
高齢者施設の需要増が見込まれる中、優良な有料老人ホームを確保するには——。
厚生労働省は4月、「有料老人ホームにおける望ましいサービス提供のあり方に関する検討会」を開き、議論を始めた。同省には一部悪質な有料老人ホームの淘汰を進めたい意向も有る。只、強い規制は新規参入への障壁となり、施設を増やす狙いに逆行する。同省幹部は「どうバランスを取るか、悩ましい」と口にする。
高齢者施設には様々なタイプが有り、費用もまちまち。又、一口に有料老人ホームと言っても、①介護付きのホーム②住宅型(介護が必要となった段階で外付けのサービスを利用)③健康型(介護が必要となったら退去)が有る。入居費用や退去時に戻ってくる金額、サービス内容、重度化しても入居し続けられるのか等が分かり難い施設も有って利用者は選び辛い。更に一部施設では入居者に同一法人の介護サービスしか使えない契約を迫る等の「囲い込み」や、例え不必要であっても介護保険の利用限度額一杯迄サービスを提供、といった悪質な手口が横行している。囲い込みは過剰サービスになりがちというだけでなく、必要が有るサービスでも当該業者が提供していなければ受けられない、という状況に陥る。
4月14日の同検討会では、こうした現状を改善する必要が有るとの声が相次ぎ、「効果的な指導や監督が可能となる基準を設けるべきだ」「有料老人ホームは今の届け出制を止め、登録制に見直す事を検討すべきだ」との指摘が飛び出した。委員の一人、横浜市の担当課長からは「指導を聞き入れない業者もいる。それなのに届け出制である以上、受理せざるを得ない」との訴えも有った。
有料老人ホームを経営する企業で、ケアマネージャーをしていた経験の有る男性は「上司の強い指示で限度額一杯サービスを提供するケアプランの作成をさせられ、不要なサービスを積み上げていた。全国で同様の事が行われているならどれだけの無駄が生じていたのかと思ってしまう」と話す。
但し、高齢化によって施設は増やさざるを得ない面が有る。厚労省老健局高齢者支援課によると、有料老人ホーム(施設数1万6543棟、定員64万5845人)やサービス付き高齢者向け住宅(同8222棟、同28万3487人)については、2014〜24年の10年で▽90歳以上の入居者の割合が最多に(3〜4割)▽要介護3以上の重度者の割合が48・9%から55・9%に上昇——という状況に在る。介護付きホームでは死亡退去が59%を占める等、「終の棲家」と化している。とりわけ地価が高く、特別養護老人ホーム等の介護保険施設の整備が困難になって来ている大都市圏では、有料老人ホーム等の参入が施設への入居を必要とする人の受け皿として期待されている。
こうした点を踏まえ、検討会では日本医師会の委員から「悪貨(一部の悪質業者)対策の為、良貨(多くの適切なサービスを提供している業者)の流通に支障を来してはいけない」と、規制を強化し過ぎる事への慎重論が出された。高野龍昭・東洋大学教授は「基本は市場原理の中で良質なサービスが選ばれる様にすべきだ」と指摘した。利用者ファーストのサービス提供が必須だろう。
厚労省は同検討会で夏頃に結論を纏め、議論を社会保障審議会の介護保険部会等に引き継ぐ事を想定している。悪質な業者は排除し、利用者が施設を選び易くなる様にする一方で、新規参入を促す事が出来るラインはどの辺りなのか。厚労省幹部は「悪質な事例を見逃してもいいと考えている委員は誰もいない。情報開示を強化し施設を比較検討出来る様にする事は一つの解になるだろう」と話す。
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