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未来の会

人を育てる教学マネジメント ~診療参加型臨床実習で総合診療能力を育成~

人を育てる教学マネジメント ~診療参加型臨床実習で総合診療能力を育成~
宮澤 啓介(みやざわ・けいすけ)1957年東京都生まれ。83年東京医科大学卒業。87年同大学病院内科学第一講座(現・血液内科学分野)臨床研究医。88年同助手。89年米国Indiana University Walther Oncology Center, Postdoctoral Research Fellow。92年東京医科大学内科学第一講座助手。97年同講師。2004年同助教授。07年同准教授。08年同大学生化学講座教授。12年同主任教授。15年同大学副学長(研究科長)。18年同学長職務代理、同学長特別補佐。21年同副学長(研究科長)再任。23年牧野記念病院在宅診療部部長。同年東京医科大学理事。24年同大学学長。東京医科大学ベストティーチャー賞等、受賞歴多数。

1916年、理想の学びを求め学生達が新校設立運動を起こした。その志に共鳴し、明治から昭和初期に掛けて活躍した元官僚で政治家の高橋琢也は、全私財を投じて政・官・学・財の各界に働き掛け、18年に「東京医学専門学校」を設立した。これを前身とする東京医科大学は、医学科・看護学科から成る私立医科大学として発展し、大学院医学研究科に加え、本年4月には看護学研究科(修士課程)を開設した。超高齢社会において求められる実践的臨床能力の育成等、社会課題に正面から取り組む改革を進めている。


——2024年9月の就任以降、大学運営に於いて特に重視されている理念をお聞かせ下さい。

宮澤 本学は、日々献身的に患者に奉仕する医師・看護師を「社会の財産」として捉え、そうした「人財育成」に軸足を置いた大学運営を根幹に据えています。学長就任時の教授会での冒頭挨拶でも「一に教育、二に教育、三、四がなくして五に教育でいきたい」と申し上げました。大学の執行部は、以前は医学科長、看護学科長、研究科長を副学長とする3名体制でしたが、新たに「教学マネジメント担当」の副学長を加えた4名体制に増強し、内部質保証制度の確実な遂行と、間近に控えていた大学基準協会による認証評価の受審に向けた体制を強化しました。特に、PDCAサイクル——計画を立て(Plan)、実行し(Do)、それを確認(Check)し、評価に基づいて改善する(Act)——によって、常に好循環を生み出していく大学運営を目指して取り組んできました。継続的な発展の為には、分野や部門は勿論、各教室と個人に至る迄、このサイクルを回す学内文化を醸成する事が重要だと考えています。

——この1年で様々な動きが有りました。

宮澤 大学の運営は、私1人で成し得る事ではなく、医療の未来を担う医師・看護師を育てたいという全教職員の思いによって動いています。真に社会の財産となる人材を、愛情を以て厳しく育成し、社会に送り出す事が本学の最も大切な使命です。全学で医学教育の価値を共有する事で、現状をより良くする多様なアイデアが生まれ、活力の有る大学運営へと繋がっていると感じています。

人財育成の好循環を目指して

——16年策定の10年計画「ビジョン2025」の総括と、次期中長期計画の重点をお聞かせ下さい。

宮澤 創立100周年を機に立てた中長期計画の最終年度を迎え、現在は次の5年間を見据えた中期計画「GOALs for 2030」に向けて委員会を設置しプロジェクトを立ち上げている最中です。教育を根幹とする上で、大学病院としての高度な先進医療を担う機能と、先端的な研究力が欠かせません。教育、臨床、研究の全てを総合的にレベルアップしていかなければなりません。時代の変化が加速する中で、先ず取り組むべき改革は、やはりPDCAサイクルを回して課題を解決していく体制の一層の強化です。2年目に掛けては、国外留学や留学生受け入れを含めた国際化、産学連携、加速度的に進歩するAIによる個別化・最適化教育の促進にも力を注いでいきます。

——今後、実現したい事は?

