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12年周期で参院選と都議選が重なる「政局の夏」

12年周期で参院選と都議選が重なる「政局の夏」

石破首相は「反・減税ポピュリズム」を貫けるか

今年は12年に1度、参院選と東京都議選が重なる年。前回2013年は前年末に旧民主党から政権を奪還した自民、公明両党が参院と都議会でも主導権を握り、その後の「安倍1強」時代に繋がって行く。そこから定着したのが有権者の選挙離れによる各種選挙の低投票率。有権者の半分しか投票に行かない選挙でその半分、つまり有権者の4分の1の支持を得た与党が権勢を振るう組織政党優位の勝利の方程式が確立された。そこに綻びが見えたのが昨年の東京都と兵庫県の知事選であり、既存の政治に不満を募らせた有権者の反乱が昨年10月の衆院選で与党を過半数割れに追い込んだ。

低投票率を前提とした自公勝利の方程式は崩壊

 昨年7月の東京都知事選では、自公両党等が支援した小池百合子知事が圧勝したが、小池氏の得票率は20年都知事選の60%から43%に減少した。都知事選の投票率は20年の55・00%から60・62%へと5ポイント以上増えた。有権者の関心を高めたのは、既成政党の支援を受けず、インターネット上のSNSや動画配信を使って選挙戦を展開した石丸伸二前広島県安芸高田市長で、小池氏と蓮舫元立憲民主党参院議員との事実上の一騎打ちと目された選挙戦に割って入り、蓮舫氏の得票を上回る次点に躍進した。

 都知事選の「石丸現象」は、既存の政治に対して不満を募らせた有権者層は投票に行かないと高を括っていた与党に衝撃を与えたのみならず、自分達が不満の受け皿になれると考えていた野党の皮算用も狂わせた。昨年10月の衆院選の投票率は21年の55・93%を下回る53・85%と相変わらずの低投票率だったが、自公の得票率(小選挙区)は21年の約50%から約40%に減少。与党で過半数の議席を確保出来ず、「4分の1」の支持で勝利する方程式が崩れた。選挙前の98議席から148議席に増やした立憲民主党も得票率は30%→29%と横這い。得票率を2%→4%と倍増させ、議席を7から28に4倍増させたのが国民民主党だ。

 国民民主党は立憲民主党と同様、旧民主党の流れを汲み、労働組合の全国組織「連合」の支援を受ける既成政党だが、石丸氏に倣ってSNSや動画配信を積極活用し、「手取りを増やす。」のキャッチフレーズで減税を訴えたのが功を奏した。国民民主党の主張通り、「年収103万円の壁」を178万円に引き上げれば納税者全般が減税の恩恵に浴する一方、国と地方の税収が7兆から8兆円減ると政府は試算する。財源の裏付けを示さなければバラマキ政策の類いだが、物価高に苦しむ有権者の心を捉えた。

 既成政党に更なる衝撃を与えたのが、昨年11月の兵庫県知事選だ。パワハラ問題で県議会の全会一致による不信任決議を受けた斎藤元彦氏が再選された「斎藤ショック」は、有権者が県議会の総意にノーを突き付けたに等しい。投票率が前回21年の41・10%から55・65%に跳ね上がった事は、都知事選と同様、既存の政治に不満を募らせた有権者が投票に動けば、その矛先は既成政党全体に向けられる可能性を示唆する。お題目の様に口では投票率のアップを呼び掛けながら、本音では「既得権益で繋がる岩盤支持層以外の有権者は眠っていて欲しい」と念じてきた自公。投票率が上がれば有利と考えて来た立憲民主党。何れもが選挙戦略の見直しを迫られる中で迎える今夏の参院選と東京都議選である。

 先ずは6月13日告示——22日投票の都議選だ。01年6月の都議選では、同年4月に就任した小泉純一郎首相の高支持率を追い風に自民党が勝利し、7月の参院選でも大勝。09年には7月の都議選で第1党に躍進した民主党が8月の衆院選で政権交代を果たした。都議選はその後の国政選挙を占う先行指標の1つとして注目されて来た経緯が有る。

