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未来の会

第131回 研究開発費「最大5500億円」も期待薄

第131回 研究開発費「最大5500億円」も期待薄
虚妄の巨城
武田薬品工業の品行

 『日本経済新聞』(電子版)の4月7日付記事によると、武田薬品工業は「2022年3月期の研究開発費が最大5500億円になる見通し」という。つまり、「21年3月期予想比で1000億円増やし、同社として過去最高規模」になるとか。

 しかし、カネをかけさえすれば新薬が出来るくらいなら苦労はしない。これまで国内製薬メーカーの研究開発費の額でトップを維持してきた武田が、新薬数でも1位の座を誇れたわけでは決してない。

 それどころか、ウェバーの前任者の長谷川閑史の時代から、カネをいくら注ぎ込もうがさっぱり新薬を生み出せなかった。「TAK‒475(高脂血症治療薬)」や「TAK‒242(敗血症治療薬)」、「TAK‒875(糖尿病治療薬)」等、大型化が期待されながら、あれよあれよと言う間に開発失敗の山が築かれたのは記憶に新しい。

 武田は今も3683億円という他社がうらやむような研究開発費(18年4月〜19年3月時点)を投じながら、まるで鳴かず飛ばす。武田のその額と比較して、27%ほどしかない中外製薬がブロックバスター(圧倒的な売り上げを見せた医薬品)となった血友病治療薬「ヘムライブラ」を開発し、更にはわずか19%しかない小野薬品が、大ヒットとなったがん免疫薬「オプジーボ」を世に出したのとは実に対照的だ。

コロナ治療薬開発〝失敗〟を認める

 案の定というか、社長のクリストフ・ウェバーが4月6日のオンラインの会見で、「最大5500億円」をぶち上げた4日前、武田は昨年春に華々しく発表したコロナウイルス感染症治療薬の血漿分画製剤の開発に結局失敗した事実をついに認めた。当時、武田は「(同年)6月にも臨床試験を開始する」と豪語していたにもかかわらず、創薬に弱い武田の欠点がまた露呈してしまったといえる。

 武田のホームページの4月2日付にある、「CoVIg‐19 Plasma Alliance(以下『CoVIg‐19アライアンス』)は、このたび、米国国立衛生研究所(NIH)の米国国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)が出資し実施した臨床第3相試験「Inpatient Treatment with Anti‐Corona virus Immunoglobulin(ITAC)」において、評価項目を達成しなかったことをお知らせします」というのがそれ。

 一時はウェバーも含め、武田が20年度中に血漿分画製剤の開発にめどがつきそうな言辞を盛んに振りまき、一部メディアも過度に持ち上げていた割には、ひっそりとした「お知らせ」となった。

 情報の流れが日々速さを増している現在、コロナ禍が果てしなく続きながらも話題がいつの間にか途切れて久しくなり、世間も血漿分画製剤などとっくに忘れてしまっていた風だったのは、武田にとってむしろ幸いだったろう。当初は「単独開発」を打ち上げながら、途中で海外企業数社との「アライアンス」になっても同じ事だった。

 それでも、『日経』記事によると「最大5500億円」は「現在の利益を支える主力薬が今後数年で特許切れになるのを控え」ての措置とか。だが、いくら研究開発費を増やそうが、この調子なら先は明るくないように思える。

 既に武田の新薬開発の期待薄かげんは、19年11月に武田が東京で開いた「R&D(研究開発)デー」で示されていた。席上、「100億ドルを超えるポテンシャル」と宣伝されて、20〜24年度を承認目標とする「有望な新薬候補」12製品が紹介されたが、そのうち、実に10製品が買収先の企業由来だったからだ(効能別では14効能中12効能)。

R&DよりM&Aの方がお似合い

 こうなると業界一の研究開発費が、どこへ消えたのかという話になる。もう最初からいっそのこと資金をR&Dではなく、M&A(合併・買収)に徹して回しておいた方が得策であったのではないか、と誰しも考えてしまうだろう。実際、武田の現在の主力商品で自社開発のものはないのだから。

