

自民党総裁選を制した高市早苗首相は新たな内閣を発足させ、厚生労働大臣に上野賢一郎衆院議員を起用した。旧自治省出身の上野氏だが、これ迄厚労行政との接点は少なくない。閣僚経験も初めてで手腕は未知数に近いが、改めて上野氏の経歴などを振り返りたい。
滋賀県長浜市の出身で、実家は生活用品を扱う荒物屋だという。京都大法学部を卒業後、地域振興を志して旧自治省に入省した。佐賀や岩手の県庁への出向経験を経て、総務省自治税務局都道府県税課長補佐で退官。2003年の衆院選に滋賀1区から出馬したが、旧民主党候補に敗れた。04年の参院選でも落選する等苦労人だ。初当選は05年の衆院選だが、09年の衆院選で再び落選。10年には滋賀県知事選に擁立されるも、現職の嘉田由紀子氏に敗れた。12年の衆院選以降は安定し、衆院滋賀2区で連続当選を果たし、現在は6期目だ。
官僚出身だけあって政策への理解度は高い。国交政務官や財務副大臣、党税制調査会幹事、衆院厚労委員会筆頭理事等を務め、とりわけ税制や地方行政、社会保障等に詳しいとされている。今年の通常国会に提出された年金制度改革法案の修正協議を担当し、成立に尽力した。
筆頭理事以外で厚労行政との関わりで言えば、健康に活躍できる社会作りを目指す「明るい社会保障改革推進議員連盟」の会長を務めている点だ。上野氏は党の機関誌に「社会保障制度は国民の広い層の負担を必要とするため、中には心理的に抵抗感をお持ちの人がいます。それを払拭し、『健康で元気な人をもっとたくさん増やしたい』との思いを込めて、議連名の前に『明るい』を付けました」と明かしている。
議連の顧問に加藤勝信前財務大臣が就任している縁等も有り、昨年の自民党総裁選で加藤氏が出馬した際には推薦人を務めている。メディア関係者は「加藤氏が訴える政策を中心的に考えた人物の1人とされている」と明かす。
就任の記者会見で上野氏は「全世代型社会保障の構築や地域共生社会の実現に向けて、保健・医療・福祉の向上に取り組んで参りたい。持続的・構造的な賃上げに向けた三位一体の労働市場改革や、多様な人材が活躍出来る環境整備に努めたい」と意気込んだ。
只、年末の予算編成に向け、社会保障分野では課題が山積している。維新が求める「OTC類似薬」の自己負担見直しや今年の通常国会で撤回した高額療養費制度の新たな見直しに加え、医療業界が注視する2年に1度の診療報酬改定も控える。
更に労働分野では、労働時間規制の緩和を高市首相から指示されている。首相は総裁選で「心身の健康維持と従業者の選択を前提に緩和」と明記しており、経済界の一部から要望を受けていた。だが、連合を始めとする労働界は猛反発しており、労働基準法を改正するのは一筋縄ではいかなそうだ。
衆参に知事選を合わせると4回も落選している苦労人の上野氏。野党の過酷な要求に大臣経験者でないと務まらないとされる衆院厚労委の筆頭理事を2回も経験しており、粘り強さは身上だと言える。或るメディア関係者は「党には田村憲久元厚労大臣や加藤氏等が控え、保険局には豪腕の間隆一郎局長がいる。党と省内の連携に棹を差せば何とか乗り切れるのでは」との見方を示す。


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