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第178回 浜六郎の臨床副作用ノート ◉ アミロイド仮説:根拠論文の捏造

第178回 浜六郎の臨床副作用ノート ◉ アミロイド仮説:根拠論文の捏造

日本でアルツハイマー型認知症に承認されているレカネマブとドナネマブは、どちらもアミロイドβに対するモノクローナル抗体であり、アミロイドβがニューロンを破壊するとの「アミロイド仮説」に基づいて開発された薬剤である。Nature誌に2006年に掲載され、約2500もの論文に引用され、アミロイド仮説の理論的根拠となってきた極めて重要な論文1)が、24年7月、捏造であったことが確実となり、撤回された2)。薬のチェック121号3)では、この問題をトピックとして取り上げたので、概要を紹介する。

論文捏造に至る経緯 

06年頃は、アミロイドβ(以下、Aβ)を実験動物に与えて認知症を作る実験がことごとく失敗したため、アミロイド仮説そのものに疑問が生じてきていた時期であった。そのような時期(06年3月)に、動物の認知症の程度とアミロイドβのうちのAβ*56の量が相関しているだけでなく、Aβ*56を注射することで動物に認知症を起こすことができたと、レスネ論文は報告した。これで「アミロイド仮説」が復活した4)。その後レスネ氏は昇進し、この論文をきっかけに、アミロイドβ関係の研究予算も膨大になっていったとScience誌は報告している4)。「2000年以降、認知症用の薬剤の開発には、世界の大手製薬会社30社が、累計で6000億ドル(約65兆円)以上の研究開発費を投じてきた」との報道もある。根拠論文そのものが捏造だったということは、上記の研究予算や製薬企業の開発費は、その大部分が無駄に投入されたといえる。

レカネマブ類似薬剤の検証

捏造が分かったきっかけは、レカネマブやドナネマブに似た別の認知症用薬剤の論文が捏造ではないか調べてほしいとの依頼を受けた脳神経学が専門のシュラグ医師が調査したことである4)。彼は、数十本の学術論文中の画像データ中に、改ざん画像らしいものを発見した。その後、別の論文についても検討し、06年に発表されたレスネ氏による重要論文の捏造疑いにたどり着いた。

Sciense誌が専門家を動員して検証

シュラグ氏が持ち込んだScience誌では、他の専門家も動員して大々的に6カ月間の調査を実施し、シュラグ氏の指摘をほぼ確認し、22年7月22日号の紙面で発表4)。レスネ論文の70枚以上の画像を含む、数百枚の画像に疑問を投げかけた。その2年後の24年6月にレスネ氏と1人を除く共著者全員が撤回に同意。レスネ論文は同年7月に撤回された2)

アミロイドβは原因ではなく結果

「薬のチェック」では、認知症の原因として、アミロイド仮説は採用しない。アミロイドβは酸化ストレスや虚血-再灌流性傷害によってニューロンや血管が傷害・脱落を修復するために溜まった、すなわち原因でなく結果にすぎないと考えている。そして、アミロイド仮説に基づくレカネマブやドナネマブは無効かつ脳出血を高頻度に起こし極めて有害であることを繰り返し警告してきた5)

捏造論文は1つだけではない

捏造論文が、レスネ論文だけでなく、アミロイド仮説に基づいて開発された認知症用剤の根拠論文の多くで見つかったことは重要である。レカネマブやドナネマブの根拠論文に不正はないか、徹底的な検証が必要である。

参考文献

1)Lesné S et al Nature 2006;440(7082):352-7.
2)Lesné S et al Nature 2024; 631(8019):240
3)薬のチェック2025: 25(121): 114-115.
4)Piller C. Science, Vol 377, Issue 6604
   https://www.science.org/
5)薬のチェック2025: 25(117): 4-8.

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