
中道は大敗、法案再可決まで出来る歴史的巨大与党の誕生
2月8日投開票の衆院選で、高市早苗首相(総裁)率いる自由民主党は、198議席から316議席と100議席以上増やす歴史的な圧勝を収めた。自民単独で憲法改正の発議や法案の再可決が可能となる3分の2以上を確保し、日本維新の会の36議席を含めると352議席という巨大与党が誕生した。一方、衆院選直前に立憲民主党と公明党が結党した中道改革連合は100議席以上も失う大敗を喫した。
今回の衆院選は高市首相が掲げる国論を二分する様な大胆な政策を進める為、政治の安定を求めて実施された。昨年末時点で通常国会が1月23日召集と予測された事も有り、永田町界隈では「物価高対策を盛り込んだ2026年度予算の成立をずれ込ませて迄衆院解散は無いだろう」との読みが支配的だった。ところがそこで野党にとっては虚を突く様な形で衆院が解散された為、高支持率を背景とした高市首相主導による選挙戦が展開された。高市首相は8日夜、「経済財政政策の大転換、安全保障政策の強化、インテリジェンス能力の強化など反対も沢山有る政策について訴えてきた。信任を頂けたら一生懸命取り組まなければならない」と語った。
只、自民にとって選挙戦は終始盤石とは言えなかった。高市首相は選挙演説で失言する等、通常であれば国民から支持が離れ兼ねない状況も有ったからだ。例えば、1月31日に川崎市内の応援演説で、「円安で外為特会の運用が今、ホクホク状態だ」と円安メリットを過度に強調する発言をし、円安加速の切っ掛けを作った。又、2月1日午前のNHKの討論番組「日曜討論」を手の怪我を理由に急遽欠席したにも拘わらず、当日午後には自民党候補の応援演説を行っていた。4日には南鳥島深海でのレアアース泥の引き揚げを巡り、「日本は、これから今の世代↖も次の世代もレアアースには困らない」等、誤解を招き兼ねない発言も飛び出していた。
更には、週刊文春が高市首相のパーティー券販売に関する「リスト」を入手したと報道。19年に大阪市内で開いた政治資金パーティーを巡り、旧統一教会の関連団体「世界平和連合」の地方組織が計4万円分のパーティー券を購入したとも報じた。又、12年のパーティーでも統一教会の関連団体関係者3人が計6万円分を購入したとの記事も発信し、当初は「無い」と説明していた首相と統一教会との接点を炙り出した。従来の国政選挙では風向きが変わり兼ねないターニングポイントが幾つか有ったが、こうした「逆風」を物ともせずに高市自民は圧勝した。
失言や逆風でも自民が圧勝した要因は
その要因は幾つも有る。先ず挙げられるのが、高市首相個人の人気の高さだ。憲政史上初めての女性首相という事も有り、昨年10月の発足時から内閣支持率は極めて高い水準で推移していた。読売新聞の昨年10月21、22日の調査によれば、内閣発足直後の支持率は71%で1978年以降の調査としては第1次安倍内閣を超え、歴代5位の高さだったという。朝日新聞でも昨年10月25、26日の調査で68%に上り、発足直後の支持率としては2001年の小泉純一郎内閣以降、3番目の水準だった。内閣支持率は予算編成等を経ても大きな変動は無く、1月23〜25日の読売新聞調査では69%と依然として高水準を維持していた。1月17、18日の朝日新聞調査も67%とほぼ横這いと各社同様の傾向を示した。
特に支持率が高いのが若者世代だ。1月24、25日に調査した毎日新聞によれば、年代別の内閣支持率は、18〜29歳で72%、30代で68%と高い。40代は65%、50代で60%、60代で50%、70歳以上で46%と年代が上がるにつれて低くなっているのが特徴的だ。歴代政権に比べ、高市首相はX(旧ツイッター)等SNSでの発信を強めているのが大きい。石破茂前首相や岸田文雄元首相よりも、女性首相という事で「刷新感」や「期待感」が持てるのも若者世代への支持拡大に好影響を与えているだろう。SNS等でも「高市首相には決断力が有りそう」や「前の首相に比べて期待が持てる」といった実際の手腕よりもやや行き過ぎた期待が寄せられている。
