SHUCHU PUBLISHING

病院経営者のための会員制情報紙/集中出版株式会社

未来の会

新NISAで投資ブームが加速 政府の目論見通り?

新NISAで投資ブームが加速 政府の目論見通り?

グローバル化と共に変わる日本人の金融行動

「投資」が一大ブームとも言える状況になっている。失われた30年を経て、日本の国内株式市場では昨年、日経平均がバブル期以来となる史上最高値を更新した他、最近では金価格も最高値を更新。株価上昇は海外機関投資家の大量買いが背景だが、新NISA(ニーサ)導入から一般の個人投資家が市場へ参入した事も活況の大きな理由だ。

しかし、これ迄のゼロ金利状態が解消され「金利が無い時代」から「金利が有る時代」に転換した他、トランプ関税による世界的な景気悪化も懸念される等、投資を取り巻く環境は激変の最中にある。果たして、個人はこうした状況で投資をしても大丈夫なのか?  現況について探ってみた。

グローバル化の中でお金に対する意識が変化

投資がブームになったのは戦後の日本経済に於いて今回が初めてではない。高度成長期の1960年代初頭、最初の東京五輪を控えた頃は、銀行預金から証券会社が販売する投資信託へお金がシフトし、「銀行よさようなら、証券よこんにちは」と言われていた。その後、五輪景気の反動で景気が後退すると証券不況となったが、投資が庶民の間で根付かなかったのは、経済発展を支えた企業の資金調達が直接金融(株式発行)ではなく、間接金融(銀行融資)が主体であった為と考えられる。

それと同時に、米国を始め主要先進国の中でも、日本は金融リテラシーが低かった事も要因として見逃せない。お金の話をする事さえ、どこか後ろめたさを感じさせる社会の風潮が有り、「資産を増やす為に資金を投じる」投資が市民権を得られる筈が無かった。投資=ギャンブルであるといった偏見さえ、少し前迄有った。

しかし、グローバル化の進展によってマーケットは大きく変化し、個人の意識も変わって来ている。少子高齢化社会の到来で年金財政が心配され、長期に亘るデフレが景気低迷を呼び、ゼロ金利の為に預貯金だけでは金融資産を増やせなくなった。

そこで、預貯金の様に金融機関が破綻しても一定額が守られるペイオフが適用されないリスクが有るものの、資産を増やす為に投資を行う個人が増えて来たのである。

NISAの創設等、増やした資金を税制で優遇する政策の後押しも有った。投資に資金を呼び込む目的で始まった制度は、スタートしてから10年余りで株式市場に多くの資金を流入させ、政府の目論見通りに進んだ様に見える。

新NISAが新たな投資家を生み出す

では、投資ブームを後押ししたNISAとはそもそも何なのか、改めてここでおさらいをしてみたい。

NISAとは愛称で、正確には「少額投資非課税制度」と言い、株式等の金融商品で得られる「インカムゲイン」(配当金や利息)と「キャピタルゲイン」(値上がり益)の両方に課される税金が非課税となる制度である。対象商品は、投資信託、国内株式、外国株式だ。

英国で1999年6月に始まった個人貯蓄口座(Individual Savings Account、略称ISA)を参考にした制度で、日本版ISA、つまり「NipponのISA」という事で、NISAと呼ばれる様になった。制度は2014年1月にスタートし、16年4月から「ジュニアNISA(未成年者少額投資非課税制度)」、18年1月から「つみたてNISA(非課税累積投資契約に係る少額投資非課税制度)」、そして24年1月からは長期的な資産形成に適した「新NISA」が開始された。

新NISAは岸田文雄前内閣が打ち出した資産所得倍増プランに沿った施策で、24年投資分より非課税期間の恒久化や投資上限額の拡充が図られた。積み立て投資枠と成長投資枠の併用可能化、年間投資枠の拡大、非課税保有限度額の設定(最大1800万円)、受入可能商品の見直しも実施。折からの株価上昇も有り、新NISAは個人マネーを株式市場に取り込む契機となり、日経平均が昨年34年振りに最高値を更新し4万円台を達成する原動力になった。

