SHUCHU PUBLISHING

病院経営者のための会員制情報紙/集中出版株式会社

未来の会

第118回「日本の医療」を展望する 世界目線
韓国の医療事情⑤

第118回「日本の医療」を展望する 世界目線韓国の医療事情⑤

前回に引き続き、韓国の医療界を牽引する病院の詳細について見て行こう。

仁川世宗(セジョン)病院

韓国では医療提供における民間病院の役割が日本以上に大きいことはすでに述べてきた。その中では、ビッグ5といった大学病院や企業が関係している病院が特に目立つが、今回紹介する仁川世宗病院(以下、セジョン病院)のように、日本に似た医療法人が経営する病院もある。

セジョン病院は病床数が326床と小規模ながら、2030年までに「心臓専門病院の世界トップ10を目指す」というビジョンを掲げている。17年3月に開院した同院は、韓国初の医療介護複合施設で、28の診療科目と22の専門センター(心臓センター、脳血管疾患治療センター、小児センター、女性健康センター、眼科センターなど)、看護・介護統合サービスを提供し、また、患者が選んだ「最高の病院」「医療サービスにおける患者経験評価」で仁川エリア第1位を獲得した。他にも、国際的医療施設評価機関であるJCIで認証され、韓国初の心臓疾患に対する治療についてCCPC(Clinical Care Program Certification、疾患別認証)を獲得している。

循環器に強く、16年には7度目となる国家健康保険基金の医療費審査サービスで「適切な冠動脈バイパス術」部門で最高評価を獲得した。30名ほどの循環器系医師で年間5000例のPCIをこなし、心臓手術の累計は3万3815件(1982〜2022年)という。日本では千葉西総合病院が症例数日本一だが、3500件以下である(朝日新聞出版刊『手術数でわかるいい病院』心カテーテル治療数ランキングより)。

セジョン病院は医療ツーリズムにも積極的である。ハブ空港である仁川空港からも近く、外国人の心疾患患者が韓国で最も多く訪れる病院といわれ、1年に6000人の外国人患者が治療を受けに来ている。患者の国籍は現在、ロシア、カザフスタンなどCISの加盟国が多く、その他モンゴル、米国のグアム、中国など多岐にわたる(下図参照)。

グループには富川セジョン病院と介護施設として富川市立老人福祉施設がある。富川セジョン病院は開院日が1982年8月、許可病床数327床、職員数861名(専門医95名、看護師406名)、診療科は心臓内科、胸部外科を含む25診療科の総合病院だが、韓国初の心血管専門病院になる。委託を受けている富川市立老人福祉施設は2010年3月開院、許可ベッド数353床、職員数322名(専門医6名、看護師43名)、診療科は家庭医学科、精神健康医学科を含む5診療科の療養病院になる。

ソウル大学病院

ソウル大学病院(SNUH)は、韓国を代表する国立の総合病院であり、130年以上にわたり国内の医療発展を牽引してきた。1885年に済衆院として設立され、1946年に国立ソウル大学医科大学付属病院となり、78年には特殊法人として再編された。現在、SNUHは本院、子ども病院、がん病院、盆唐(プンダン)ソウル大学病院、ソウル特別市ボラメ病院、江南(カンナム)検診センター、アラブ首長国連邦のシェイク・ハリファ専門病院(SKSH)など、多様な医療ネットワークを構築している。SNUHは、韓国国内外の医療分野でのリーダーシップを維持しつつ、国民の生命と健康を守るため、未来の医療を切り開く役割を果たし続けている。新たなグループミッションとビジョン(「One SNUH Network - A National Hospital Pioneering Future Medicine」)を宣言し、組織の目標と方向性を明確にしている。

図 セジョン病院における外国人患者の推移と内訳

SNUHは、1800以上の病床と約9000人のスタッフ(そのうち約2000人が医師)を擁し、年間約300万人の患者に医療サービスを提供している。 

教育と研究の分野でも、SNUHはデジタルおよびバイオのハブとしてグローバルな協力を通じて未来の医療を先導している。韓国初の国家戦略技術特化研究所に指定され、先端バイオやデジタルヘルスデータの分析・活用分野でのリーダーシップを発揮している。

公衆衛生分野においても、公共保健医療計画の実施結果で最優秀機関に選ばれ、必須医療の空白を埋める取り組みで顕著な成果を上げている。一例を挙げると、GEのコマンドセンターというシステムが採用されており、病院内の病床や手術室の利用状況など、院内の様々な施設の使用状況を一括で管理することができるため、病床の無駄な空きを防ぎ、病床稼働率を上げることができる。

また、患者中心の医療サービスを徹底しており、最新の医療設備とスマートシステムを通じて、正確で便利な医療サービスを提供している。患者は治療や検査のスケジュール、手順を簡単に確認できるベッドサイドのスマートシステム(写真)を利用できる。

医療のデジタル化では、盆唐(プンダン)病院が有名であるが、SNUHも表のような経緯をたどり、確実にデジタル化を進めている。

まとめ

ここまで、5回にわたり韓国の状況を俯瞰してきた。韓国では、医療分野のデジタル化や医療ツーリズムを積極的に進めて産業化を追求してきたが、一方で高齢化に対する医療措置がまだ十分に行われておらず、病院も含め不足している。そのため急速に高齢者向けの療養型病院を増やしているが、これは日本の40年前の状況と類似している。異なるのは、病院増とともに医師の数も必要になるとして、25年以降、医学部の定員をおよそ3000人から5000人に増やす計画を発表した。しかし、研修医がこのことにより今までの収入を得られなくなるのではと懸念して24年1月にストを敢行、一部の病院勤務医もそれに同調した。結果的に病床の稼働が減り、患者の手術が遅れるなどの事態となってしまった。このように、医療分野での急激な改革は歪みを生み兼ねないが、かといってあまりに改革が遅いと経営面では非効率となるため、細心の注意が必要となる。

表1 SNUHにおけるデジタル化推進の経緯

LEAVE A REPLY

*
*
* (公開されません)

Return Top