に立った医師の口からは、臨床研究の信頼を揺るがす呆れた実態が次々と明らかになり、責任逃れの証言ばかりが飛び交っている。不正を認定されながらも「時効の壁」で逃げおおせた大学に対する批判も高まっている。

 まずは事件を振り返ろう。

 「ディオバンはノ社が開発した高血圧症の薬で、日本では2000年9月に承認された。日本には高血圧症患者が4000万人いるとされ、そのうち3000万人が降圧剤を服用している。日本人にもっとも多い病気であることに加え、他の病気と異なり服用を始めたらずっと飲み続けるため、その市場は巨大で、今や1兆円規模といわれている」(全国紙記者)。

 この巨大マーケットを狙って多くの製薬企業がさまざまな降圧剤を開発、市場に送り出してきた。「他社との売上競争に勝つため、血圧を下げる本来の効果に加え、狭心症や脳梗塞の発症を抑える効果があるとしてノ社が売り込んだのがディオバンです」(同)。

4大学で問われたのは1大学のみ  そして、この薬に「狭心症や脳梗塞の発症を抑える効果がある」とのお墨付きを与えたのがディオバンを使って行われた医師主導臨床研究だった。東京慈恵医大、京都府立医大、滋賀医大、千葉大、名古屋大の5大学でそれぞれ行われ、各大学や厚生労働省などの調査では、このうち名大を除く4大学で血圧値などの統計解析に不正があったとされた。白橋被告は5大学の臨床研究に統計の専門家として身分を隠して加わっていた。

 さらに、各大学の臨床研究はノ社から提供された奨学寄付金によって行われており、その金額は京都府立医大が3億8170万円、名大が2億5200万円、千葉大が2億4600万円、慈恵医大が1億8770万円、滋賀医大が6550万円。合わせて11億円以上もの金額が投じられていたとあっては、ノ社お抱えの研究と断定されても仕方がないだろう。

 多額の寄付金を〝回収〟しようとしたのか、ノ社は5大学の臨床研究の結果をプロモーション資材に数多く使用。特に02年に始まり、最初に「ディオバンの効果」を〝証明〟した慈恵医大の論文(Jikei Heart Study=JHS)は英医学誌『ランセット』に掲載され、ノ社だけでなく医師の投薬行動に大きな影響を与えた。

 厚労省は14年1月、容疑者不明のまま薬事法(誇大広告の禁止)違反容疑で東京地検に刑事告発。だが、東京地検特捜部が強制捜査を行った同年2月時点で慈恵医大の研究論文は時効を迎えていて、白橋氏が問われたのは京都府立医大の論文「Kyoto Heart Study(KHS)」への関与のみだった。前述の記者は「JHS主任研究者の望月正武教授(当時)は慈恵大学の栗原敏理事長と医学雑誌で対談するなど、大学を挙げてディオバンを大々的に宣伝していた。にもかかわらず、逃げおおせたことには批判も大きい」と指摘する。時効の壁に助けられ、法廷での真相解明に委ねられたのはKHSだけとなったが、そのKHSをめぐっても裁判は混迷を深めている。

 白橋被告の初公判が開かれたのは昨年12月16日。逮捕後の取り調べ段階から否認を続けてきたという白橋被告は「統計には関わったが改ざんはしていない」と改めて起訴事実を否認。ノ社もまた、「被告による不正は確認できなかった」と無罪を主張したのだった。

 裁判を傍聴した司法担当記者は「裁判を単純化すると、白橋被告らノ社側と京都府立医大側の対立という様相だが、それ以上に注目が集まるのは、研究があまりにずさんに進められていたことだ」と憤る。例えば、KHSの主任研究者だった松原弘明元京都府立医大教授はJHSなどの〝成功例〟を参考に、自らノ社に連絡しKHSをスタート。その狙いは「奨学寄付金を集めるのが教授の仕事だと思っていた」と、患者を思いやる医師としての基本はどこ吹く風だ。おまけに、KHSの成功はディオバンに有利な結果を出すことだったと公言してはばからないのだ。

 「4回にわたって証言した松原元教授は、データの登録作業などは下の医師や医局秘書に任せきりで、自分は改ざんに関与していないと主張した。いやはや、教授というのは大したものです」(先の記者)

医療界の「古き悪しき体質」が背景に  もちろん、研究に関わった医師の多くには良識があったと信じたい。裁判では「人事上で優遇されるため、自発的にディオバン有利になるよう虚偽の報告をした。医師として最低の行為を行った」と後悔を口にしたある医師の供述調書も紹介されたが、この医師など後悔しているだけましである。「関連病院への医師の派遣など強い人事権を持つ教授の指示は絶対である」という医療界の「古き悪しき体質」が、こうしたとんでもない研究を助長したことは間違いない。手を下したのは松原氏でなかったにせよ、部下や後輩の医師らにそうさせた原因は松原氏にあった。

 注目の公判は30回を数え、関係者の証言もだいぶ出そろってきた。だが、傍聴を続けてきた報道関係者は「データを取りまとめ解析した白橋被告が、自社に有利なようにデータを改ざんしたとする検察側の主張は現時点では根拠が弱いように思う」とみる。「自発的に虚偽の報告をした」などと自ら改ざんを認める医師の存在に加え、6月初旬に開かれた公判では、検察側が指摘した改ざん以外にも、カルテとデータが異なる例が複数存在していることが明らかにされた。

 仮に白橋被告が一部の改ざんを行っていたとしても、被告以外の手による改ざんも混在しているとなれば、あまりのいいかげんさにあきれる他ない。「白橋被告がデータを改ざんしたとしても、それは自社商品を有利に売り込むためと説明がつくし、同情もできる。それに対して、医師側が行った改ざんの理由として考えられるのは人事やカネ。まったく同情できません」(業界誌記者)。

 裁判の世界には「一罰百戒」という言葉がある。罪を犯した一人を罰することによって、他の大勢の戒めにすることを意味する。薬事法の規程がデータの改ざんや偽装そのものでなく誇大広告を罰するものであること、犯罪には「時効」があることから、被告席に座るのが白橋氏だけなのは仕方がない。だが、法を盾に何の責任も取らない大学幹部や研究者にとって、この裁判が「戒め」になっていないことだけは確かだ。

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