中道改革連合の大敗が貢献
一方で、野党第1党の中道の失速も自民圧勝に大きく貢献した。昨年の秋頃から立憲民主と公明は合流を模索していたというが、リベラル寄りの勢力との点で一致していたものの、宗教勢力を支持母体とする組織と労働組合の影響力が強い政党では、直ぐに融合するのは難しい。ましてや、昨年10月まで一方は与党として君臨し、国政選挙で戦ってきた間柄だ。今回の選挙戦でも「1+1=2以上」という単純な計算式の様な効果は得られなかったと言えよう。寧ろ、足しても1以下の悲惨な結果しか招かなかった。
具体的な選挙戦術でも、「高市首相批判」が裏目に出た可能性が有る。現代の選挙戦で広く支持を集めようとするなら、相手を過度に攻撃する様な手法は好まれない。中道は選挙戦で衆院解散の時期や自民の裏金議員公認等、政権批判に一定の時間を割いた。こうした手法は会社での「パワハラ」等を想起させ、特に若者世代からは敬遠されがちだ。「批判ばかりしている」との印象を持たれ、中道の安住淳共同幹事長始め、岡田克也元民主党代表、小沢一郎元自治大臣、海江田万里元経済産業大臣ら「大物」が軒並み落選。本庄知史共同政調会長や吉田晴美元立憲民主代表代行ら将来を有望視された中堅や若手も議席を失った。
衆院が解散された1月23日には、野田佳彦共同代表が「政治学としての中道は一定程度理解していたつもりだったが、人間主義に基づく中道については斉藤(鉄夫共同代表)さんからいっぱい吸収させて頂いた。改めて基本を学ぼうと思い、公明新聞で池田大作先生の中道政治論を読ませて頂いた」と発言したと報道された。公明党の国会議員が参加する会合での発言ではあったものの、立憲支持者からは「公明に擦り寄り過ぎだ」との声も漏れ、挙党一致体制を築けなかった。こうした見込み違いが重なり、大敗を喫した為、野田、斉藤両氏は衆院選投開票日の翌日、辞意を明らかにした。
自民党の事前の情勢調査を見ると、選挙情勢の推移が見て取れる。1月21〜25日に実施した情勢調査では、自民党は小選挙区で177議席、比例代表で65議席の計242議席の確保に留まり、年明け早々に実施した1月4〜8日の調査より23議席減らしている。これは衆院解散報道が相次ぎ、高市首相に対する支持がやや減った為とみられる。一方で、衆院選公示後の1月28日〜2月1日に実施した情勢調査では、小選挙区189議席、比例代表68議席の計257議席と、前回よりも上積みを図っている。自民調査は各陣営の自助努力を促す為、低めに出るとされているが、トレンドは上昇傾向だ。自民は最終的に316議席に迄伸ばしている。
高市首相の失言等が報じられているにも拘わらず、情勢調査が上向いているのは、現状を変えてくれそうという期待感以上に、中道への失望・不信が大きいからと推測出来る。国民民主党や参政党は議席を増やし、れいわ新選組は議席を減らした格好だが、中道の議席の減り幅が取り分け大きいのは、先述の様な状況が影響したとみられる。
今後は、高市首相が国論を二分するとした、所謂スパイ防止法や国家情報局創設等の政策議論が始まる見通しだ。法案の再可決が出来る衆院での3分の2以上の議席を与党で確保した為、政策を強引に進める事も可能だ。只、内容によっては人権を抑制したり、差別を助長したりし兼ねない為、高市首相には驕らず丁寧な国会運営を心掛ける様、望みたいところだ。




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