 武田の潰瘍性大腸炎・クローン病治療薬「エンティビオ」。19年度で3472億円を売り上げた、武田を支えるナンバーワン商品は、やはり武田の開発ではなく、08年に約9000億円で買収した米ミレニアム・ファーマシューティカルズが生み出した製品。これが24年には欧州で特許が切れ、更に26年になると米国での特許が切れる。

 注意欠陥多動障害治療薬の「ビバンセ」も、「エンティビオ」に次いで同年度で2741億円売り上げたが、これも買収したシャイアーの製品で、24年までにやはり特許が切れる。

 こうなると、いくら「最大5500億円」と景気よく打ち上げようが、特許切れの問題に直面している今、果たして自社開発で計6000億円以上を稼ぐ製品の穴を埋める新薬が、開発可能なのかという疑問が湧こう。

 何しろ、久しく自社開発のブロックバスターとはまるで縁がない武田の事。手っ取り早く有望な製品を開発した他社に手を出した方がお似合いのような気もするが、シャイアー買収のために今なお4兆円を超える巨額の有利子負債を抱えている。

 この4月にも、負債圧縮のため「ネシーナ」や「リオベル」、「イニシンク」といったかつては主力分野だった糖尿病薬事業を帝人に売却したばかり。その辺のベンチャー企業はともかく、実績のある優良企業のM&A路線に再び邁進する余裕はもはやない。

 ただ、一部のアナリストが有望視して宣伝している武田の新薬候補として、「居眠り病」とも呼ばれる慢性神経疾患のナルコレプシー治療薬である「TAK‒925」(静脈注射薬)と「TAK‒994」(経口薬)が開発中だ。このうち「TAK‒925」は、既に治験第1相に進んでいる。

 武田のこれまでの実績からして、長いブランクから突如ブロックバスターを生み出せる会社に変身するのはなかなか容易ではないだろうが、そうでもしない限り26年以降はお先真っ暗になるのも事実だろう。

 しかも、前出の『日経』記事の後半には、「(ウェバーのオンラインでの)6日の説明会に参加したSMBC日興証券の田中智大アナリストは『ナルコレプシー治療薬の候補は製品化されれば貢献は大きいが、今回は期待していたほど新たな情報が多くはなかった』とみる」とある。

 ナルコレプシー治療薬も、例の期待外れに終わった血漿分画製剤の二の舞になる可能性が、あながち排除出来ないのではないか。

 このままだとウェバーがやがて武田を去った後、会社にはもう「主力商品」が残っていなかったという事態が、悪夢だけで終わる保障もない。

                  (敬称略)

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  1. 「徳」を忘れた、武田薬品の経営。
    最近10年間の武田を見て、先ず目に付くことは、その業績の低迷ぶりである。
    即ち、2011年3月期の純利益は2,480億円と業界ダントツであったものが、翌年の2012年3月期には、ジェネリックのNycomedを1兆円超で買収したこともあり、純利益が1,240億円と半減した。その後、和光純薬等の大量な資産売却や、多額の借入金を使ってのShireの買収にも拘らず、業績は低迷が続いている。
    業績低迷の原因は、識者達から色々指摘されているが、その根本原因は、最近の経営トップの「徳」の欠如である。
    即ち、医薬品業界にとどまらず、日本産業を代表する好業績を挙げていた時代のトップは小西新兵衛さんであるが、その経営に対する姿勢は「徳」に裏付けられたものであった。具体的には、「小西新兵衛追想録」の森岡茂夫さん(p.267)、L.v.プランタ博士(p.334)、A.F.ローエンベルガー博士(p.313)などからの寄稿を一読するだけで、その経営哲学に、現代の多くの産業人も、深く感銘を受けることだろう。
    翻って、その後の最近の武田の経営トップを見ると、長期海外居住者特例税法による節税相続、工場建設に伴う不明朗な取引の噂、武田の宝ともいうべき研究所幹部の大量解雇や、実績を伴わない外国人幹部の大量採用、単に規模の拡大を目指したとしか見えないジェネリックの高額買収、長年にわたる堅実経営によって蓄積された優良資産の大量売却、止まることを知らない長期にわたる「タコ配」の継続と、業績を無視したとしか見えない経営トップの高額報酬、等々、「徳」を失した経営が行われた10年と断ぜざるを得ないのが、武田薬品の現状である。

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