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第184回 浜六郎の臨床副作用ノート ◉ 抗凝固剤による害:過多月経

第184回 浜六郎の臨床副作用ノート ◉ 抗凝固剤による害:過多月経

女性は、妊娠・出産前後に静脈血栓や肺塞栓症のリスクが高まる。避妊目的もしくは月経困難症のために低用量ピルを使用した場合にも静脈血栓や肺塞栓症のリスクが高まる。

もともと、血液凝固を起こしやすい素因の人が欧米人では多いうえに、低用量ピルの服用率が欧米では20〜40%と高く、米国では、30代の女性は年間2000人に1人くらい、40代では年間1000人に1人程度に静脈血栓塞栓症もしくは肺塞栓症を起こしている。日本でも、低用量ピル使用者には高頻度に起こりうる。

今回、薬のチェック1)では、静脈血栓や肺塞栓症を起こした女性に対して治療目的で使用した抗凝固剤で、日常生活に支障がでるほどの過多月経が起こったことをまとめたPrescrire誌の記事2)を取り上げた。その概要を紹介する。

コホート研究2つの結果

2022年と23年に発表された2つのコホート研究によると、静脈血栓塞栓症または肺塞栓症のために抗凝固剤治療を受けている50歳未満の女性の3人に2人が、日常生活に大きな影響を及ぼすほどの厄介な過多月経を経験していた。

抗凝固剤の種類は様々で、ワルファリンや、直接型抗凝固剤(DOAC)や低分子ヘパリン製剤である。過多月経は、服用開始後、最初の月経時から起こっていた。

説明以上に出血量が多い

重症の過多月経を経験した女性は、抗凝固剤治療を開始するにあたり、月経量が多くなるとの説明を受けていたものの、実際の出血量の多さに驚いた人がいた。しかし多くの場合、医療従事者に報告することなく、黒っぽい服や古着を着たり、座ることを避けたり、敷いたタオルの上に座るなど自分で工夫していた。

月経期間中は、月経痛や血液の漏れを恐れて、家族や友人と会ったり外出したりすることを避け、不安を覚え、自信を喪失し、孤立感を味わい、集中力が低下して、仕事だけでなく、家庭生活や社会生活にまで支障をきたしていると訴えていた。

過多月経のために貧血

過多月経のために貧血を起こし、その結果、過多月経であった女性の3分の1で、鉄剤の補給や輸血が行われていた。手術で子宮を摘出した人が1人いた。抗凝固剤の使用量を自分で減らしたり、治療を中断したりする人もいた。この場合は、血栓症が再発する危険を冒すことになった。

女性に抗凝固剤を使用するなら厳重注意

月経年齢の女性が抗凝固療法を開始する際は、害反応として、月経時の出血量が想定以上に増えることや出血が長期化する可能性を十分に説明する必要がある。

また、抗凝固剤をすでに服用している患者には、貧血を疑わせる症状(呼吸困難や疲労感、顔面蒼白、動悸、頻脈、頭痛、失神、めまい、耳鳴りなど)に注意し、貧血がある場合、経口で鉄剤使用が必要、など処方に際して十分に説明を要する。

また、抗凝固剤による過多月経の治療に抗線溶剤のトラネキサム酸は血栓症を引き起こす可能性があり、害反応-処方カスケードにつながる恐れがあり、不適切である。

子宮病変の存在の可能性を考慮して精査の上、病変がなければ、月経出血量が多い患者には、月経量を減らすために、レボノルゲストレル含有の子宮内避妊器具の使用を勧めたほうがよい。

参考文献

1)薬のチェック、2025:25(119):64-65
2)Prescrire Int. 2025:34(268):76-77

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