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未来の会

自民、公明、日本維新3党の協議は空中分解寸前

自民、公明、日本維新3党の協議は空中分解寸前

社会保険料引き下げの足並み揃わず

自民、公明、日本維新の会の3党による、社会保険料引き下げの実現に向けた協議が空中分解寸前だ。維新が2025年度予算に賛成する事を条件に3月から協議を始めたものの、47兆円に上る国民医療費の4兆円削減と保険料の年間6万円引き下げを「念頭に置く」とした3党の合意文書は風前の灯火。維新側が「合意は予算に賛成させる為の餌だったのか」責め立てれば、自公側は「金額の根拠が不明」と反論し、いがみ合いが続く。

 「OTC類似薬の改革について、自民、公明共同でやらない理由を並べたペーパーが渡された。我々の提案にはゼロ回答だ。自民、公明は全くやる気が無い」。4月17日、自公両党との協議後、維新の岩谷良平幹事長は記者団にこう語り、自公の対応を強く批判した。

 2月25日に3党が結んだ社会保障改革に関する合意書では、市販薬と効能や成分が似ていながら医師の処方を必要とするOTC類似薬を公的保険の適用から外し、セルフメディケーションを推進して行く事を改革案の柱の1つとして例示している。7月の参院選を控え、保険料引き下げをアピールしたい維新は「少なくとも1370億円の医療費削減に繋がる」としてOTC類似薬改革を強く主張し、合意文書への盛り込みに拘った。

 17日はOTC類似薬改革が中心テーマとなった。しかし実現を求める維新に対し、与党側からは「OTC類似薬の範囲が曖昧だ。何処迄を保険から外すのか」「軽微でも重篤な疾患の兆候というケースも多い」「患者負担が増える」といった慎重論が相次ぎ、協議は纏まらなかった。維新側メンバーの一人、猪瀬直樹参院幹事長は自公側が例外を持ち出して改革を否定し続けたとし、「政治を預かる人間が言う事じゃない。マイナスもプラスも引き受けて『改革をしなきゃいけない』と言わなければいけないのに。これじゃ、話にならない」と不満をぶちまけた。

 3党の合意は、25年度予算の成立に野党の協力を取り付けたい自民、公明の少数与党側と、不祥事等で支持率が低迷する中、得点を稼ぎたい維新の思惑が合致して結ばれた。保険料の年間6万円引き下げを念頭に置き、OTC類似薬改革の他、資産を持つ高齢者も能力に応じて負担する応能負担の強化、医療のデジタル化推進、医療・介護を産業として成長させる事等を改革案として例示している。今年度末迄に検討し、可能な施策は26年度から実行に移すとした。

 3党合意を受けて維新は25年度予算案に賛成し、予算は成立した。しかし、合意に際しては維新が「保険料の6万円減」を合意文に含める様求めたのに対し、自民は難色を示し、結局、表現は「念頭に置く」と玉虫色に後退したのが実情だ。元々、合意は極めて脆い砂上の楼閣だった。

 3党による3月18日の初協議。維新の阿部司総務会長は「(6万円という)数字に拘っている」と迫った。しかし与党側は「根拠がよく分からない」と受け流した。自民党の森山裕幹事長は会議冒頭で「論点を十分に検討し、早期に実現可能なものは令和8( 26)年度から実行に移す」と約束する一方、医療費の削減については、会談後に「数字有りきで協議する事では無い」と記者団に語り、つれなかった。

協議で改革進まず苛立つ維新と自公の深い溝

 自公と維新の溝の深さを裏付ける様に、2回目となった3月27日の協議はテーマ外の事で荒れた。思う様に改革が進まない事に苛立つ維新はこの日、22年に日本医師会から自民党に約6億1000万円の献金やパーティー券購入が有った事を示す資料を配付し、「医師会からの献金を受け、改革が進まなかった」と自民党を槍玉に挙げた。これに自民は「献金で政策が歪められた事実は無い!」と反論し、会議は紛糾。与党側からは献金資料を引っ込める様求める声が飛び、自公両党とも資料の受け取りを拒否した。流会後、維新の岩谷氏は「改革が進まない原因が献金に有るならこれからも触れざるを得ない」と述べ、与党側を牽制した。

