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神奈川県立病院機構「理事長解任」の真相

神奈川県立病院機構「理事長解任」の真相
 
 
神奈川県立がんセンター(横浜市旭区)など、五つの病院を管轄する地方独立行政法人 神奈川県立病院機構(本部・横浜市中区、康井制洋理事長)。2014年から理事長に就いていた土屋了介氏を、神奈川県は3月6日付で解任した。黒岩祐治知事による解任は、機構内部の人事に知事が介入する一般指揮監督の行使に当たり、独立行政法人法に違反する、と土屋氏は主張している。放射線治療医が集団で退職するなど、昨年から問題が起きていた同機構だが、なぜ理事長解任という事態に至ったのか。また、その決定は正しかったのか。真相を知るため土屋氏に話を聞くと、解任劇に発展することになった本当の原因が見えてきた。
土屋了介前理事長 ◎ 特別インタビュー
 

——解任以前に、県からはどのような話があったのですか。

土屋最初は昨年12月6日でした。中島正信副知事と首藤健治副知事が機構に来て、人払いしてから、こう言ったのです。「がんセンターで、放射線科部長に続いて4人の放射線科医が辞めると言っている。これはあなたのせいだから、あなたが機構を辞めるべきだ。そう知事に言っておくので」ということでした。しかし、これは言い掛かりで、各病院の医師の管理は、当然、病院長の責任なのです。

——放射線科の医師が退職した理由は?

土屋放射線科部長を務めていた女性医師の経歴詐称が、そもそもの原因でした。県立がんセンターでは先進医療として重粒子線治療を行っていますが、厚生労働省は先進医療として重粒子線治療を行うための施設基準として、施設責任者にある一定の経験があることを求めています。ところが、彼女の経歴は重粒子線治療施設の責任医師としての要件を満たしていなかったのです。厚生労働省が出しているガイドラインには、専ら放射線科に従事し、1年間は粒子線治療(重粒子線または陽子線)の療養に従事していること、となっています。彼女の出した申請書には、2年の粒子線治療経験があるとなっていましたが、それが嘘だったのです。実際は3カ月間、放医研(放射線医学総合研究所)で研修を受けたにすぎません。

放医研の客員研究員を2年間務めていますが、放医研で重粒子線治療に従事していたわけではなく、その大部分の期間は県立がんセンターに勤務して、一般的な放射線治療を行っていたわけです。当然、要件を満たしてはいません。そこで、重粒子線治療施設の施設責任者の資格がある医師を、重粒子線治療科の部長に任命し、その女性医師は昨年4月から研修に出すことにしました。責任者の資格が得られるように、私の職務命令で、放医研に行かせたのです。もし、経歴を詐称したまま彼女を責任医師として重粒子線治療に従事させていたら、大きな社会問題に発展した可能性がありました。その時には、重粒子線治療は停止されていたでしょう。もちろん、資格のない医師が重粒子線治療施設の責任者になることで、最も被害を受けるのが、治療を受ける患者さんたちであることは言うまでもありません。

二転三転した解任の理由

——研修に出された医師が、説明もなく左遷されたと騒いで退職したわけですね。

土屋納得して行ったと思っていたのですが、その後の報告がまったくないので、県立がんセンターの大川伸一病院長に、どうなっているのかと問い合わせていました。すると、昨年8月になって、彼女は退職しました、という返答がありました。そして、11月になると、残りの放射線治療医が辞めると言い出したのです。病院管理者である病院長には、本人達に対して、少なくとも翌年3月までは勤めるべきだと説得しなさいと言ったのですが、できませんでした。それどころか、私(土屋)が放射線科の部長を辞めさせたことで他の4人も不安になっているのだから、私がいる限り残りの4人が辞めるのは仕方がない、と言っていました。

——1月24日に県の調査委員会が報告をまとめています。

土屋この調査委員会は8人のメンバーで構成されているのですが、そのうちの7人は、なんと県の役人なのです。その報告には多くの事実誤認があり、放射線科医の資格についても、彼女にはその資格があったということになっています。それはおかしいではないかと反論を出したところ、機構の役員に相談もせずに反論を出したと、県は文句を言っています。これもひどい話です。

——2014年に機構の理事長に就任した時には、知事から強い要請があったと聞いています。知事との関係はうまくいっていたのではないのですか。

土屋今年3月で4年の任期が終了することもあり、昨年あたりから、来期も理事長をやってほしいという話はいただいていました。あと5年やると、私は77歳になりますし、軽い気持ちではお引き受けできません。じっくり考え、家族とも相談して、あと1期はお引き受けしようと決心し、10月か11月に知事にはそう伝えてありました。

——黒岩知事から解任を言い渡されたのは?

