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高市政権の「保守=国家重視」路線は国民の選択か

高市政権の「保守=国家重視」路線は国民の選択か

新年早々の解散・衆院選勝利なら憲法9条改正も視野

「女性天皇の可能性は遠くなり、選択的夫婦別姓制度についても、通称拡大でお茶を濁されるに違いない」。これは昨年10月の自民党総裁選で高市早苗氏の当選が決まったのを受けて、党内リベラル派の重鎮的立場に在る船田元氏が自身のメールマガジンで懸念を示したものだ。

遠退く「選択的夫婦別姓」と「女性天皇」

 高市首相は新年早々の通常国会冒頭、衆院解散に踏み切った。衆院選で勝利した勢いを駆って、旧宮家の男系男子を養子縁組によって皇室に戻す皇室典範改正と、結婚前の旧姓を通称として使用出来る様にする法制化に取り組む構えだ。
 2024年10月の前回衆院選から1年3カ月しか経っていないが、その衆院選後、公明党が連立政権から離脱し、新たに自民党と日本維新の会が連立を組んだ高市政権への信を問う大義は有る。衆院解散の時期を巡っては、大規模な所得税減税等を盛り込んだ新年度予算の成立後と見る向きが大方だったが、国家債務が国内総生産(GDP)の2倍を超える中、高市カラーの減税・積極財政は諸刃の剣。物価高に苦しむ国民の負担軽減に繋がるものの、更なる円安・物価高を招く恐れも有る事から、高市首相は予算成立を待たず、内閣支持率が高い内に衆院解散・総選挙を打つという賭けに出た。
 高市政権の与党を構成する自民と維新の間では、維新が強く主張する衆院議員定数削減を巡って温度差も指摘され、連立の解消や組み替えに繋がる可能性も取り沙汰され、自民党内からは国民民主党の連立参加に期待する声も上がっていた。だが、高市首相は公明党が連立を離脱した穴を埋める為だけに維新を新しいパートナーに選んだ訳ではない。公明党との連立では進められなかったであろう「保守」的な政策を実現させる好機と判断し、自民・維新の連立合意書に男系男子の養子縁組と旧姓の通称使用の法制化が盛り込まれたと考えるべきだ。
 「保守」の対義語として「リベラル」を用いるのは、実は余り正確ではない。「リベラル」を直訳すると「自由」だが、何からの自由かと言えば権威や権力からの自由であり、1人1人の意思や権利を尊重するのが「リベラル」だ。それに対し、個人より国家や権力者の利益を重視するのが「国家主義」や「権威主義」だ。「保守主義」の定義は「旧来の伝統・慣習・考え方などを尊重して、急激な改革を好まない主義」(大辞林)であり、その対義語は「進歩主義」や「革新主義」となる。第2次世界大戦で敗戦国となった日本に於いては、敗戦前の国家主義体制を正当化しようとした勢力を「保守」と呼んだ名残が現在の「保守」対「リベラル」の対立構図を生んでいる。
 戦時中の国家主義体制下で宗教弾圧を受けた創価学会を支持母体とするのが公明党だ。戦後の日本では「保守(右派)=資本主義」対「革新(左派)=社会主義」のイデオロギー対立が世界的な冷戦の終結まで続き、その中で公明党は保革の対立と一線を画す「中道」を掲げた。その立党理念が「平和主義」「人間主義」。国家やイデオロギーより個人の幸福に重きを置く点で「リベラル」に通じる。
 例えば、公明党は国家システムとしての象徴天皇制は支持するが、皇族数の減少対策となると、個人の意思や権利を尊重する「リベラル」の立場から、国家の意思で男系男子を皇室の養子とする案には抵抗が有る為、女性皇族が結婚後も皇室に残る「女性宮家」案の方に親和性を持つ。愛子さまの様な男系女子の即位を想定した「女性天皇」案にも前向きだ。ジェンダー問題でも個人を尊重するから、通称使用より選択的夫婦別姓制度の導入を支持する。
 冒頭に引用した船田氏を始め、女性天皇や選択的夫婦別姓に賛同する自民党議員も少なくない。歴史的に男系の女性天皇は実在したし、夫婦同姓が制度化されたのは明治以降の事だ。伝統を尊重する「保守」とジェンダー平等を求める「リベラル」は矛盾しないと考える「保守=リベラル」の主張は、公明党の「中道=リベラル」と重なる。石破茂前首相は選択的夫婦別姓と女性天皇に積極的で、岸田文雄元首相も選択的夫婦別姓推進の立場を公明党と共有していた筈だったが、何れも首相在任中は党内の「保守=国家重視」派に配慮して主張を封印した。
 自公政権時代は公明党も主張をゴリ押しせず、これ等2つの課題は先送りを重ねてきた。「中道=リベラル」の公明党が連立を抜け、「保守=国家重視」派が主導権を握った自民党が、「保守=国家重視」の主張を共有する維新と連立を組んだのが高市政権だ。膠着状態にあった2つの課題を「保守=国家重視」派が勝利する形で決着させれば、高市カラーの政策実現を国民にアピール出来る。