財源の捻出方法で維新も迷走

只、その維新も財源の捻出方法に関しては迷走している。政府の社会保障の歳出カットは、直接国民に痛みを強いる事が無い薬価の引き下げ頼みが続いている。その1つが、従来2年に1度だった薬価改定を毎年改定に変えた事だ。薬価改定は公定薬価を市場価格に近付けるのが目的で、医療費削減に直結する。「行政改革」に力を入れる維新も薬価の削減には理解を示して来た。それが維新の前原誠司共同代表は4月9日の記者会見で、立憲民主、国民民主両党が提出していた、薬価改定を2年に1度に戻す法案について賛成する方針を示唆した。只、これには維新内部から「保険料引き下げを主張している党の方針に逆行する」との批判が噴出。前原氏は一夜にして姿勢を翻さざるを得なかった。

 前原氏が一旦この法案に賛成する姿勢を示したのは、立憲、国民両党と連携する事が念頭に有った為と見られる。但し、維新内には薬価の引き下げに頼る事に対しては慎重論も出ている。薬価削減が製薬企業の創薬意欲を低下させ、イノベーションを妨害し兼ねない、という理由からだ。執行部が極端な薬価引き下げに走った場合、「創薬の推進」という観点からの反対論が起きる可能性が有る。

 そもそも医療の保険料に関する議論は、岸田文雄前首相時代から連綿と続くものだ。23年末、岸田政権は3•6兆円規模の費用を投じる「異次元の少子化対策」を打ち出した。財源として、歳出改革で1・1兆円、支援金で1兆円、既定予算の活用で1・5兆円を捻出するとした。28年度迄に徹底した歳出改革をして保険料を減らし、その範囲内で支援金を賄うという。「歳出改革と差し引きすれば全体として保険料は増えない」というのが政府の理屈だった。それでもこの段階ですら「まやかし以外の何物でも無い」(厚生労働省保険局OB)といった批判が相次いでいた代物だった。

高額療養費制度の上限額引き上げも暗礁に

 少子化対策の財源を考案した際、政府が歳出改革の柱の1つに想定していたのは、医療費の自己負担額に歯止めを掛ける高額療養費制度の上限額引き上げだった。それが石破茂政権は、1度は上限額を引き上げる案を示しておきながら、強い批判を浴びるや二転三転した揚げ句、最後は全面先送りを決めた。制度に詳しい政府関係者は「高額療養費の見直しが転けて保険料の引き上げを帳消しにする財源すら怪しい。OTC類似薬改革も一筋縄では行かず、本当に保険料を下げるなら財源は赤字国債、という話になっちゃうんじゃないか」と冷ややかだ。

 社会保障改革を巡る自民党の消極姿勢に対し、維新の前原共同代表は4月17日の記者会見で「我々に対して(与党は)予算を通す迄は丁寧な対応だった」と皮肉を吐いた。同党の青柳仁士政調会長は「約束を破る様な政党と予算の約束をする様な政党は今後一切現れない」と自民党をこき下ろしたが、今国会への補正予算提出を見送った同党は何処吹く風といった風情だ。

 今後、保険料引き下げの材料として、75歳以上の医療費の窓口負担割合(原則1割)のアップ等がテーマとなる可能性は有る。例外として自己負担を3割としている所得層の拡大等が想定される。それでも政官界では「参院選の前は不可能」という見立てが大勢だ。

 3月27日の協議で揉めた通り、自民と維新の対立は「政治とカネ」の問題に対するスタンスの違いも大きい。両党に隙間風が吹いたのは、維新が企業・団体献金の禁止法案を立憲民主と共に衆院に提出した事が契機だ。維新の幹部は「自民党からは『こんな事では一緒に出来ない』と強く言われた」と明かし、「社会保障改革の協議は当面平行線のまま進展しないだろう」と漏らした。

3月27日に行われた社会保障改革の3党実務者協議

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