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未来の会

女性人材を活かす病院経営
Vol.4 石巻赤十字病院(宮城県石巻市)

女性人材を活かす病院経営Vol.4 石巻赤十字病院(宮城県石巻市)

Vol.4石巻赤十字病院(宮城県石巻市)
石巻赤十字病院は人事担当部門に産業医や看護師長経験のある職員を配置し、男女問わず、働き易く、相談のし易い職場の実現を目指している。こうした取り組みについて、石橋悟院長と人事課労務管理担当の荒谷聖奈さん、産業医の荒川梨津子医師に話を伺った。

——職員が働き易い職場環境を整える為、サポートの体制が充実していると聞きました。
石橋 悟 院長

荒谷 他の病院には余り無い特徴として、人事課に産業医と保健師を置き、職員の健康管理に当たっています。一定規模の企業であれば、産業医の設置は必須となりますが、病院の場合は職員が医療従事者だという事も有り、自己管理に任せている場合も見受けられます。産業医の資格を持つ医師が在籍している病院でも、臨床も兼ねているというケースが多い様ですが、当院では専任で相談に当たって頂いています。

——産業医に加え、仕事と家庭の両立等について相談出来る担当者もいらっしゃるのですね。

荒谷 看護師への対応に限られるのですが、人事課に看護師長の経験が有るベテランの職員が在籍し、夜勤等に関する定期的な面談の他、産休前や産後の経過の確認、育休中の相談等に当たっています。女性看護師は現在約600人在籍していますので、直属の上司以外で相談相手となる看護師経験者の存在は心強いのではないかと思います。人事課では、産業医と保健師、事務が連携して、職員からの健康や仕事と家庭の両立に関する相談に応じられる環境を整えています。

——看護師経験者が人事課で相談業務を担う体制は、全国的にもあまり例が無いのではないでしょうか。

荒谷 元々は看護部内に面談をしたり相談に応じたりする役割の看護師がいたのですが、育児の短時間制度や夜勤免除といった制度が整備されるにつれ、看護業務との兼務では対応し切れなくなり、専従で相談を担う為の職員を1人、人事課に配属する事にしました。規則や運用を確認しながら、看護師に情報提供したり相談に応じたりしています。始まったのは2022年で、現在の担当者は2人目です。若い看護師にとっては先輩であり、お母さんの様な存在であって欲しいと考えています。

——病院全体での育児休業の取得状況を教えて下さい。

荒谷 当院の職員数は、2025年7月末で男性382人、女性が1001人の計1383人で、現在約40人が育児休業を取得しています。最近5年間は例年100人前後が取得し、昨年度は100人でした。現在では男性の取得者も増え、2回に分けて取得している職員もいます。昨年は延べ18人が取得しました。又、研修医や男性医師も含め医師の取得者も増えており、周りの同僚に協力を仰ぎ易い環境が整って来ている様に感じます。

——こうした環境作りの為に、どの様な取り組みを行われているのですか。

荒谷 産育休等の制度自体は日本赤十字社が定めるものですが、そうした制度の周知については、日頃から心掛けています。その甲斐も有り、院内の理解も進んでいるのでしょう。実際に制度を利用する人も増え、経験者や上司から実体験を踏まえた話を聞ける様になったのも大きいと思います。又、個人の希望や事情に合わせて、柔軟に対応出来る運用もしています。

——具体的にはどの様な事例が有るのでしょうか。

荒谷 例えば育児休業は、規定で1カ月前迄に申し出る事になっていますが、家庭の事情から直前になって「やはり休業したい」と相談を受ける事が有ります。そうした時は、所属長とも相談し、部署で対応出来るのであれば、休業を認めています。又、育児の為の短時間勤務では、「土日は家族が子供を看られるので、フルタイムで働きたい」という人もいます。そうした場合も、本人の希望に応じて柔軟に対応しています。逆に、小学校入学迄しか利用出来ない夜勤免除の制度については、「家庭の事情で、夜勤は難しい」という相談が多かった為、「相当な事情が有る場合は、子供の小学校入学後も夜勤を免除する」との例外規定を設けました。例外規定の利用者とは半年に1回面談をして、家庭の事情に変わりが無いか、今後、どの様にキャリア形成をして行くのかといった事を話し合っています。

——面談で重視しているのは、どの様な点ですか。

荒谷 本人のキャリアを考えると、長い間夜勤から離れていると、中々夜勤に戻り難くなってしまう恐れが有ります。体力やスキル等で対応出来なくなるという心配も有りますが、家族の協力を得難くなってしまうケースも有ります。そこで、本人の希望を尊重しながら、フルタイムでの復帰に向けて定期的に支援をしていくという方針で臨んでいます。勿論、年齢的に体力が持たない、病気を抱えているといった人に対しても、産業医と面談した上で、勤務時間等を配慮しています。どの様な事情が有っても、退職せずに可能な形で働き続けられる様、本人の希望に沿える選択肢を用意出来るよう心掛けています。

——今後、強化したい点は。
荒谷 聖奈 人事課

荒谷 職員向けの保育園では、夜間保育にも対応しています。その場合、夕方4時迄の預かりが可能な為、夜勤明け直ぐに子供を迎えに行く必要は無く、一度仮眠を取ったり、用事を済ませたりする事が出来ます。しかし、「こうした利用の仕方も出来る」という事が、職員間で余り知られていません。せっかくの制度なので、より周知に力を入れたいと思っています。

——院長の立場から、今後職場環境の整備で取り組まれたい事は有りますか。

石橋 働き易い職場を作る為に制度や組織を整備する事は、それ程難しい事ではありませんが、職員の理解を得て制度を定着させる事は容易ではありません。育児支援への意識が定着してきたとはいえ、育児休業に対し「長く休まれたら、職場が困る」といった声が一部に残っているのも事実です。しかし、少子高齢化が進む中、男女問わず安心して子供を育てられる職場環境は欠かせません。それが病院の利益だけでなく、地域の未来に繋がっていくのだと考え、より良い職場環境作りを目指していきます。

Voice

 

産業医として、自らも家庭と両立しながら「働き易さ」を支える

荒川 梨津子 産業医

医療従事者でも病気になる事は有りますし、病院だと言っても病気を抱えながら働く人を支援する体制が万全だとは限りません。特に女性は、月経や妊娠に関連した症状に悩んだり、若年層を含めどの世代でも乳がん等の悪性腫瘍を患う事が有る等、仕事と体調の両立が難しい場合が有ります。働く人の健康面での悩みや不安を聞き、適切な医療に繋げたり、就労上の配慮や支援について職場に意見したりする事は、産業医の重要な役割です。私自身も昨年出産し、子育て支援の為の様々な制度を活用して現在も1日1時間程度の時短勤務を継続している中で、改めて仕事と家庭の両立の為に手厚い支援を受けられる事を実感しました。

しかし、制度が整えられていても、個人それぞれに事情が有り、より柔軟に働きたいという希望も有ります。そうした時に、人事課の担当者が「制度をこの様にも使えます。この様な働き方はどうですか」等と親身になって相談に応じ、前向きなアドバイスもしてくれる。私自身も時短勤務の活用等について助言頂き、実際に非常に助かりましたし、働き易い職場であると感じました。

専任の産業医を置く医療機関は未だ少数ですが、職員の相談に即座に対応し、じっくりと話を聞く事が出来る体制が整っている事は、真の働き易さに繋がります。自分自身の経験も踏まえ、産業医として益々働き易い環境作りに貢献したいと考えています。

 

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