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「右のポピュリズム」は参院選で何処まで伸びるか

「右のポピュリズム」は参院選で何処まで伸びるか
石破首相続投なら連携相手は維新の「お友達」?

「参院選の焦点は右の国民民主党、左のれいわ新選組という2つのポピュリズム(大衆迎合主義)政党が何処まで勢力を伸ばすかだ。或る意味、日本の政治の岐路と言えるかも知れない」

 年金制度改革関連法案の修正で自民党、公明党、立憲民主党の3党が合意した5月下旬、公明の支持母体・創価学会の或る幹部は石破政権が少数与党で迎えた今年の通常国会を何とか乗り切れそうな情勢に安堵しつつ7月の参院選へ向けた懸念を口にした。

 本稿が読者に届く頃には6月22日投票の東京都議選が終わり、与野党は参院選(7月3日公示—20日投開票)の攻防に突入している。都議選に関しては、選挙前の議席がゼロだった国民民主、れいわに加え、昨年の東京都知事選で小池百合子知事に次ぐ2位に入った石丸伸二前広島県安芸高田市長が設立した地域政党「再生の道」が、どの程度の議席を獲得するか。昨秋の衆院選で「手取りを増やす」をキャッチフレーズに掲げて躍進した国民民主が「都民の手取りを増やす」と訴えた結果は、消費税の減税が争点となりそうな参院選の行方を占う先行指標となる。

 消費税廃止や国民への現金給付を唱えるれいわを「左のポピュリズム」と評するのは分かるとして、国民民主の主張は果たして「右のポピュリズム」なのか。「年収103万円の壁」議論に振り回された与党の立場から見れば、7兆から8兆円が必要とされる財源を示さずに課税水準を178万円に引き上げる様主張する国民民主の姿勢は正に「減税ポピュリズム」。所得税の基礎控除を引き上げれば、低所得層のみならず納税者全般が大規模減税の恩恵に浴する。昨秋の衆院選はそれを「壁の引き上げ」「手取りを増やす」という耳触りの良い表現に包んだ国民民主の作戦勝ちではあったが、その勢いは都議選、参院選でも続くのか。

「手取りを増やす夏」の柱は大規模減税

 その国民民主が物価高対策として主張しているのが消費税の一律5%への時限的な引き下げ。年収の壁を178万円に引き上げる主張も継続しており、「手取りを増やす夏」を掲げた国民民主の参院選公約の柱はやはり大規模減税だ。危機感を強める与党側も公明が食料品の消費税を5%に引き下げる減税公約を検討したが、最終的に見送った。社会保障の財源に穴を開ける訳にはいかないという「責任政党」としての判断だったが、これによって「消費税減税」の是非が与党と野党を分ける参院選の大きな争点に位置付けられる事になった。

 野党では、立憲民主が1年間、日本維新の会が2年間の食料品消費税ゼロを掲げた。冒頭の創価学会幹部は何故、立憲民主と維新の減税政策を「ポピュリズム」呼ばわりせず、国民民主を「右のポピュリズム」、れいわを「左のポピュリズム」と敵視するのか。裏を返せば、公明・創価学会が立憲民主、もしくは維新に参院選後の協力を期待しているという見方も出来る。

 参院選へ向け石破茂首相は「非改選議席を含めた与党過半数」を勝敗ラインとする考えを示している。参院は248議席の半分124議席ずつが3年毎に改選される。自公は22年の参院選で獲得した75議席が非改選の為、今回の参院選は50議席を確保すれば過半数を維持出来る。極めて低いハードルだが、第1次安倍晋三政権時の07年参院選で自公は46議席に留まる大敗を喫して参院の過半数を失い、09年衆院選で政権を旧民主党に明け渡した。当時と異なるのは、今回既に自公が衆院の過半数を失っている点だ。自公が参院でも過半数を失えば、石破首相は退陣するだろうが、だからと言って野党政権の誕生は見通せない。可能性が高いのは自公が野党の一部を取り込む連立の組み換えだ。

