
危機的状況の介護事業を救うのか、利用控えに繋がるのか
年末に取り纏める介護保険制度改革案の議論が大詰めを迎えている。最大の焦点は自己負担割合(原則1割)が2割となる人の収入基準を広げるか否か。これ迄2割対象者の拡大は3度先送りされており、厚生労働省は4度目こそ避けたい所。そこで収入基準を満たしていても定額の預貯金の無い人は対象外とする案を新たに示したものの、依然専門家部会等の議論は賛否が割れたままだ。
「制度見直しの度に負担増と給付抑制の繰り返しだ」「在宅生活の支援は継続困難になる事が早晩明らかになる」「『介護の社会化』の後退だ」
11月13日、介護サービスの提供側でもある「生活クラブ共済事業連合生活協同組合連合会」が主催し、東京都内で行われた集会「介護保険改悪STOP! いのちと暮らしを守る声を国会へ」では負担増を迫る政府に対する反対の声で溢れた。
集会では、現在の物価高の下で負担増を強行すれば利用控えに繋がる等として、出席した厚労省の担当者に、①原則1割負担の維持②ケアプラン作成は「利用者負担なし」を継続——等、5項目の要望書を手渡した。
だが、厚労省側は「慎重に検討します」等とつれない返事に終始。同日は国会内でも「介護保険改悪を止める院内集会」があり、負担増に対する慎重論が相次いだ。
介護保険の自己負担割合は収入に応じて3段階に分かれている。単身世帯で言うと、年金収入等で年収280万円以上の人は2割、更に「現役並み」の年収340万円以上の人は3割で、残りの人は1割だ。2〜3割の人はそう多くなく、全利用者541万人の内、2割が4・3%、3割は3・8%に留まる。残りの91・9%は1割負担で、正に「原則1割」となっている。
厚労省は、12月1日の社会保障審議会介護保険部会で、2割負担の対象拡大案として、2割負担の収入基準を「年収280万円以上」から「260万〜230万円以上」の4パターンへ引き下げた場合の試算を提示。最も対象が広がる「230万円以上」なら、新たに約35万人が2割負担となる。激変緩和措置として当面は自己負担の上限額を月7000円に抑える案も説明し、これにより介護費から自己負担を除いた介護給付費は約210億円抑制出来るとした。
審議の度に意見対立、何度も先送りに
介護保険で「要介護・要支援」と判断された認定者数は23年度末時点で708万3000人で、制度発足の00年度(約256万人)の2・8倍へと増えた。65歳以上は全体の19・7%となっている。
これに伴って23年度の介護給付費は10兆2758億円に達し、こちらも3・2倍に膨れ上がった。この間、制度を利用する65歳以上の平均月額保険料は6225円と00年度当時から倍増し、40〜64歳の現役世代の保険料については平均6202円と3倍になっている。
与党が「現役世代の保険料負担軽減」を求める中、財務省は11月11日の財政制度等審議会(財務相の諮問機関)の分科会で「増加する介護費用をより公平に支え合う観点から、2割負担の対象者の範囲拡大を実現すべき」と指摘。所得上位30%の高齢者世帯には平均1000万円以上の貯蓄が有るとして、「2割対象者を拡大してもサービスの利用控えには繋がらない」との見方を示した。
又、株式譲渡益や配当の確定申告の有無で負担に差が生じる現状を改める様求めた。こうした財務省の牽制は毎度の事で、厚労省も2割対象者の拡大は早くから目指してきた。
しかし、有識者等の会議では審議する度に意見が対立、厚労省が意見を一本化出来ない状況が続いている。1度目は24年度改定の議論の終盤、22年末。この時も年内に結論を得る筈だったが、結局最後は「遅くとも23年夏迄」へと結着をずらした。その23年夏が迫ると今度は「23年末迄に結論を得る」と半年の先送り。更に23年末を迎えると今度は「27年度の前迄に」と又も逃げ、計3度、結論を出すのを避けてきた。
「27年度の前迄に」という方針を受け、25年6月に閣議決定した政府の「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太の方針)では「25年末までに結論が得られるよう検討する」と明記した。そして間もなくその期限を迎えようとしている。
だが、社会保障審議会の介護保険部会等でも負担増に関しては利用控えを懸念する慎重派と、現役世代との負担格差是正や介護保険財政の健全化を訴える推進派の歩み寄りは起きていない。厚労省幹部は「又も延期となれば相当苦しい」と漏らし、焦りも窺わせる。
苦肉の策で年内決着を狙う厚労省
何とか年内の落着を狙う厚労省は、12月2日、所得基準額の引き下げとセットで、預貯金が700万〜300万円以下等(単身世帯のケース)なら1割負担のまま据え置く案も示した。基準額を230万円に下げ、預貯金300万円以下の場合、新たな2割負担者は、預貯金を加味しない場合より約13万人減の約22万人になるという。
しかし、慎重派から「高齢世代の資産は取り崩される。物価高騰の折、利用者には大きな影響がある」という反対の声も上がり、意見が集約される事は無かった。
所得を基準とした負担割合の見直しを今の様なインフレ局面で進めるには慎重な検討を要する。物価高が続く中では高齢者の名目の年金額も物価スライドによって自動的に増える為だ。年金の名目額が増えても実質価値は変わらず、生活水準は向上しない。にも拘らず名目年金のアップで2割負担や3割負担の所得基準に達してしまう人が出てくる。
介護現場は『保険あってサービスなし』目前
「正直、危機的です。一体何時迄この綱渡りが持つのやら」。首都圏東部で訪問介護事業を手掛ける事業所の所長はそう話す。先日もヘルパーが足りず、利用者の訪問依頼を断らざるを得なかった。雇用するヘルパーも60代、70代が多く、櫛の歯が欠ける様に辞めていく。給与水準の低さからして、新規採用は絶望的だ。
「派遣を断らざるを得ない人も、ずっと前から保険料を払ってきた人達です。介護保険制度発足時に陥る事が懸念されていた『保険あってサービスなし』が目の前で起きようとしています」
高市早苗政権も介護保険の危機的状況には目を向けている。制度改革とは別に、本来3年に1度で次回は27年度の筈の介護報酬改定について、政権は26年度に前倒しする検討に入った。介護職員の賃金アップが最大の目的で、介護報酬の「処遇改善加算」拡充を目指す。
又、25年度補正予算案でも介護事業者向けに1920億円程度を用意し、介護職員1人に付き、最大で月額1万9000円のアップに繋がるよう補助をする。只、これらの案は保険料アップや税の負担増として国民に跳ね返って来る。現役の負担軽減に結び付く給付抑制策とどうバランスさせるのかは極め付けの難題だ。
厚労省は介護保険料や自己負担割合の算定に株式配当等の金融所得を反映させる方向で検討を始める。この他、自民党と日本維新の会は政権の連立合意書に「高齢者の定義見直し」も盛り込んでいる。「65歳以上」という年齢基準を更に引き上げ、少なくとも60歳代は「現役世代」扱いとする事で高齢者の給付を減らしていく意向を示唆している。
期限の迫る次期27年度介護保険制度改正を巡っては、2割負担の対象者拡大に加え、ケアプラン(介護サービスの計画)の有料化や、要介護1、2の人の生活援助サービス等の市町村事業への移行等も議論されている。
だが、厚労省幹部が「又か、と言われる中身」と自嘲する様に、何れも賛否が分かれてしまい、結局結論を出せずに残ってきた「宿題」ばかりだ。この幹部は「難しいからこそ、成案とならずに残っている。正直、論点は出尽くしており、このまま『宿題』は残されたまま、行き詰まってしまい兼ねない」と危機感を口にする。



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