日本証券業協会(日証協)が25年2月に纏めた「新NISA開始1年後の利用動向に関する調査結果」によると、新NISAを活用して購入した資金の出所は「預金・給与所得・年金」が74・9%と最も高く、 「旧NISAの保有銘柄の売却資金」の12・8%や「課税口座(NISA以外)の保有銘柄の売却資金」の11・2%を大きく上回った。これは新しい資金が流入している証拠だ。

投資信託への資金流入は過去最高の水準に達しており、最近の報道では金融庁が高齢者向けの「プラチナNISA」創設の検討に入ったとされる等、更なる広がりが期待される。日本の個人金融資産は高齢者に偏在している為、預貯金からお得感も有る金融商品への資金シフトを促す可能性が有る。

短期間で結果を求める制度ではない

この様に新NISAによって株式市場に大量の資金が流入したが、急速な円高により昨年8月には日経平均がブラックマンデーを超す史上最大の下げ幅を記録。2年目となる今年も、年明け暫くは堅調だった相場が、トランプ関税に翻弄される形で急落する等、新NISAを切っ掛けに参入した新人投資家には2年連続で厳しい洗礼となった。

当面の相場見通しについては、大きく崩れた後は短期投資家が「戻ったら売ろう」という動きを見せる為、日経平均が4万円を超えて上値を追うには時間が掛かると見る市場関係者が少なくない。しかも、株価動向を左右する景気の見通しも、トランプ関税により世界的に後退するとの懸念が強く、そうなると、せっかく新NISAで購入した株式が損失を抱える可能性が有る。

だが、この株式市場の波乱は、NISAの本来の目的と相場の動き、資産形成を冷静に考える切っ掛けになりそうだ。そもそも株式投資は、安く買って高く売り、利益を確保するもの。将来に備えて資産を形成しようとするのであれば、今の様に株価が下げている場面は、寧ろ買い時なのである。勿論、例え長い目で見ているつもりでも、自分の持っている銘柄が目の前で下がるのは面白くない。それでも、投資は短期間で結論を出すものではなく、投機とは区別すべきである。NISAとは、短期間で利益を得る為に設立された制度ではないのだ。

実際、新人投資家達は、この波乱相場にどう対処したのだろうか?  日証協の調査によると、ブラックマンデーを超す下げが有った24年に保有株を全く売らなかった人の割合は約8割。この事から、本来の目的である投資を実践している投資家が大多数であり、安定した投資資金を市場に呼び込む事で、経済成長を支える役割を今後もNISAは果たして行く事が想定されよう。

陰謀論に注意、じっくり腰を据えて投資

最後に蛇足的ではあるが、NISAや株式相場の陰謀論について、誤った認識を持つと本当の意味で損をする恐れが有る為、注意喚起を促したい。

よく聞かれるのは、NISAが「集まって来た投資家をカモにする」という言説だ。具体的には「(NISAは)日銀が購入したETF(上場投資信託)や政府系ファンドが保有株を売る為の受け皿作りである」等というもの。しかし、そもそも売る動きが無いものに対して、受け皿も何も無い。更に、NISAがあたかも金融商品であるかの様な解説もなされるが、NISAは商品ではなく制度なので、こうした声は全くナンセンスだ。

又、株式市場に関しては、日本株に於ける海外投資家の売買シェアが6〜7割を占めている事実を踏まえ、「ユダヤ系の信託銀行が筆頭株主で乗っ取ろうとしている」といった類の話がよく聞かれる。しかし、信託銀行は顧客から寄託したものを保有しているだけで、議決権を行使する訳ではない。こうした説を著名評論家が唱えているのも始末に悪い。

少し勉強すれば、大半の陰謀論が滑稽なものである事が分かる筈だ。雑音に惑わされる事無く、投資対象と投資環境をじっくり観察し、腰を据えて投資したいものである。

LEAVE A REPLY

*
*
* (公開されません)

Return Top