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認知症薬のめり込み、エーザイ「大博打」経営の不安

認知症薬のめり込み、エーザイ「大博打」経営の不安
大企業で異例の過剰な身内登用、「内藤商店化」も進行中

今期は抗がん剤「レンビマ」が1500億円突破、減益予想も前向き開発投資のためとエーザイは好調ぶりを謳うが、内実は違う。

 エーザイと言えば、君臨30年を超す代表執行役CEO(最高経営責任者)・内藤晴夫氏のワンマン経営が代名詞。永山治氏が中外製薬のトップを去った後は一族経営の国内製薬大手はエーザイのみだ。

 「内藤商店」エーザイの内実を示すほんの一例だが、ある関係者は「(晴夫氏が)自社の発表文全てに目を通している」と打ち明ける。

 30代で晴夫氏は文系出身者では異例の研究開発部門を統括、筑波研究所(茨城県)の研究者達を𠮟咤激励し、苦難の末、世界初のアルツハイマー型認知症(AD)治療薬「アリセプト」の上市に成功。後にピーク年商3200億円の大型商品に育ち、後発組のエーザイを一気に大手の一角に押し上げたのは有名だ。

 晴夫氏の功績は大きいが、それが今やワンマン体制の長期化とともに変質し、エーザイに危険な兆候が忍び寄り始めている。

娘婿、息子の3人が“役員”に

 身内の過剰登用の布石はこの時に打たれていたのだろう。

 昨年5月9日、創薬イノベーション等の加速を狙いベンチャー投資を開始するとエーザイは発表した。直後の13日にはそのための組織としてコーポレートベンチャーインベストメント(CVI)部を創設。同年6月4日にはCVIの主導役職ストラテジックインベストメントオフィサーという肩書で有賀学氏が6月1日に就任したと発表された。

 有賀氏は晴夫氏の次女の娘婿。2005年に当時ジャスダック上場の宝飾品企業の株式大幅分割とその前後の株価高騰・暴落の関連で株式市場から注目された人物。後から振り返ると、その人物のために150億円の投資枠を持つ組織・肩書が用意されたように見える。

 既にエーザイでは、晴夫氏の長女の娘婿アイヴァン・チャン氏が同社の看板の認知症等ニューロロジー(神経学)部門のプレジデントと最重要市場の米国法人会長を兼ねる常務執行役に就いている。

 長男の景介氏は30歳の若さで理事、19年6月には31歳で執行役ととんとん拍子の出世。新たに認知症のエコシステムを構築する戦略部門のプレジデント、そしてチーフデジタルオフィサーという次世代戦略のカギを握るポストを得ている。

 そこに、上場企業役員では異色の経歴をもつ第3の身内が加わる。業界内部からも「どうなっているのか」と疑問が出る始末だが、晴夫氏はこうした批判には意に介さない。

 今年6月には、有賀氏がエーザイのグローバル本社の執行役員に昇進した。エーザイの役員は「執行役」以上だが、「執行役員」はこれに準ずる。エーザイ級の上場大手企業では異例の事だが、既にエーザイでは感覚がずれているのだろう。

 就任後30年以上が過ぎた72歳の晴夫氏が後継問題を考える段階に来ている事がこの問題を複雑にしている。

 晴夫氏は「創業家出身のトップは自分が最後」と語る時期があった。

 しかし、この姿勢には変化が生じている。昨年2月の経済誌のインタビューで「(後継者が一族かどうかには)こだわってない。適任者であればという姿勢だ」と語ったのだ。自社の過去のトップ交代を引き合いに出し、後継候補は30代後半から50歳前くらい、とまで踏み込んだ。

 ちなみにチャン氏は現在43歳、景介氏は32歳だ。このインタビューの少し後には、景介氏が役員に駆け上がった。いくら、後継は社外取締役から成る指名委員会が決める事だとガバナンス体制を持ち出しても、晴夫氏の発言力は大きい。晴夫氏が一族継承に舵を切ったのだとすれば、これは大きな事件だ。

 晴夫氏の社長就任は1988年。当時と比べエーザイも大きくなり、投資家をはじめ社会の、エーザイの後継問題に対する見方も変化している。創業者一族即後継とすんなり受け入れられる環境ではもはやない。

 後継者は成果や力量を実証しないといけない。チャン氏、景介氏の重要ポジションへの配置も晴夫氏による、そのための布石のはずだ。

認知症で一発逆転の危うさ

 その意味でも、社運をかけるAD治療薬の成否は重要になるが、未だ不透明なのは気がかりな点だ。

 7月8日、AD治療薬「アデュカヌマブ」が半年遅れて米国で正式に承認申請された。

 ADでエーザイが提携する米バイオジェン主導で開発された候補薬。現在は両社の共同開発・販売の対象となっている。承認されれば、ADの進行抑制という、人類に福音をもたらす世界初の治療薬の誕生となる。

 アリセプト等の既存薬はADの症状を一時的に緩和するだけだ。2000年以降は、ADの根本原因をとらえ、認知力の低下等のADの進行抑制をもたらす次世代AD治療薬の開発に米ファイザーや米メルク等の世界的製薬大手がこぞって挑戦し、ことごとく討ち死にしてきた。

 AD患者数は現在5000万人、30年には1億5000万人に膨らむ見通しだ。承認されれば年商1000億円を超す大型商品化は必至。1兆円を狙える超大型商品への成長を期待する声も市場にはある。

 8月7日にはFDA(米国食品医薬品局)による申請受理が発表された。正式の審査入りとなり、エーザイとバイオジェンは胸をなでおろした。優先審査の指定も得て、審査期間も半年に短縮となり、来年3月7日までに承認の可否が出る。

 ただ、それでも今後の行方に楽観は出来ないのが、エーザイの悩みだ。有効性への疑問が大きいのだ。

 最終臨床試験(P3)で有効性が示せなかったという理由で昨年3月に一旦は開発中断を発表しながら、10月に有効性が示せたとして申請方針に転じたのは、異例な事だった。

 P3の2試験のうち、1つで主要評価項目を達成出来たが、もう1つでは有効性が示せなかった。バイオジェンは、小集団で詳細分析すれば、後者のデータの有効性が立証出来たと言うが、研究者、アナリスト等の間も意見は賛否両論、真っ二つ。

 FDAは外部の研究者等専門家を交えた諮問委員会の開催も予定する。侃々諤々の議論となるのは必須。FDAに大きな影響力を及ぼすここでの結論も注目だ。いずれにせよ、FDAの下す結果は、文字通りエーザイの命運を左右する。

 アデュカヌマブがこけても、P3段階の自社開発品「BAN2401」があるから大丈夫とは言えないのが、エーザイの泣き所。ADの原因をアミロイドベータというたんぱく質に求め、その除去を通じて治療効果を狙う原理は2剤に共通する。片方の失敗が、そのままもう片方の失敗に繋がるとの見方も強い。

 直近に屋台骨の主力薬の特許係争で敗けた上、最高財務責任者の退任が突然発表される等、パートナーのバイオジェンの経営が混迷するのも、エーザイには気がかり。

 「アリセプトの夢よ、もう一度」の晴夫氏の執念が実るのか、はたまた地獄を見るのか。世界の大手も二の足を踏む鬼門のAD治療薬の開発にのめり込む、逆張り経営への審判は思いのほか早く出る。

 

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