 自公が参院の過半数を維持出来たとしても、衆院の過半数を持たない少数与党政権である状況は変わらない。国会で予算や法律を通そうとする度に野党の一部に協力を求めなければならない不安定な政権運営を続けるよりは、野党の一部を取り込んで政権の安定化を図ろうとする力学が働く。つまり、参院選で与党が勝とうが負けようが、今夏以降に連立の組み換えが起きる前提で、与野党が激しい駆け引きをしてきたのがこの半年間の国会攻防だった。

 通常国会前半の予算修正では、与党は年収103万円の壁を160万円に引き上げる譲歩を示したが、基礎控除の拡大に所得制限を設けた事に国民民主が反発し、3党の協議は決裂した。一方、高校授業料の無償化方針では維新と合意し、維新から新年度予算への賛成を取り付けて予算審議を乗り切った。通常国会後半には、年金制度改革関連法の修正で立憲民主とも合意。野党3党には元々、結束して与党に対抗するつもりは無く、与党側は野党3党を天秤に掛けながら政策テーマ毎に連携相手を変える戦術を取る中で、参院選後の新しいパートナーを選ぶ交際準備を重ねてきたと見る事も出来よう。

「玉木首相」「野田首相」の憶測も

そうした前提を頭に入れて冒頭の創価学会幹部の発言を聞くと、国民民主を「右のポピュリズム」と見做して突き放す公明・創価学会の雰囲気が伝わってくる。穿った見方をすれば、国民民主の玉木雄一郎代表が選択的夫婦別姓法案の成立阻止に動き、自民保守派に秋波を送った事への牽制が「右のポピュリズム」の「右」の修辞に含まれているとも解釈出来る。選択的夫婦別姓制度の導入に本来賛成の国民民主だが、仮に参院選で与党が大敗し、石破首相が退陣した暁には、自民内の保守派と連携して「玉木首相」の誕生を画策するのではないか、との観測が囁かれているからだ。

 自民内では、昨年の党総裁選で石破氏に敗れた高市早苗元政調会長が消費税減税を主張している為、高市氏を支持する保守派が減税で国民民主と連携し、「ポスト石破」政局の主導権を握ろうとするのではないかとの憶測も永田町界隈を賑わせている。

 そう考えると、〈参院選で自公過半数維持——石破首相続投〉のシナリオに於ける新たな連携相手は立憲民主か、維新か。立憲民主の野田佳彦代表と維新の前原誠司共同代表は何れも石破首相との関係は悪くないが、特に石破、前原両氏は政策面では国防族、趣味の面では鉄道オタクという共通点で繋がり、長年親交を温めてきたお友達。実は人見知りするタイプの石破首相が最初に連立入りを求める相手としては前原氏が有力視される。昨年12月の維新代表選で勝利した吉村洋文代表(大阪府知事)が前原氏を共同代表に指名したのは、大阪・関西万博の成功に向け石破政権の協力を期待したものともされ、実際に予算審議等で連携の実績を重ねてきた。

 立憲民主が連立に参加するとすれば、自民が首相ポストを立憲民主に差し出す「野田首相」誕生のシナリオも想定されよう。只、石破首相が自民総裁の座に留まったまま首相ポストを明け渡す展開は考え難い。〈参院で与党が過半数割れした責任を取って石破首相が退陣——自民の後継総裁に小泉進次郎農相が就任——小泉総裁が自身より年長の野田氏に首相就任を要請〉のシナリオならアリか。

 比較第1党ではない少数党の党首が首相に就いたケースとしては、94年に発足した村山富市政権が思い起こされる。前年の衆院選で敗れて下野した自民が1年も経たず政権に復帰するのに際し、長年対立してきた社会党との連立に踏み切り、社会党の村山委員長を首相に担いだ。与党と言えば自民、野党第1党は社会党という55年来の戦後政治体制に終止符が打たれ、社会党の党勢はその後、社民党に党名を変えながら衰退の一途を辿り、令和の今に至る。参院選後、新たに日本政治史の画期を成す大政局が待っているのだろうか。

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