宮澤 次世代のリーダーを育成する観点から、世界トップクラスの研究所や医療機関に優秀な人材を積極的に送り出したいですね。海外での先端研究に取り組む事は勿論、現地で一流の研究者の輪に加わり人的ネットワークを築き、帰国後もその関係を活かして力を発揮出来る様、外部連携と留学支援を一層強化していきます。私が研究科長を務めていた21年に、博士課程の学位論文の中から優秀な3編を顕彰する「優秀学位論文賞」を創設しました。毎年、凡そ40編の学位論文の中から、本学の威信を懸けて厳正に選出しています。このベスト3に選出された学位論文審査風景の動画を学内に公開していますが、大学院生達にとっての教材でもあり目標にもなっています。更に、受賞後3年以内に海外のトップクラスの研究所に留学を果たした場合は、学長裁量経費を原資に最大5万ドルの留学費用を支援しています。

——学生にとっては非常に夢が有りますね。

宮澤 未来への投資です。研究者の育成には、出来るだけ早い段階でトップレベルの研究環境に身を置く事が大切です。米国ではポストドクターの平均年俸が5万ドルを超えると言われていますから、国外留学を後押しする動機付けとして、この水準の支援が必要だと考えています。

——25年4月に開設された大学院看護学研究科の目的と、将来的な看護人材育成に果たす役割について、考えをお聞かせ下さい。

宮澤 看護系大学が数多く立ち並ぶ中で、本学は看護学科の創設から、未だ12年しか経っていません。教員の流動性も高く、卒業生が後進を育てる流れはこれからの課題です。勿論、必ずしも卒業生が教員になる事が最善とは限りませんが、本学の看護学科の発展には、卒業生が後輩を指導するという好循環を築いていく事が大切だと考えます。修士課程の開設により、この循環が実現し、看護学教育の高度化に繋がる事を期待しています。

自主的な学びと国際交流の機会を提供

——医学科で行われている教育の特長はどの様なものですか。

宮澤 本学は、理想の学びを求めた学生達の運動を契機に創立された大学であり、その建学の精神は「自主自学」です。医学科では、この精神を実践する為に「自由な学び系科目」を導入している事が特長の 1つです。例えば「リサーチ・コース」では、研究室に所属して研究の方法論から学びます。現在47名が在籍し、学生達の研究成果は様々な学会で受賞していますが、年間2〜3名は大学院生に劣らない英語の原著論文を書き上げています。「海外臨床実習コミュニケーション」では、第6学年の海外臨床実習に向けた事前学修を行い、今年は20名が9カ国12施設で4週間の臨床実習を体験しました。米国医師国家試験の受験に向けた「USMLE受験準備コース」では、昨年は1名がStep1に合格しました。「地域医療リーダーズコース」は、第1〜5学年に掛けて段階的に地域医療を学び、総合的な臨床能力を身に付けます。

——学生の受講状況と手応えをお聞かせ下さい。

宮澤 全学生の20%が自由な学び系科目を受講しています。これらのコースは進級査定には関係なく、その選択は全て学生の自主性を尊重し、教員はそれをサポートする形になっています。23年には新たに「Road to Top Surgeon」を開設しました。近年、外科医を選択する医師が減っている事から、これを打開する為に本学の外科系スタッフが考案したコースで、外科的な基本手技を学んだり、ロボット手術や内視鏡手術のトレーニングシミュレーターを用いた手術を体験したり、VR(バーチャルリアリティー)を用いて血管や臓器を3次元で観察し、解剖理解を深めるといった教育を行っています。更に、本コースを修了した学生には認定証として「Future Top Surgeon」というバッジが授与され、臨床実習では研修医と同レベルで手術の助手を務める事が出来る仕組みになっています。バッジを獲得する事が良い目標となり、学生のモチベーションを高めています。


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