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未来の会

第124回「日本の医療」を展望する世界目線

第124回「日本の医療」を展望する世界目線
大阪・関西万博から日本の医療を考える②

好評のうちに幕を閉じた大阪万博を訪れた際、2つの点で日本の問題点を感じたので、引き続き記録しておきたい。前回は、タイが国を挙げて自国の魅力をアピールする姿を紹介し、日本はいささか発信力に欠けるのではないかという所感を述べた。さらに今回は、万博のオペレーション自体が日本の医療に対する考え方の縮図の様に思えた点を取り上げる。

私自身は、大屋根リングの景観、会期中に連日行われた1000機規模のドローンショー、予約の叶った範囲内ではあるが展示等を大いに楽しむ事が出来た。猛暑下で運営に当たった関係者の努力には深く敬意を表したい。それでも、辛口の指摘を要する側面は在った。なお、過去の万博の事例把握に当たっては、公開資料や一次情報を基に、必要に応じてAIの要約も補助的に参照している。

外国人来場者の傾向と評価

開幕から約5カ月が経過した2025年9月の時点での大阪・関西万博に対する外国人来場者の評価は、全体として日本人来場者よりも厳しく、ネガティブな声が目立つ傾向にある。

ウェブやX(旧Twitter)の投稿、調査データを基に分析すると、外国人の不満は主に運営のデジタル化の不備、多言語対応の不足、交通・アクセスの不便さ、待ち時間の長さ、高額な価格設定などに集中している。一方で、建築デザインや一部パビリオンの展示内容は高評価を得ており、評価は2極化していた。全体の傾向とデータを見ていこう。

評価の分布インタセクト・コミュニケーションズの調査(Googleマップレビュー1002件分析、25年3月〜4月)では、日本語レビューの平均評価は4.16点(5点満点)に対し、外国語レビューは平均点がやや低く、5点評価の割合が高い一方で、1〜2点の低評価も一定程度見られ、評価のばらつきが大きいことが特徴であった。これは、言語・文化的背景や期待値の差が影響し、満足時には強い称賛、課題に直面した場合には改善要望が明確に表明されやすかった結果であると解釈できる。

来場者数と外国人比率目標来場者2800万人のうち、海外来場者は350万人(約13%)を想定していたが、開幕後4カ月で累計1000万人超が来場する中、外国人はアジア圏(台湾・韓国・香港)が中心で、欧米諸国からの訪問は相対的に少ないとの指摘がX上で散見された。

日本人との違い日本人は「混雑」や「価格」を主に批判しているが、外国人は「言語の壁」や「デジタルツールの使いにくさ」を強調している。米国のオンラインメディアMediumの分析記事では、公式サイトや予約導線の設計不備、アプリの操作性などを「デジタル面の失敗(digital disaster)」として厳しく指摘し、来場者体験における“先進的な運営への期待とのギャップ”を論じている。

外国人からの主な批判点

外国人の不満は、事前に掲げられた「超スマート会場」と実体験とのギャップが大きく、Xやレビューでは「期待外れ」とする声が一定数見られた。論点は概ね次の3点に集約される。

1.デジタル化とアプリの操作性

「超スマート」をうたうアプリの予約システムが複雑で、2重認証の煩雑さやフリーWi-Fiの接続不安定が指摘された。X上でも、アメリカ人家族による「最悪だった。人が多すぎて待ち時間が長すぎる」といった感想に代表される意見が散見された。外国人ガイドの石野シャハラン氏は、Newsweek Japan(25年6月6日)のコラムで「大阪・関西万博の運営は“超スマート”どころかデジタル化未満。特にツアー客対応の不備が目立った」と指摘し、デジタル化の看板と実態の乖離を厳しく論評している。

2多言語対応と案内表示の不足

多言語対応については、英語以外(スペイン語やドイツ語等)の案内が十分とは言えず、パビリオンの映像でも日本語字幕のみのものが見られ、「内容がさっぱり分からない」との声に繋がっていた。現場スタッフの外国語対応にも限界があり、結果として「言葉の壁が面倒だ」と感じる来場者体験を生んだ。

3交通アクセスと待ち時間の長さ

夢洲という立地上、シャトルバスやメトロの混雑が常態化し、入場は2〜4時間待ち、退場時も長い行列が続き、40度級の酷暑が体感負担をさらに増幅させた。X上では「電車が止まり3万人が足止めになった」「雑魚寝する日本人の光景に絶句した(ドイツ人)」といった投稿などがあり、ピーク時の動線設計と暑熱対策の脆弱さが露わになったと言える。

もっとも、批判一色ではない。大屋根リングの造形は「アイコニック」「写真映えする」との評価が目立ち、外国語レビューの方が日本語レビューより高評価となる傾向が示されている。サウジアラビア館やドイツ館など未来技術を前面に出した展示も好意的に受け止められた。インタセクトの分析でも、中国人来場者からは「デジタル化が進んでいて驚いた」「スタッフの熱↙意が素晴らしい」といった声も寄せられ、視覚的な象徴性や一部の展示・接遇は高く評価されていた。

ドバイ万博との比較

20年開催のドバイ万博と比較すると、両万博は参加国数(約150〜160)や来場目標(2800万〜3300万人)、テーマ(未来社会・技術)といった“規模感”は近かったとみられる。一方で、設計思想は対照的だったとされ、ドバイは「ラグジュアリー」や「有料の優先体験」を前面に出したとの指摘がある。

資料を紐解いてみると、Smart Queue(アプリ予約)やFast Track(優先レーン)で待ち時間を圧縮し、1万AED(約30万円)程度のJubilee Experience等の高額パッケージで専用バギーやVIPラウンジ、ガイドツアーを提供していたと報じられている。通信環境や都心からのアクセスも比較的整っていたとされる一方、「高額」「商業色が強い」との受け止めもあったようだが、「投資先としての魅力」を重視したという意見もあったらしい。

まとめ

ラグジュアリーを売り出している国と、社会的公平な国を比較するのはそもそもフェアではないかもしれない。ただ、大阪万博でもVIP待遇がなかったわけではなく、実際、25年6月下旬頃、日本維新の会所属議員数名が、大阪万博の会場を視察し、この際、通常の来場者とは異なり、VIPパスを使って優先入場や専用エリアを利用したことが話題になっている。

優先入場に関しては「プロミネントカード」等の仕組みがあり、ドバイ万博・大阪万博いずれにおいても、ベビーカー利用者や車いす利用者を優先する運用は一般的であったとみられる。これは当然の配慮であるが、現地では年齢がやや高い児童が乗車するベビーカーも見受けられた。

参考資料によれば、ドバイではベビーカー優先の対象を概ね6歳以下としていた一方、大阪万博では明確な基準はなく、公式サイトでは「4歳未満は無料」と記載されているにとどまる。結果として、「ベビーカー使用=優先」とみなされる場面が生じ、運用の曖昧さが公平性への疑念を招いた面も否めない。

これを航空機に例えるなら、目的地に到着するという点では誰もが同じであるが、そこに至る方法には、エコノミー、ビジネス、ファーストクラスなど明確な区分がある。医療分野においても、すべてを一律に扱うことは理想であるが、限られた資源や制度設計のもとで、どこまで差を認めるかという難題を抱えている。韓国のように「ダビンチ手術」を混合診療の対象とする考え方には賛否があろうが、一方で、日本のカルチャーは時に過度に寛容で、制度の隙間で“すり抜ける”人を許しやすい側面がある。

こうした緩さは、結果として医療を始めとした制度の公平性を損ねることもあるのではないか——そう感じさせられたのが今回の経験であった。

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