土屋2月5日でした。その時、知事から伝えられた解任の理由の一つは、県立がんセンターの大川病院長を降格させたことでした。これを戻せというのと、4月以降の人事に口出しをするなということでした。この二つについて飲めないのであれば、解任の手続きに入るとおっしゃるので、そうですかと引き下がったわけです。ただ、降格させた病院長を元に戻せとか、人事に口出しするなというのは、一般指揮監督の行使であって、これは独立行政法人法の下では認められていません。独立行政法人というのは、知事が理事長を任命したら、その後のことは理事長に任せることになっています。独立行政法人の趣旨から考えても、人事が気に入らないからといって、知事が解任だと言い出すのはおかしいのです。独立行政法人について、何か考え違いをしているとしか思えません。

——機構の副理事長らが、理事長解任を求める緊急声明を出していますが。

土屋私が知事と会ったのは2月5日午後3時40分で、そこで解任の話がありました。声明文は出たのはその後で、彼らは午後6時に新聞記者を集め、声明文を読み上げたと聞いています。私に解任を伝えた後、その声明文が知事に届いていたことになります。順番が逆なのです。

法令や定款の遵守が煙たがられた

——最終的には、それが解任の決め手になった?

土屋県側は私に問題があったとする事例を六つ挙げていますが、そのどれもが、法的に私に過ちがあったとは言えないものばかりです。私自身、これまで法令や定款に則って仕事をしてきましたから、悪いことはしていないという自信があります。独立行政法人法に従えば、神奈川県知事が機構理事長の私を解任できるのは、「職務上の義務違反があるとき」と定められています。その義務違反がなかったため、そこで最後に出てきたのが、土屋を辞めさせてほしいという声明文なのです。地方独立行政法人法には、「その役員に当該職務を行わせることが適切でないと認めるときは、その役員を解任することができる」とあります。

そこで、声明文を出し、機構の役員がこう言っているのだから、お前は「役員として適切ではない」という理屈なのです。私を辞めさせる理由は、二転三転しています。最初に副知事が言っていたのは、放射線科医が辞める責任を取れという話。黒岩知事が言っていたのは、病院長の降格人事がけしからんという話。そして最後が、辞めさせてほしいという声明が出ているという話。結局のところ、土屋を辞めさせたいというのが最初からあり、それに都合の良い理由を付けているだけなのです。

——どうして辞めさせたかったのでしょうか。

土屋これは推測ですが、法令や定款などを遵守して機構の運営を進めてきましたが、それが鬱陶しかったのかもしれません。独立行政法人になる前は、県立病院の慣習に従って仕事をしていたわけで、いいかげんな部分がたくさんあったのです。私が細かく目を通すようになり、それが邪魔だったのかなと思います。県にとって、不都合な部分があったのかもしれません。

——どんな不都合ですか。

土屋はっきりしたことは分かりませんが、一つは重粒子線治療装置の契約です。私が理事長に就任する前のことですが、東芝の社内では90億円で売ったことになっているようですが、こちらでは70億円で買ったことになっています。最初に契約したのは独立行政法人になる前なので県が、独法化した後は県立がんセンター総長が契約者となっています。差額の20億円をどうしたのかよく分かりませんが、がんセンター側は「県の財政課と相談しながらやっています」ということでした。県はこの問題をあからさまにしたくなかったのではないかと思います。

独法病院と損保会社の不透明な繋がり

——他にもあるのですか。

土屋損害保険に関係して驚くようなことがありました。全国には独立行政法人の病院が80くらいあり、年に1回、集まりがあります。理事長に就いた年にその会に出ると、損保ジャパンの社員が受付をやり、弁当を配り、その時間に保険の宣伝をしているのです。夕方からはパーティーで、コンパニオンがずらっと並んでいたりするのに、会費はわずか5000円。どうも気になって、機構の損保契約を調べさせると、財務部長は「共済会を通じてやっています」と言うわけです。

