
本シリーズ第183回で、ファモチジン中止により速やかにせん妄が消失した例と、中止せず続けて害反応‐処方カスケードに陥り死亡した例を示し、害反応‐処方カスケードを防止するためには、知識を持つこと、疑って中止することの重要性を強調した。
薬のチェックでは120号1)でも、せん妄から害反応‐処方カスケードの症例を示し、この問題を検討したのでその概略を紹介する。
症例1:睡眠剤で殺人に至った例2)
68歳女性。脳梗塞後遺症の70歳の夫と2人で飲酒後、睡眠剤のブロチゾラムを約6錠服用し入眠。深夜に夫を絞殺。翌々日昼頃、正常に戻り、泣いて謝罪した。報告鑑定医は「明らかな意識障害に基づく犯行と判断し、犯行時は責任能力がない、つまり心神喪失に相当する状態」と鑑定した。
害反応の判断には、薬剤を服用していない状態での、その人の言動と比較してかけ離れ、自己の行為の是非・善悪の弁別能力を欠くほどに意識が障害された状態にあるかどうかの判断が重要である。
症例2:せん妄の一部消失、一部残存3)
87歳女性。7年前から口腔内疼痛、2年前から疼痛の頻度が増し、8カ月前には胸痛と呼吸困難で救急病院に搬送、異常は指摘されなかったが、症状が持続するため受診し、パロキセチン(10mg/日)が処方された。パロキセチン開始3日後に、午前4時に起床、娘たちに何度も電話をかけた。多弁、多動、脱抑制、激越、易怒性、攻撃性、不眠などの躁病様症状を呈し入院。入院時、MMSEが22点で、認知機能低下。
パロキセチンによる躁病様状態が疑われ、パロキセチンを中止。中止3〜4日後に焦燥、易刺激性、多弁、多動、脱抑制、不眠症は改善・消失した。
しかし、小刻み歩行や硬直などパーキンソン症状、妄想を呈し、レビー小体型認知症と診断され、妄想に対してアリピプラゾールが処方された。
認知機能低下やパーキンソン症状、妄想もパロキセチンによると考えられるが、アリピプラゾールが処方されるとパーキンソン症状は悪化する危険があり、害反応‐処方カスケードに至った可能性が疑われる例と言える。
モンテルカストによる小児の精神症状4)〜6)
症例34):6歳男児。気管支喘息にモンテルカストが処方され、5日後から登校拒否、癇癪、易怒性、暴言および身体的暴力などが現れ2〜3週間原因が不明であったが、モンテルカストを中止し1週間後に症状が消失。
症例45):13歳男児。モンテルカスト服用24〜36時後に幻覚で入院。中止後消失。
症例56):14歳男児。攻撃的行動と希死念慮で入院。モンテルカストを中止して症状は消失した。過去にも2年間モンテルカストを服用中に躁症状が生じたことがあった。
上記の3症例はいずれも中止により症状は改善・消失しているが、元の症状との比較がなければ、精神症状のため、抗精神病剤が処方され、害反応-処方カスケードに陥っていく危険性がある。
ロイコトリエン受容体拮抗剤のモンテルカストが精神神経系に作用する機序も判明している。サイトカインに影響する薬剤は、精神、神経系にも作用するものだ、ということを認識し(知識を持ち)、疑って中止することの重要性を再度強調したい。
参考文献
1)薬のチェック、2025:25(120):80-87
2)工藤行夫ら精神医学 1996:38(1):97-99.
3)Kimura T et al. Psychogeriatrics 2009; 9: 139-142
4)Jouhar HA et al. Prim Care Companion CNS Disord. 2024;26(5):24cr03750.
5)Kocyigit A et al. Iran J Allergy Asthma Immunol 2013;12(4):397-9.
6)Callero-Viera A et al. J Investig Allergol Clin Immunol 2012;22(6):452-3.
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