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未来の会

「国民会議」の検討項目に急遽「消費税減税」追加

「国民会議」の検討項目に急遽「消費税減税」追加
唐突な衆院解散で野党は態度を硬化、設置持ち越し

高市早苗首相による唐突な衆院解散によって招集が宙に浮いていた、超党派で社会保障改革等を議論する「国民会議」の行方が定まらない。当初首相は会議の中心テーマを減税と現金給付を組み合わせる「給付付き税額控除」とする意向を示し、野党に参加を呼び掛けていた。それが不意打ちの衆院解散表明と共に急遽消費税の減税も国民会議の検討項目に加える考えを示したからだ。旧立憲民主党、旧公明党が合流し選挙で惨敗した中道改革連合等は不信感を拭えないでいる。

 衆院解散を表明した1月19日の記者会見。首相は2年間飲食料品の消費税率をゼロにする事について「私自身の悲願でもあった」と述べ、「財源やスケジュールの在り方等、国民会議で実現に向けた検討を加速する」と強調した。又、解散に対する野党の強い反発で会議の招集が一転不透明となった事に対しては、「1月中の開催に向けて(野党に)申し入れをしてきたが、上手くいかなかった」と釈明し、自らの責任を棚上げする姿勢に終始した。

 国民会議は25年秋の臨時国会で首相が与野党に設置を呼び掛けた。メインテーマは給付付き税額控除の導入で、首相は1月5日に三重県伊勢市で臨んだ年頭記者会見では「与野党の垣根を越え、有識者の英知も集めて議論し、結論を得たい」と強い意欲を表明していた。

 給付付き税額控除は、税額控除と給付を組み合わせる制度。控除(所得から差し引く額)が納税額を上回る場合、その分を現金で給付する。所得税が3万円の人の場合、控除額が10万円なら引き切れない7万円分の給付を受けられる。主に中低所得層の税負担を軽くする仕組みで、首相も「社会保険料の逆進性に苦しむ中・低所得者の手取りを増やせる政策だ」と語ってきた。

 首相の表明を受け、自由民主党の田村憲久元厚生労働相が中心となり、自民、日本維新の会の両与党、野党各党に参加を打診してきた。野党は旧立憲民主党と旧公明党が参加に前向きな姿勢を示し、会議は1月の通常国会召集の直前には自民、維新、立憲、公明の4党が参加して設置する運びとなっていた。

 導入目的はともかく、各党とも導入自体への異論は無かった為だ。政府の側にも「社会保障改革に財源含めて与野党で責任を負えば、野党も消費税減税を言い出し難くなり、将来の社会保障の安定財源に向けた議論も出来る様になる」(官邸幹部)との思惑が有った。

国民会議の設置は衆院解散で持ち越しに

 それが首相の解散表明で野党は態度を硬化させ、状況は一変した。野党は衆院選で社会保障改革を争点にする意向を示し、「選挙でガチンコ勝負をしながら国民会議では意思疎通を図る、なんて出来っこない」(中道幹部)という状況に陥った。野党側は鼻白み、中道の安住淳共同幹事長(当時)は国民会議について、「首相自身が断ち切った」と切り捨てていた。

 首相が「悲願」という消費税減税だが、首相は昨年とは主張を違えている。元々の持論とは言え、昨秋の自民党総裁選では「党内の意見集約が出来なかった」と取り下げていた。首相就任後もレジシステムの改修に時間が掛かる事等を理由に「物価高対策として即効性が無い」として却下していた。なのに「国家の品格」と迄言って、飲食料品の消費税を2年間ゼロにする方針を表明し、自民党総裁として国政選挙の党公約に初めて消費税の減税を掲げた。各野党は「消費税減税を主張している野党に対する『争点潰し』だ」と受け止め、国民会議のテーマに消費税減税を加える事には冷ややかだ。中道の野田佳彦共同代表(当時)は多くの野党が昨夏の参院選段階から食料品の消費税減税を主張していた事を挙げ、「高市さんが昨年賛成していれば、もう(減税が)スタートしている」と突き放していた。