共済組合かと思いましたが、実際は「株式会社自治体病院共済会」。ホームページを調べると、社長は全国自治体病院協議会(全自病)のOBで、専務取締役は保険会社の人。それ以外の取締役には全自病の邉見公雄会長らの名前がずらりと並んでいるわけです。その人達に保険のことが分かるとは思えませんから、損保ジャパンが全てやっているのでしょう。いわゆるトンネル会社です。独立行政法人の病院の多くが馴れ合いで、このような会社を代理店にして損保に入っているのです。これはおかしいと思い、機構では翌年から競争入札で保険会社を決めることにしました。集まりには総務省や厚労省の官僚もいたので、この実態は知っているはずです。

——他には?

土屋建築関係でもおかしなことがあります。県立こども医療センター(横浜市南区)の周産期病棟を改築する時、予算の上げ方がおかしいので、やり直しをさせました。工事中はベッド数が減るので、当然収入は減りますが、人手は同じように必要です。そして、ベッド数が増えると、人件費が余分に必要になります。こういったことによる赤字を取り戻すのに何年かかるかは、診療体制がどうなるかを医師側が示し、それに基づいて事務方で計算する必要があります。民間はもちろん、国立病院でもやっていますが、これまで県立病院ではやったことがないからか、なかなか出てきません。そのうち、建築業界の人から、「理事長、県と話がつきましたので、よろしく」と言われました。信じがたいけれど、これが実態です。

——県立病院時代はいろいろな面が緩くて、そこにつけ込む人達がいたわけですね。

土屋有力者と見られている県会議員が、特定の調剤薬局に便宜を図るため、県立がんセンターの塀を取り除けと言ってきたりすることがありました。一軒の薬局のために利益供与などできるはずがなく、もちろん突っぱねましたが、しばらくするとまた言ってくる。「昔はなあなあでやっていて、何でもできた。土屋が来てから融通がきかなくなった」と思われていたのでしょう。

——まだあるのですか。

土屋寄付金の使い方ですね。寄付金は特別会計にすべきですが、おかしな使われ方をしていました。例えば、機構が医師会の人を集めてホテルで会合を開いた時、その費用を県立こども医療センターは経常経費から出していましたが、県立がんセンターは研究基金から出していました。研究のためにと寄付してもらったお金を、どのように使うべきなのか。そんな常識もないのです。独立行政法人になって何年も経過するのに、ルーズなやり方が抜けていない。それについて、細かく指摘されることに負担を感じていたのかもしれません。

複数の訴訟を相次いで起こす

——訴訟を起こしましたね。

土屋一つは県を相手に、解任処分の取り消しを求める訴訟を3月26日に横浜地方裁判所に起こしました。また、2月22日に県の聴聞会があったのですが、その聴聞調書に明らかな虚偽があるので、聴聞会の主宰者を刑事告発しました。録音を取ってあるので、公文書の虚偽記載が認められると思います。また、声明書を出した副理事長ら6人に対して、損害賠償請求の裁判を起こします。解任騒ぎが起きる前、私は黒岩知事から来期も理事長を頼みたいと言われていて、引き受けるという口約束もしていました。

1期5年の給与と退職金での収入が不当な声明文で失われたのですから(推定1億円)、賠償せよという訴訟です。さらに、経歴詐称をした県立がんセンターの前放射線科部長に対する刑事告発をします。私にとって訴訟は大きな負担ですが、将来のためにも、この問題はきちんとしておく必要があると思っています。私の命はあと10年くらいですが、神奈川県立病院機構をこのままにしておくのは、県民にとって大きなマイナスになりますからね。

——元々、黒岩知事とは良い関係だったはずです。知事が籠絡されたということでしょうか。

土屋次の知事選を考えれば、県側の関係者とは広く良い関係を作っておいた方がいいでしょう。医療分野は狭いですから。そういう意味では、彼は政治屋です。しかし、今回の件で人気は落ちるでしょうね。

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 神奈川県にも取材の申し込みをしたところ、担当部署の保健福祉局保健医療部県立病院課より、「これから裁判で係争することになるので、3月7日に記者発表した『地方独立行政法人神奈川県立病院機構理事長の解任について』(同県ホームページで公開)以上のコメントは差し控える」との回答があった。


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