「中道=リベラル」勢力は新党で対抗

政権の性格を鮮明にした自民・維新に対抗すべく、「中道=リベラル」の立ち位置を共有する立憲民主党と公明党が衆院選を機に手を組んだのが新党「中道改革連合」だ。この衆院選では、高市政権の積極財政や大規模減税、対中国外交等と共に「保守=国家重視」路線への評価も問われる。
 そして、自民・維新が衆院選で勝利すれば、女性天皇が誕生する未来は遠退き、結婚する男女はどちらか(多くの場合は女性)が戸籍上の姓の変更を迫られる状況が続く事になる。日本という国家の有り様に関わってくるのはそれだけではない。自民・維新の連立合意書には「憲法改正」が明記された。維新は昨年9月に発表した提言「21世紀の国防構想と憲法改正」で、戦力の不保持を規定した憲法9条2項の削除と「国防軍」保持の明記を主張している。故安倍晋三元首相の後継を自任する高市首相も9条改正に強い意欲を示してきた。衆院選で自民・維新が大きく議席を伸ばせば、国民民主党や参政党、日本保守党等を引き込んで9条改正に動く事も想定される。
 自民・維新の連立合意書には、この他にも日本国国章(国旗)損壊罪の制定、スパイ防止関連法制の策定、対外情報庁の創設等々、自公政権では難しかった「保守=国家重視」政策がずらりと並ぶ。「安倍1強」と称された第2次安倍政権時代は、与党が選挙に勝利しても、自民党内の「保守=リベラル」勢力や、連立を組む公明党とのバランスを取る力が働いた。船田氏は本稿冒頭の指摘に続いて「これまで保守中道の幅広い勢力を包摂してきた自民党が、頑なな保守によりその性質を変えてしまわないように、しっかりと監視していかなからばならない」と警鐘を鳴らしたが、公明党の連立離脱により、与党内の勢力バランスは大きく変容した。
 加えて、減税・積極財政・ナショナリズムを前面に押し出す「右派ポピュリズム」の世界的な広がりも高市政権の追い風となる可能性が有る。石破政権下の24年衆院選と25年参院選では国民民主党や参政党等の右派ポピュリズム政党が躍進した訳だが、両党の主張は高市政権と多くが重なる。有権者サイドの「保守」層を定義するなら、従来の政治体制で利益を得てきたか、又はそう思い込んでいる「保守=既得権益」層と言えようか。「保守=既得権益」層の一部が自公政権に愛想を尽かして右派ポピュリズム政党に流れたが、高市政権の誕生によって自民党に回帰する可能性が有る。衆院選で自民党が勝利すれば、右派ポピュリズム政党側から「保守=国家重視」政策の推進で政権に協力する展開も想定される。
 近年の選挙で顕在化した、国民的な右傾化とも評される投票傾向は今後も続くのか。「中道=リベラル」勢力の結集を目指す中道改革連合は与党への対抗軸になれるのか。円安・物価高が更に進んだ結果のツケは誰が払うのか。権威主義の中国と対峙する地政学上の最前線に置かれた我が国の民主主義は何処へ向かうのか。この衆院選は、日本の国民・国家が進む方向を決定付ける岐路となるかも知れない。日本の政治はそれ程の大激動期に突入した模様だ。

1月8日、年頭記者会見を行う高市首相(首相官邸HPより)

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