野党の核となるのは立憲民主か、国民民主か

今年の都議選には、石丸氏が立ち上げた地域政党「再生の道」が全選挙区への候補者擁立を目指している他、現在議席を持たない国民民主党も積極的に候補者を立てる構え。21年の都議選では自民党が33議席、地域政党「都民ファーストの会」が31議席で第1党を争ったが、今回、「再生の道」と国民民主党が都議会の勢力図にどの様な変化をもたらすか。その結果を左右するのは、前回42・39%迄落ち込んだ投票率がどこ迄回復するかだろう。「再生の道」はその後の参院選に向けて東京選挙区への候補者擁立も発表。国民民主党も都議選で勢いを付けて参院選でも躍進に繋げたい考えだ。

 参院選の日程は、通常国会が会期延長も衆院解散も無く6月22日に閉会すれば、7月3日公示︱20日投票となる。7月20日は3連休の中日に当たる。レジャーに出かける有権者が投票に行かない事が懸念される為、これ迄避けられて来た選挙期日の設定だったが、石破茂首相は投票率のアップを正義とする建て前をかなぐり捨て、昨年の衆院選で崩壊した筈の「4分の1」勝利の方程式に縋る道を選んだ。参院選は定数248の半数124議席が3年毎に改選される。与党が3年前の前回参院選で獲得した75議席(自民62・公明13)が非改選の今回、自公合わせて50議席を下回らなければ、与党の参院過半数は維持される。改選過半数を割ったとしても、少しでも負け幅を小さくして参院選後の政局に備えたいというのが石破政権の思惑なのだろう。

  仮に衆院に続いて参院でも与党が過半数割れする大敗を喫したとしても、立憲民主党、日本維新の会、国民民主党に日本共産党やれいわ新選組を加えた野党連立政権が誕生する可能性はゼロだろう。一方、与党が参院で過半数を維持したとしても、衆院の過半数を有しない少数与党の状態は続く。参院選の結果がどうであれ、与党は野党の一部に協力を求め、それが連立の組み替えや政界再編に発展する可能性が取り沙汰される。国民民主党の玉木雄一郎代表が朝日新聞のインタビューで「参院選以降、何十年ぶりの日本の政治史に残る様な大きな変化が起きる可能性はある。それを主導的に起こして行きたい」と語り、毎日新聞社主催の講演で「3つから5つ位の政党が協力しながら政権を運営して行く新しい権力運営のルールが出来て来る。その中で私達は一定の役割を果たしたい」と述べた狙いは其処だ。

 そう考えると、国民民主党が立憲民主党との選挙協力に後ろ向きの理由も分かり易い。参院選で与党の議席数を極小化させるという目的は共有出来ても、選挙後は政局の主導権を争うライバルとなるからだ。その意味では日本維新の会とも競争関係にあるが、関西を除く地域で維新に勢いは無く、立憲民主党を最大のライバルと見做して競合選挙区への候補者擁立を積極的に進める構えを見せる。立憲民主側の危機感は強く、旧民主党政権の首相として消費税増税を決めた野田佳彦代表も党内の突き上げを受けて時限的な食料品の消費税ゼロを打ち出したが、党内議論の過程では枝野幸男元代表が「減税ポピュリズムに走りたいなら別の党を作って下さい」と発言する等、党内の火種は燻る。参院選の結果次第では立憲民主党の分裂による政界再編も囁かれる。

 12年周期を3回遡る1989年の都議選と参院選は、リクルート事件を受けた政治不信が渦巻く中、同年4月の消費税導入に反対した社会党が躍進し、参院選で改選第1党の座を失う大敗を喫した自民党の宇野宗佑首相が退陣に追い込まれた。その後の日本の政治は平成の政界再編期に突入し、自民党は荒波を乗り切った一方、社会党は衰退の道を辿った。

 今夏の参院選に向け石破首相は「反・減税ポピュリズム」を貫くのか。その先に首相続投を勝ち取れたなら、立憲民主党の一部と連携する「反・減税ポピュリズム」連立も視野に入るかも知れない。石破首相退陣なら、国民民主党を連立に加えた「玉木内閣」もあり得よう。アツい「政局の夏」が来る。

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