 選挙の結果、自民党単独で316議席を得て同党を圧勝に導いた首相は、9日の記者会見で「野党の皆様の協力が得られれば、夏前には国民会議で中間取り纏めを行いたい」と消費税減税のスケジュール感を示し、改めて飲食料品の消費税を2年間ゼロにする公約実現に意欲を見せた。

 しかし、野党にとって国民会議への参加は自民党の公約実現への手助けを迫られる場にもなり兼ねない。又、議論が財源論に及んだ際には負担増の責任を負わされる事にもなる。現有勢力が選挙前の3分の1迄落ち込み、存続の危機すら囁かれる中道内には「野党も道連れの共犯にしようという事だ。今与党に協力して政策を実現しようというムードは無い」(中堅議員)との強い反発も出ている。

 仮に早期の設置に漕ぎ着けられたとしても、議論収束の見通しは立っていない。一口に給付付き税額控除と言っても、目的は所得再分配、就労促進、子育て支援等と様々だ。負担軽減を図るのは消費税なのか、社会保険料なのか、中心となる支援先は低所得層なのか中間所得層なのかでも制度設計や所要財源が異なってくる。

「給付付き税額控除」を海外の制度と比較

日本でよく話題にされる英国の制度は、複数の社会保障給付を一本化した「ユニバーサルクレジット」と呼ばれる制度で、職業訓練等を要件に給付をしている。日本では未だ、目的や支援先に関して各党の足並みは揃っておらず、議論の難航は避けられない。自民党は給付付き税額控除について、衆院選で「所得に応じて手取りが増える様に制度設計を進める」とした。とは言え「所得に応じて」は難しいのが現状だ。

 旧民主、自民、公明の3党は12年、「社会保障と税の一体改革」で給付付き税額控除の導入を模索したが、源泉徴収される勤め人と違って自営業者等の所得把握が難しい事を理由に、「過払いが生じ兼ねない」として断念した。非課税世帯は把握、線引きがし易く各種給付の対象となってきたが、その一方でギリギリ課税されている困窮世帯等への支援が疎かになる等、所得把握を巡る課題は山積している。厚労省幹部は「その点に於いては今も状況に大きな変化は無い」と話す。米国で導入されている勤労世帯に限った制度であれば、現行の国税庁による源泉徴収と確定申告を活用する事で課題はクリア出来る、との見方も有る。だが、パート等扶養されている人への対応には課題も残る。単発で仕事を請け負うギグワーカーの増加等には簡単に対応出来ない。預貯金を多く持ちながら、収入は少ない人への給付をどう設計するのかも検討する必要が有る。

消費税減税も前途多難

 消費税減税に関しても、代替財源の確保は勿論、高所得層に有利となる点等、様々な課題が指摘されている。首相は選挙戦中は殆ど触れなかった飲食料品の消費税率ゼロについて、選挙後に「給付付き税額控除の制度を実行する迄の2年間の繋ぎ」と改めて説明した。年間5兆円の所要財源に関しては、赤字国債を出さず、補助金や租税特別措置等の見直しで捻出する考えを示している。

 しかし、説得力に乏しい。更に減税で消費が増えれば物価高騰を招き兼ねない。市場は財政悪化を懸念し、長期金利が急上昇した。この先、住宅ローンや企業の資金繰りへの影響は避けられそうにない。財政難を切っ掛けとした「日本売り」は一層の円安に繋がり、輸入物価等をこれ迄以上に押し上げる事も想定される。更に「2年限定」としても、2年後に税率を戻すのは至難の業だ。国民は「増税」と受け止め兼ねず、税率を戻す段になって政府・与党の腰が引ける可能性は十分に有り得る。

 そもそも「実現に向けた検討を加速する」という首相の消費税減税に関する発言は、自民党内の減税慎重派と練りに練って生み出した表現だ。減税をするともしないとも言っておらず、「減税は検討したけれど、出来なかった」と逃げられる言いぶりとなっている。それでも、そんな理屈を国民に広く理解して貰えている保障は無い。石破茂政権時代の政権幹部は、現状に危惧を抱き、次の様に語る。

 「野党だけでなく争点潰しで与党も消費税減税を口にした以上、期待している国民は少なくない。『やっぱり出来ない』となった時の反動は怖いよ」

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